55 / 57
番外編
華麗なる辺境伯家
しおりを挟む
「これ…大丈夫?派手じゃないかな?」
黒の丈の長い総レースの上衣を羽織って、鏡の前に立つ。
同色で美しい刺繍が施されていて、まるで浮き出ているように見える。正面からみたその清楚な感じとは違って、背中は大胆に開いているデザインだ。
──こんなに背中が!?ここまで開いているなど、見せ過ぎじゃないだろうか?
急に不安になってマクシミリアンに聞いてみる。
それにマクシミリアンは徐ろに私に近付いて来て、腰をぎゅっと抱き首筋に口付ける。
「あ……ん。」
私が思わず身動ぐと、マクスは楽しそうに笑う。
──んんっ。イジワルだなぁ…
「ふっ、シルバの美しい背中が見えて官能的だな?私としては余り人には見せて欲しくはないが…だけど、凄く綺麗だ」
マクスのそんな率直な言葉に、思わず身体が熱くなる…
今、私達はベルード辺境伯家の王都邸に来ている。
三日後、この大帝国とカサンドラ国との友好国の締結二周年を祝う祝宴が開かれるのだ。
もちろん私達も招待されていて、その準備に余念がない。
今回は子供達も参加出来るので尚更だ。
エリオットとオスカーは六歳になり、下の娘のフェリシアはもうすぐ三歳で。
三人共、あっという間に大きくなって私とマクスは驚きの連続の毎日で。
エリオットとオスカーは今剣術に夢中で、競い合うように腕を磨いている。
マクスが二人の先生として指導しているのだが、その才能の片鱗を見せる成長ぶりに凄く嬉しそうだ。
フェリシアは流石女の子!まだ小さいのにお洒落に興味津々で。
最近は私の格好にも駄目出しされてしまうので、今その祝宴で着る衣裳を最終確認している。
「でもちょっと、背中開き過ぎだよね?こんな男なのに…」
それにマクスはちょっとだけ不機嫌そうな表情になり、そして…
…チュ、ッ…チュ
「ふぁっ!も…うン」
背中に何度も口付けされて、痺れるような快感を得て思わず甘い声が出た。
「シルバ…お前は誰よりも美しい。結婚して七年が過ぎようとしているが、ずっと初めて会ったあの頃のままだ。いつもなら艶かしい素肌を見せるのは私にだけにして欲しいが、今回は祝宴だから…特別に皆にも見せてやるとしよう」
そのマクスの言葉に少し勇気が出て、やっぱりこの衣裳でいいかな?って決心する。
祝宴では華やかな色を着がちだろうが、私は敢えて髪の色と同じ黒で…と。
「あまり気になるようなら、髪を結ばすに垂らしておいたらどうだ?こうやって片横に流しておくのも…やっぱりダメだ!妖艶過ぎる!」
ここに来てから伸ばし始めた髪が、丁度背中の真ん中くらいにまでなっている。マクスはああ言うけど、垂らしておくと背中が目立たなくていいかも?って思った。妖艶かな…?
逆にマクスは長かった銀髪を短くしていて、その爽やかだけど威厳がある姿に溜息で…。
それに笑うと目尻にちょっとだけ皺がより、それに何故かドキドキしている私がいる…大人の色気が凄いんだ!
──どうしよう…これ以上素敵になっちゃったら!困る~
そして祝宴当日──
「今日はベルード辺境伯一家が来るのだって!?珍しいな」
「辺境伯夫人って、あの元妃の?王に愛されなかったお方でしょ…きっと大した事ない方よね?」
「お子達も来るんだって?きっと辺境の領地に住んでるから田舎くさいんだろうな?」
着飾った貴族達の一番の話題は、やはり滅多に姿を現す事がないベルード辺境伯家で。
もちろん友好的な者も多いが、噂を真に受けて揶揄する者達もいて…
「ベルード辺境伯様御一家、ご入場されます!」
その噂の的の一家が到着した事を告げる声が、その場に響いた。すると皆の視線は一つに集中して…
そこから現れた、形容し難いほどの美麗な一家に、皆は一斉に息を呑む。
し、信じられない!凄い…そこに居合わせた者達は口々にそう呟く。
元々その美しさに定評があった辺境伯マクシミリアンは、輝くばかりの銀髪を流れるように横に撫で付けて、歳を重ねたことで得た威厳溢れる風貌に合わせた豪華な衣裳を身に纏っている。
そして片肩に掛けられたマントを翻して悠々と歩く様は、見る者を惹きつけて離さない。
だけど皆は…その辺境伯の傍らにいる細身の美麗な男性に釘付けになる──。
「あ、あの美しい人は?」
「もしかして…辺境伯夫人!?」
艶やかな黒髪に煌めく菫色の瞳、口元に笑みを浮かべているが、ぷっくりとした下唇がやけに煽情的た…
黒のレースの衣裳からは、所々から肌の色が漏れていて色っぽい事この上ない!おまけに背中は、歩く度に垂らした黒髪が揺れて、チラチラと白く美しい肌が覗いている。
この後、それを目の当たりにした数人が、鼻を押さえながら退場する。
それから畳み掛けるように現れた、完成された美のオーラを放つ子供達に皆は絶句する。
「な、な、何ですの?あの華麗なる方々は…」
「田舎の子供…なんてとんでもない!あんな美しい兄妹、この王都にも居やしない!」
祝宴の参加者が自分達で、度肝を抜かれまくったなど思いもしないベルード辺境伯一家は、久しぶりのパーティーを満喫していた。
「シルバ、一杯だけ飲んだらどうだ?」
「えーっ!酔っちゃうよ。抱えて帰って貰っちゃうかもよ?」
「母様、僕が抱えてあげるね!」
「わたちがのむ~」
「フェリシアにはまだ早いかなぁ?よし!お兄ちゃんが」
そんな華麗な一家は、どこまでもマイペースで。
この後唯一、王から親しげに声を掛けられて、席を共にした事でまたその場を騒然とさせたなど、気付きもしない面々であった。
黒の丈の長い総レースの上衣を羽織って、鏡の前に立つ。
同色で美しい刺繍が施されていて、まるで浮き出ているように見える。正面からみたその清楚な感じとは違って、背中は大胆に開いているデザインだ。
──こんなに背中が!?ここまで開いているなど、見せ過ぎじゃないだろうか?
急に不安になってマクシミリアンに聞いてみる。
それにマクシミリアンは徐ろに私に近付いて来て、腰をぎゅっと抱き首筋に口付ける。
「あ……ん。」
私が思わず身動ぐと、マクスは楽しそうに笑う。
──んんっ。イジワルだなぁ…
「ふっ、シルバの美しい背中が見えて官能的だな?私としては余り人には見せて欲しくはないが…だけど、凄く綺麗だ」
マクスのそんな率直な言葉に、思わず身体が熱くなる…
今、私達はベルード辺境伯家の王都邸に来ている。
三日後、この大帝国とカサンドラ国との友好国の締結二周年を祝う祝宴が開かれるのだ。
もちろん私達も招待されていて、その準備に余念がない。
今回は子供達も参加出来るので尚更だ。
エリオットとオスカーは六歳になり、下の娘のフェリシアはもうすぐ三歳で。
三人共、あっという間に大きくなって私とマクスは驚きの連続の毎日で。
エリオットとオスカーは今剣術に夢中で、競い合うように腕を磨いている。
マクスが二人の先生として指導しているのだが、その才能の片鱗を見せる成長ぶりに凄く嬉しそうだ。
フェリシアは流石女の子!まだ小さいのにお洒落に興味津々で。
最近は私の格好にも駄目出しされてしまうので、今その祝宴で着る衣裳を最終確認している。
「でもちょっと、背中開き過ぎだよね?こんな男なのに…」
それにマクスはちょっとだけ不機嫌そうな表情になり、そして…
…チュ、ッ…チュ
「ふぁっ!も…うン」
背中に何度も口付けされて、痺れるような快感を得て思わず甘い声が出た。
「シルバ…お前は誰よりも美しい。結婚して七年が過ぎようとしているが、ずっと初めて会ったあの頃のままだ。いつもなら艶かしい素肌を見せるのは私にだけにして欲しいが、今回は祝宴だから…特別に皆にも見せてやるとしよう」
そのマクスの言葉に少し勇気が出て、やっぱりこの衣裳でいいかな?って決心する。
祝宴では華やかな色を着がちだろうが、私は敢えて髪の色と同じ黒で…と。
「あまり気になるようなら、髪を結ばすに垂らしておいたらどうだ?こうやって片横に流しておくのも…やっぱりダメだ!妖艶過ぎる!」
ここに来てから伸ばし始めた髪が、丁度背中の真ん中くらいにまでなっている。マクスはああ言うけど、垂らしておくと背中が目立たなくていいかも?って思った。妖艶かな…?
逆にマクスは長かった銀髪を短くしていて、その爽やかだけど威厳がある姿に溜息で…。
それに笑うと目尻にちょっとだけ皺がより、それに何故かドキドキしている私がいる…大人の色気が凄いんだ!
──どうしよう…これ以上素敵になっちゃったら!困る~
そして祝宴当日──
「今日はベルード辺境伯一家が来るのだって!?珍しいな」
「辺境伯夫人って、あの元妃の?王に愛されなかったお方でしょ…きっと大した事ない方よね?」
「お子達も来るんだって?きっと辺境の領地に住んでるから田舎くさいんだろうな?」
着飾った貴族達の一番の話題は、やはり滅多に姿を現す事がないベルード辺境伯家で。
もちろん友好的な者も多いが、噂を真に受けて揶揄する者達もいて…
「ベルード辺境伯様御一家、ご入場されます!」
その噂の的の一家が到着した事を告げる声が、その場に響いた。すると皆の視線は一つに集中して…
そこから現れた、形容し難いほどの美麗な一家に、皆は一斉に息を呑む。
し、信じられない!凄い…そこに居合わせた者達は口々にそう呟く。
元々その美しさに定評があった辺境伯マクシミリアンは、輝くばかりの銀髪を流れるように横に撫で付けて、歳を重ねたことで得た威厳溢れる風貌に合わせた豪華な衣裳を身に纏っている。
そして片肩に掛けられたマントを翻して悠々と歩く様は、見る者を惹きつけて離さない。
だけど皆は…その辺境伯の傍らにいる細身の美麗な男性に釘付けになる──。
「あ、あの美しい人は?」
「もしかして…辺境伯夫人!?」
艶やかな黒髪に煌めく菫色の瞳、口元に笑みを浮かべているが、ぷっくりとした下唇がやけに煽情的た…
黒のレースの衣裳からは、所々から肌の色が漏れていて色っぽい事この上ない!おまけに背中は、歩く度に垂らした黒髪が揺れて、チラチラと白く美しい肌が覗いている。
この後、それを目の当たりにした数人が、鼻を押さえながら退場する。
それから畳み掛けるように現れた、完成された美のオーラを放つ子供達に皆は絶句する。
「な、な、何ですの?あの華麗なる方々は…」
「田舎の子供…なんてとんでもない!あんな美しい兄妹、この王都にも居やしない!」
祝宴の参加者が自分達で、度肝を抜かれまくったなど思いもしないベルード辺境伯一家は、久しぶりのパーティーを満喫していた。
「シルバ、一杯だけ飲んだらどうだ?」
「えーっ!酔っちゃうよ。抱えて帰って貰っちゃうかもよ?」
「母様、僕が抱えてあげるね!」
「わたちがのむ~」
「フェリシアにはまだ早いかなぁ?よし!お兄ちゃんが」
そんな華麗な一家は、どこまでもマイペースで。
この後唯一、王から親しげに声を掛けられて、席を共にした事でまたその場を騒然とさせたなど、気付きもしない面々であった。
67
お気に入りに追加
1,501
あなたにおすすめの小説

【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる