【完結】悪の華は死に戻りを希望しない

MEIKO

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第二章・葛藤

16・決意を新たに

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 私と両親は、あれから直ぐスレイド侯爵家を後にした。
 馬車に乗り込み、窓から屋敷をじっと眺める。
 私が二年間過ごした家…辛く悲しい事の連続だったけれど、もう二度と来ないのだろうな…と思うと、何故か寂しいような気持ちになった。だけど…

 「さようなら、もうお会いすることはありません…」

 私はシルフィとしての思いに決別する為にそう呟いた。この先は穏やかに、そして明るく生きていきたいから…

 侯爵家からグレン伯爵家までの道程をぼうっと外を眺めていると、母が声を掛けてくる。

 「ロディア大丈夫?かなり泣いていたけど…。ショックだったでしょう?シルフィのこと…」

 それに私が頷くと、今度はいつも無口な父が珍しく口を開いた。

 「シルフィには本当に悪かったと思っている。あの時は、莫大に膨れ上がった借金でどうにもならなくて。だけど、侯爵家の夫人になれるなら悪くないと思ったんだ!幸せになれるって…。それなのに聞こえてくるのは不仲な噂ばかりだった。それでまた借金してでもお金を返して、離婚させようと思っていたところであんなことに…」

 私は驚いた…私のことなど頭にないと思っていた。そうではなかった?

 「そうなの…。あなたは死にかけていて、これ以上はどうにもならなくて…。シルフィがあなたの為に侯爵家に行ってくれたのよ?だから、これからは二人分生きなさい!お兄さんの分まで…」

 意外にも両親は私のことも愛してくれていた…その事実が私の決意を新たにした。母が言ったのとは少し違うけど、二人分…いや、あの子の分まで三人分を背負って生きていかなければならないと──。


 それからは、今自分が出来ることから少しずつ始める。学園に通いつつ、ドビアス先生には剣術を習い、将来自分には何が出来るだろう?って。

 「ところでさ、デビットは将来何になりたいの?」

 「俺か?次男だからなぁ…。兄さんほどの剣の腕はないからさ、騎士団は難しいよ?領地経営をしている叔父の手伝いでもしようかなー?あっ、今度領地に行くからロディアも来いよ!」

 今、デビットの家のブロン伯爵家に遊びに来ている。私とデビットは、今では何年来の親友のようにお互いの家を行き来している仲だ。こんな他愛もない話ひとつひとつが楽しくて仕方が無い。

 「えっ、ホントに?行っていいの?楽しそうだねー!」

 「でも、相当田舎だからな!ロディア退屈しないかな?」

 そんなの大丈夫だよ!って答えて、長期休暇中の楽しみが出来たな…って嬉しくなった。こんな友達との楽しみなんて、シルフィの時は知らなかったな。

 「今日は父さんも家にいるし、いつから行くか聞いてみる?紹介するからロディアも行こうよ!」

 ──ブロン伯爵様に?ちょっと緊張しちゃうな…

 それで二人でブロン家の執務室に向かおうと部屋を出た。二階から下に降りて庭を眺めながら歩いていると、修練後なのか汗を拭きながら歩いて来るリチャードが見えた。

 「あっ、兄さん!お疲れ様~」

 その声にリチャードが笑顔でパッと顔を上げる。だけど、デビットの隣に私が居るのに気付くと困惑した表情を浮かべる。そして…

 「ああデビット。それから…ロディアも来ていたんだね。」

 あの階段での出来事から会うことが無かったけれど、久しぶりにリチャードの顔を見た。
 相変わらずの余所余所しい態度だけれど、名前を呼んでくれたのだから少しは馴れてきたのかも?と。

 「おじゃましておりますリチャード様。今日はお休みですか?剣の修練をされていたのですね。」

 私は微笑みながらそう挨拶して見上げると、ほんの少し表情が曇ったのが分かる。えっ…?

 「本当に…お兄さんとそっくりだね。最初会った…あの学園でのことはすまなかった。怒らせるつもりはなかったんだ。亡くなったお兄さんを侮辱するつもりも…」

 私はどういう事なのか分からず、困惑してリチャードを見つめた。

 「俺はお兄さんのシルフィが好きだったんだ。それこそスレイド卿と離婚して私の所に来て欲しいと思っていた。悪の華なんて、そんな名で呼ばれていい人じゃなかった…。それで何度もスレイド卿と話し合いをしたんだが、叶わなくて…」

 ──えっ、何度も話し合いを?離婚して欲しいと…
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