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番外編
華麗なる辺境伯家
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「これ…大丈夫?派手じゃないかな?」
黒の丈の長い総レースの上衣を羽織って、鏡の前に立つ。
同色で美しい刺繍が施されていて、まるで浮き出ているように見える。正面からみたその清楚な感じとは違って、背中は大胆に開いているデザインだ。
──こんなに背中が!?ここまで開いているなど、見せ過ぎじゃないだろうか?
急に不安になってマクシミリアンに聞いてみる。
それにマクシミリアンは徐ろに私に近付いて来て、腰をぎゅっと抱き首筋に口付ける。
「あ……ん。」
私が思わず身動ぐと、マクスは楽しそうに笑う。
──んんっ。イジワルだなぁ…
「ふっ、シルバの美しい背中が見えて官能的だな?私としては余り人には見せて欲しくはないが…だけど、凄く綺麗だ」
マクスのそんな率直な言葉に、思わず身体が熱くなる…
今、私達はベルード辺境伯家の王都邸に来ている。
三日後、この大帝国とカサンドラ国との友好国の締結二周年を祝う祝宴が開かれるのだ。
もちろん私達も招待されていて、その準備に余念がない。
今回は子供達も参加出来るので尚更だ。
エリオットとオスカーは六歳になり、下の娘のフェリシアはもうすぐ三歳で。
三人共、あっという間に大きくなって私とマクスは驚きの連続の毎日で。
エリオットとオスカーは今剣術に夢中で、競い合うように腕を磨いている。
マクスが二人の先生として指導しているのだが、その才能の片鱗を見せる成長ぶりに凄く嬉しそうだ。
フェリシアは流石女の子!まだ小さいのにお洒落に興味津々で。
最近は私の格好にも駄目出しされてしまうので、今その祝宴で着る衣裳を最終確認している。
「でもちょっと、背中開き過ぎだよね?こんな男なのに…」
それにマクスはちょっとだけ不機嫌そうな表情になり、そして…
…チュ、ッ…チュ
「ふぁっ!も…うン」
背中に何度も口付けされて、痺れるような快感を得て思わず甘い声が出た。
「シルバ…お前は誰よりも美しい。結婚して七年が過ぎようとしているが、ずっと初めて会ったあの頃のままだ。いつもなら艶かしい素肌を見せるのは私にだけにして欲しいが、今回は祝宴だから…特別に皆にも見せてやるとしよう」
そのマクスの言葉に少し勇気が出て、やっぱりこの衣裳でいいかな?って決心する。
祝宴では華やかな色を着がちだろうが、私は敢えて髪の色と同じ黒で…と。
「あまり気になるようなら、髪を結ばすに垂らしておいたらどうだ?こうやって片横に流しておくのも…やっぱりダメだ!妖艶過ぎる!」
ここに来てから伸ばし始めた髪が、丁度背中の真ん中くらいにまでなっている。マクスはああ言うけど、垂らしておくと背中が目立たなくていいかも?って思った。妖艶かな…?
逆にマクスは長かった銀髪を短くしていて、その爽やかだけど威厳がある姿に溜息で…。
それに笑うと目尻にちょっとだけ皺がより、それに何故かドキドキしている私がいる…大人の色気が凄いんだ!
──どうしよう…これ以上素敵になっちゃったら!困る~
そして祝宴当日──
「今日はベルード辺境伯一家が来るのだって!?珍しいな」
「辺境伯夫人って、あの元妃の?王に愛されなかったお方でしょ…きっと大した事ない方よね?」
「お子達も来るんだって?きっと辺境の領地に住んでるから田舎くさいんだろうな?」
着飾った貴族達の一番の話題は、やはり滅多に姿を現す事がないベルード辺境伯家で。
もちろん友好的な者も多いが、噂を真に受けて揶揄する者達もいて…
「ベルード辺境伯様御一家、ご入場されます!」
その噂の的の一家が到着した事を告げる声が、その場に響いた。すると皆の視線は一つに集中して…
そこから現れた、形容し難いほどの美麗な一家に、皆は一斉に息を呑む。
し、信じられない!凄い…そこに居合わせた者達は口々にそう呟く。
元々その美しさに定評があった辺境伯マクシミリアンは、輝くばかりの銀髪を流れるように横に撫で付けて、歳を重ねたことで得た威厳溢れる風貌に合わせた豪華な衣裳を身に纏っている。
そして片肩に掛けられたマントを翻して悠々と歩く様は、見る者を惹きつけて離さない。
だけど皆は…その辺境伯の傍らにいる細身の美麗な男性に釘付けになる──。
「あ、あの美しい人は?」
「もしかして…辺境伯夫人!?」
艶やかな黒髪に煌めく菫色の瞳、口元に笑みを浮かべているが、ぷっくりとした下唇がやけに煽情的た…
黒のレースの衣裳からは、所々から肌の色が漏れていて色っぽい事この上ない!おまけに背中は、歩く度に垂らした黒髪が揺れて、チラチラと白く美しい肌が覗いている。
この後、それを目の当たりにした数人が、鼻を押さえながら退場する。
それから畳み掛けるように現れた、完成された美のオーラを放つ子供達に皆は絶句する。
「な、な、何ですの?あの華麗なる方々は…」
「田舎の子供…なんてとんでもない!あんな美しい兄妹、この王都にも居やしない!」
祝宴の参加者が自分達で、度肝を抜かれまくったなど思いもしないベルード辺境伯一家は、久しぶりのパーティーを満喫していた。
「シルバ、一杯だけ飲んだらどうだ?」
「えーっ!酔っちゃうよ。抱えて帰って貰っちゃうかもよ?」
「母様、僕が抱えてあげるね!」
「わたちがのむ~」
「フェリシアにはまだ早いかなぁ?よし!お兄ちゃんが」
そんな華麗な一家は、どこまでもマイペースで。
この後唯一、王から親しげに声を掛けられて、席を共にした事でまたその場を騒然とさせたなど、気付きもしない面々であった。
黒の丈の長い総レースの上衣を羽織って、鏡の前に立つ。
同色で美しい刺繍が施されていて、まるで浮き出ているように見える。正面からみたその清楚な感じとは違って、背中は大胆に開いているデザインだ。
──こんなに背中が!?ここまで開いているなど、見せ過ぎじゃないだろうか?
急に不安になってマクシミリアンに聞いてみる。
それにマクシミリアンは徐ろに私に近付いて来て、腰をぎゅっと抱き首筋に口付ける。
「あ……ん。」
私が思わず身動ぐと、マクスは楽しそうに笑う。
──んんっ。イジワルだなぁ…
「ふっ、シルバの美しい背中が見えて官能的だな?私としては余り人には見せて欲しくはないが…だけど、凄く綺麗だ」
マクスのそんな率直な言葉に、思わず身体が熱くなる…
今、私達はベルード辺境伯家の王都邸に来ている。
三日後、この大帝国とカサンドラ国との友好国の締結二周年を祝う祝宴が開かれるのだ。
もちろん私達も招待されていて、その準備に余念がない。
今回は子供達も参加出来るので尚更だ。
エリオットとオスカーは六歳になり、下の娘のフェリシアはもうすぐ三歳で。
三人共、あっという間に大きくなって私とマクスは驚きの連続の毎日で。
エリオットとオスカーは今剣術に夢中で、競い合うように腕を磨いている。
マクスが二人の先生として指導しているのだが、その才能の片鱗を見せる成長ぶりに凄く嬉しそうだ。
フェリシアは流石女の子!まだ小さいのにお洒落に興味津々で。
最近は私の格好にも駄目出しされてしまうので、今その祝宴で着る衣裳を最終確認している。
「でもちょっと、背中開き過ぎだよね?こんな男なのに…」
それにマクスはちょっとだけ不機嫌そうな表情になり、そして…
…チュ、ッ…チュ
「ふぁっ!も…うン」
背中に何度も口付けされて、痺れるような快感を得て思わず甘い声が出た。
「シルバ…お前は誰よりも美しい。結婚して七年が過ぎようとしているが、ずっと初めて会ったあの頃のままだ。いつもなら艶かしい素肌を見せるのは私にだけにして欲しいが、今回は祝宴だから…特別に皆にも見せてやるとしよう」
そのマクスの言葉に少し勇気が出て、やっぱりこの衣裳でいいかな?って決心する。
祝宴では華やかな色を着がちだろうが、私は敢えて髪の色と同じ黒で…と。
「あまり気になるようなら、髪を結ばすに垂らしておいたらどうだ?こうやって片横に流しておくのも…やっぱりダメだ!妖艶過ぎる!」
ここに来てから伸ばし始めた髪が、丁度背中の真ん中くらいにまでなっている。マクスはああ言うけど、垂らしておくと背中が目立たなくていいかも?って思った。妖艶かな…?
逆にマクスは長かった銀髪を短くしていて、その爽やかだけど威厳がある姿に溜息で…。
それに笑うと目尻にちょっとだけ皺がより、それに何故かドキドキしている私がいる…大人の色気が凄いんだ!
──どうしよう…これ以上素敵になっちゃったら!困る~
そして祝宴当日──
「今日はベルード辺境伯一家が来るのだって!?珍しいな」
「辺境伯夫人って、あの元妃の?王に愛されなかったお方でしょ…きっと大した事ない方よね?」
「お子達も来るんだって?きっと辺境の領地に住んでるから田舎くさいんだろうな?」
着飾った貴族達の一番の話題は、やはり滅多に姿を現す事がないベルード辺境伯家で。
もちろん友好的な者も多いが、噂を真に受けて揶揄する者達もいて…
「ベルード辺境伯様御一家、ご入場されます!」
その噂の的の一家が到着した事を告げる声が、その場に響いた。すると皆の視線は一つに集中して…
そこから現れた、形容し難いほどの美麗な一家に、皆は一斉に息を呑む。
し、信じられない!凄い…そこに居合わせた者達は口々にそう呟く。
元々その美しさに定評があった辺境伯マクシミリアンは、輝くばかりの銀髪を流れるように横に撫で付けて、歳を重ねたことで得た威厳溢れる風貌に合わせた豪華な衣裳を身に纏っている。
そして片肩に掛けられたマントを翻して悠々と歩く様は、見る者を惹きつけて離さない。
だけど皆は…その辺境伯の傍らにいる細身の美麗な男性に釘付けになる──。
「あ、あの美しい人は?」
「もしかして…辺境伯夫人!?」
艶やかな黒髪に煌めく菫色の瞳、口元に笑みを浮かべているが、ぷっくりとした下唇がやけに煽情的た…
黒のレースの衣裳からは、所々から肌の色が漏れていて色っぽい事この上ない!おまけに背中は、歩く度に垂らした黒髪が揺れて、チラチラと白く美しい肌が覗いている。
この後、それを目の当たりにした数人が、鼻を押さえながら退場する。
それから畳み掛けるように現れた、完成された美のオーラを放つ子供達に皆は絶句する。
「な、な、何ですの?あの華麗なる方々は…」
「田舎の子供…なんてとんでもない!あんな美しい兄妹、この王都にも居やしない!」
祝宴の参加者が自分達で、度肝を抜かれまくったなど思いもしないベルード辺境伯一家は、久しぶりのパーティーを満喫していた。
「シルバ、一杯だけ飲んだらどうだ?」
「えーっ!酔っちゃうよ。抱えて帰って貰っちゃうかもよ?」
「母様、僕が抱えてあげるね!」
「わたちがのむ~」
「フェリシアにはまだ早いかなぁ?よし!お兄ちゃんが」
そんな華麗な一家は、どこまでもマイペースで。
この後唯一、王から親しげに声を掛けられて、席を共にした事でまたその場を騒然とさせたなど、気付きもしない面々であった。
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