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第二章・葛藤
13・婚約者(ドミニクSide)
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俺はスレイド侯爵家の嫡男として生まれ、何不自由なく育てられた。
兄弟はおらず、侯爵家の子供は唯一人で。当時近衛騎士団の団長として職務に邁進していた父は、当然のように俺に期待した。
幼い頃から朝から晩まで剣術を磨いて、気付けばその抑揚の無い口調から、親しい友人なども居ない寂しい子供になっていた。
元々無口で何を考えているのか分からない…って言われていたから、当たり前といえばそうなんだけど…
そんな俺を変えたのは、それを心配して父が選んだ、婚約者の伯爵家令息のサウラ・エバンズとの出会いだった。
サウラはその時十歳で、男だけど子供が産める第三の性だと判明したばかりで、物凄く戸惑っていた。
その気持ちは俺にも分かる!自分がもしもそうだったら、きっと居た堪れない思いになるだろうし…
俺達は同級生だということもあり、直ぐ打ち解ける。もちろんそんな年齢で、婚約者なんて意識はお互いにない。俺にとっては初めて出来た友達で…一応婚約者として過ごしはするが、将来好きな人が出来たならその時に解消すればいいんだ!って、簡単に考えていた。
そんな俺達の関係が変わる決定的な事件が起こったのは十三歳の時だ…
「ドミニク遊びに来たよ!」
夏の長期休暇中のある日、サウラが侯爵家へ遊びに来る。朝の剣術の修練の時間が終わって、これから何をって思っていたから丁度良い。
「うん…いらっしゃい」
「アハハッ、相変わらず無愛想だね?そんなだから誤解されるんだよ!ダメだなぁ」
そう言って笑っているサウラに頷いて、取り敢えずお昼を共に取ることになった。二人で並んで食べていると、サウラの様子が可怪しいのに気付く。
「サウラ何かあったのか?いつもと違うだろ?」
そう言うと、サウラが驚いたように振り向いて、何で?って聞いて来る。
「何年の付き合いだと思ってるんだ?明らかに様子が可怪しいだろ?」
それにサウラは、本当に嬉しそうに笑った。
「流石だね?やっぱり僕の親友だ!アハハ」
俺は、無理して明るく振る舞ってるな?って思った。だけど、無理に聞くのはやめようと…きっと話したくなったらサウラから言ってくれるに違いない。
そして昼食を終えてから二人で、当てもなく外を歩いた。すると…
「あのね…僕、ちょっとだけ聖力があるらしいんだ。まだほんの少しなんだけどね?だけどこれ以上増えたら危ない!聖者として神殿行きが決まって、ここに居られなくなってしまう…」
サウラはそう告白してガタガタと震えた。
俺は驚いてサウラを見つめる。顔は青ざめていて、本当に嫌なんだと分かった。
「大丈夫だ!もう増えなければいいんだろ?この歳でほんの少しなら、可能性は低いよな?だから心配しなくていい。ほら!一緒にいてやるから!」
そう励ましながら手を差し出す。サウラはそれをぎゅっと握って、眩しいくらいに微笑んだ。
──俺は、その顔を見て複雑な思いがしていた…
サウラは美しい…誰から見てもそう言われるだろう。それは俺も認める…だけど、恋してはいない!
ある時から、サウラからの自分に対する眼差しが変わってきたのに気付いた。最初はまるで分かっていなかったが、やがてそれが恋なんだと分かった。
それに対して、気持ちを返せるのかを考えたけど、俺には無理だ!
──どうしよう?サウラは好きだが、友達としてだ!何とか親友のままでいられないものか…
そんなふうに考えながらぼうっと歩いていると、後ろから突如サウラが叫ぶ!
「ドミ前!蛇が居るよ!」
あっ!と思った瞬間、もう遅かった…考え事をしながら歩いていたせいで、思わず踏んづけてしまう。
「わっ!ああーっ!」
その蛇は身体を踏まれた事で驚いて、俺の右足首にぎゅっと巻き付き、それからガッと噛み付く!
その衝撃と噛まれた事によるショックとで一瞬気が遠くなったが、持っていた小剣でその頭を刺した。
「わーっ!ドミ…どうしよう…?だ、誰か呼んで来ないと」
サウラが動揺してしまって、その場に座り込む。
俺は噛まれたところよりも上をぎゅっと強く掴んでいたが、直ぐにその手に力が入らなくなる…
「サ、サウラ?落ち着いてくれ…今から、屋敷に戻っ、て…だ、誰か連れ、て来て欲しい!は、早く」
唇がわなわなと震え出し、マズいな…と思う。恐らく毒蛇だ…本当は毒を吸い出して欲しいけど、そんな事をサウラに頼める状態じゃない。動揺しきりで、うっかり飲み込んでしまうかも…
そのうち座り込んでいるのも辛くなる。もうとっくに掴んでいた手は離れ、だらりと垂れている。
──バターン!そして倒れ込んだ…
「ド、ドミニ…ク?」
震えながら俺を覗き込んでいるサウラを見ていたら、もうダメなんだと覚悟した。だけど、自分のせいなんだから仕方が無いと思った。
「ごめん…や、く、束は…果せ、そう…に、ない…な」
紫色になった唇で何とかそう言って、微かに笑う。
もしも俺が死んでも負担に思って欲しくなかったから…もしもというか、もう死ぬだろうが…
それから意識がどんどん遠くなる。あ…もう、と思った時、パッと光に包まれる。
──な、何だ?あ、温かい?
遠のく意識の中で、見えたのは光輝くサウラで…
それから俺が意識を取り戻したのは、一月後だった。
兄弟はおらず、侯爵家の子供は唯一人で。当時近衛騎士団の団長として職務に邁進していた父は、当然のように俺に期待した。
幼い頃から朝から晩まで剣術を磨いて、気付けばその抑揚の無い口調から、親しい友人なども居ない寂しい子供になっていた。
元々無口で何を考えているのか分からない…って言われていたから、当たり前といえばそうなんだけど…
そんな俺を変えたのは、それを心配して父が選んだ、婚約者の伯爵家令息のサウラ・エバンズとの出会いだった。
サウラはその時十歳で、男だけど子供が産める第三の性だと判明したばかりで、物凄く戸惑っていた。
その気持ちは俺にも分かる!自分がもしもそうだったら、きっと居た堪れない思いになるだろうし…
俺達は同級生だということもあり、直ぐ打ち解ける。もちろんそんな年齢で、婚約者なんて意識はお互いにない。俺にとっては初めて出来た友達で…一応婚約者として過ごしはするが、将来好きな人が出来たならその時に解消すればいいんだ!って、簡単に考えていた。
そんな俺達の関係が変わる決定的な事件が起こったのは十三歳の時だ…
「ドミニク遊びに来たよ!」
夏の長期休暇中のある日、サウラが侯爵家へ遊びに来る。朝の剣術の修練の時間が終わって、これから何をって思っていたから丁度良い。
「うん…いらっしゃい」
「アハハッ、相変わらず無愛想だね?そんなだから誤解されるんだよ!ダメだなぁ」
そう言って笑っているサウラに頷いて、取り敢えずお昼を共に取ることになった。二人で並んで食べていると、サウラの様子が可怪しいのに気付く。
「サウラ何かあったのか?いつもと違うだろ?」
そう言うと、サウラが驚いたように振り向いて、何で?って聞いて来る。
「何年の付き合いだと思ってるんだ?明らかに様子が可怪しいだろ?」
それにサウラは、本当に嬉しそうに笑った。
「流石だね?やっぱり僕の親友だ!アハハ」
俺は、無理して明るく振る舞ってるな?って思った。だけど、無理に聞くのはやめようと…きっと話したくなったらサウラから言ってくれるに違いない。
そして昼食を終えてから二人で、当てもなく外を歩いた。すると…
「あのね…僕、ちょっとだけ聖力があるらしいんだ。まだほんの少しなんだけどね?だけどこれ以上増えたら危ない!聖者として神殿行きが決まって、ここに居られなくなってしまう…」
サウラはそう告白してガタガタと震えた。
俺は驚いてサウラを見つめる。顔は青ざめていて、本当に嫌なんだと分かった。
「大丈夫だ!もう増えなければいいんだろ?この歳でほんの少しなら、可能性は低いよな?だから心配しなくていい。ほら!一緒にいてやるから!」
そう励ましながら手を差し出す。サウラはそれをぎゅっと握って、眩しいくらいに微笑んだ。
──俺は、その顔を見て複雑な思いがしていた…
サウラは美しい…誰から見てもそう言われるだろう。それは俺も認める…だけど、恋してはいない!
ある時から、サウラからの自分に対する眼差しが変わってきたのに気付いた。最初はまるで分かっていなかったが、やがてそれが恋なんだと分かった。
それに対して、気持ちを返せるのかを考えたけど、俺には無理だ!
──どうしよう?サウラは好きだが、友達としてだ!何とか親友のままでいられないものか…
そんなふうに考えながらぼうっと歩いていると、後ろから突如サウラが叫ぶ!
「ドミ前!蛇が居るよ!」
あっ!と思った瞬間、もう遅かった…考え事をしながら歩いていたせいで、思わず踏んづけてしまう。
「わっ!ああーっ!」
その蛇は身体を踏まれた事で驚いて、俺の右足首にぎゅっと巻き付き、それからガッと噛み付く!
その衝撃と噛まれた事によるショックとで一瞬気が遠くなったが、持っていた小剣でその頭を刺した。
「わーっ!ドミ…どうしよう…?だ、誰か呼んで来ないと」
サウラが動揺してしまって、その場に座り込む。
俺は噛まれたところよりも上をぎゅっと強く掴んでいたが、直ぐにその手に力が入らなくなる…
「サ、サウラ?落ち着いてくれ…今から、屋敷に戻っ、て…だ、誰か連れ、て来て欲しい!は、早く」
唇がわなわなと震え出し、マズいな…と思う。恐らく毒蛇だ…本当は毒を吸い出して欲しいけど、そんな事をサウラに頼める状態じゃない。動揺しきりで、うっかり飲み込んでしまうかも…
そのうち座り込んでいるのも辛くなる。もうとっくに掴んでいた手は離れ、だらりと垂れている。
──バターン!そして倒れ込んだ…
「ド、ドミニ…ク?」
震えながら俺を覗き込んでいるサウラを見ていたら、もうダメなんだと覚悟した。だけど、自分のせいなんだから仕方が無いと思った。
「ごめん…や、く、束は…果せ、そう…に、ない…な」
紫色になった唇で何とかそう言って、微かに笑う。
もしも俺が死んでも負担に思って欲しくなかったから…もしもというか、もう死ぬだろうが…
それから意識がどんどん遠くなる。あ…もう、と思った時、パッと光に包まれる。
──な、何だ?あ、温かい?
遠のく意識の中で、見えたのは光輝くサウラで…
それから俺が意識を取り戻したのは、一月後だった。
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