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第五章・真実の愛
50・交渉
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「ど、どうしましたか?兄上┉」
ルイス兄上は私の手を取りぎゅっと握り頷く。そして┉
「ガルド王┉私は夫を失いました。その代償としてシルバの事は諦めて下さい。弟は夫であるベルード辺境伯に愛されて幸せに暮らしています。子供達がいて、更に産まれてくる子もいますから┉。一度手を離した時点で縁は切れているのです。そう思って弟の幸せを壊さないでやってくれませんか?」
──兄上┉それほどまでに私のことを┉それもこのような時に。
兄上からの愛情を感じて泣きそうになった。
ガルド王は兄上から突き付けられた条件に溜息をつき渋い顔をしていたが、やがて諦めたように項垂れる。
「分かった┉。友好国の締結は私も是非にと思う。そちらが約束を守るのであれば、こちらから攻め込む事はないと誓おう。だが、シルバは┉本意ではないが、その条件も飲もう┉。」
「ありがとうございます。ではその約束破らぬようにお願い致しますね。」
私達はそれにホッとする。そう決まったからには、取り敢えず兄上の手当てをと思った時、この詰所にドカドカと人々が入ってきて、兵同士で言い争うような声が聞こえ出した。
「も、もしや兄上!カサンドラの兵ではないでしょうか?」
──このままでは不味いのではないか?影武者が来る前に、カサンドラの兵達に知られてしまわないだろうか┉?
そんな私の心配をよそに、兄上は凄く落ち着いていて、アルベルト王の遺体が見えないようにして欲しいと指示を出す。そして、扉を開けて外に出た。
「ルイス様!お怪我を!?何かあったのでしょうか?」
「王妃様なぜそのような怪我を?王はいかがなさいました┉ご無事なのでしょうか!」
カサンドラの兵はまず兄上の腕から流れる血に慄き声を上げる。
それからこの場に姿を見せない王への心配が募る。
「皆の者、よく聞いて欲しい。先程、我らの命を狙う刺客を送り込まれた。その情報を得た大帝国のベルード辺境伯様が駆け付けてくださり撃退していただいたので安心して欲しい。だが┉私がこのように腕を斬られ、それを庇った王が傷を負われたのだ。直ぐに治療に入るのでこのまま待機して欲しい。私は王の側を離れられぬので、後は頼みます。」
カサンドラ側はそれに一旦騒然とするが、ルイス王妃の落ち着いた態度に、王の怪我もそこまでは深刻ではないのだと理解する。
そして重要なのは、マクスがここに強攻に押し入った件も兄上の機転で意味のあるものに変えてくれたのだった┉。
そうして何とか誤魔化し事なきを得る。
それから医者を呼び兄上の治療をし、それからマクスが物凄く心配するので私の身体も見てもらう事にした。
「ああ、ちょっと!大丈夫なのに┉」
マクシミリアンが私の身体を横抱きにして、私達のために用意された部屋へと連れて行ってくれる。
始めは人の目がある所で?と恥ずかしい気持ちが表立っていたけれど┉なんだかあの時を思い出す。
「マクス┉私達が初めて会ったあの時を思い出すね。足を怪我していたのをこうやって運んでくれて┉」
「あの時、私はシルバに一目惚れしたんだ┉。これからだっていくらでも抱いてやるから。」
そう言って笑顔を見せるマクシミリアンに、嬉しいという気持ちと、不安が入り交じる。
──これからあの事を話さねばならない。決してこの人を裏切ったのではないけれど、自分以外の相手の子を産んだ事実に何と思うんだろう?果たして許してくれるのだろうか┉。そしてオスカーはどうなるのか?
ルイス兄上は私の手を取りぎゅっと握り頷く。そして┉
「ガルド王┉私は夫を失いました。その代償としてシルバの事は諦めて下さい。弟は夫であるベルード辺境伯に愛されて幸せに暮らしています。子供達がいて、更に産まれてくる子もいますから┉。一度手を離した時点で縁は切れているのです。そう思って弟の幸せを壊さないでやってくれませんか?」
──兄上┉それほどまでに私のことを┉それもこのような時に。
兄上からの愛情を感じて泣きそうになった。
ガルド王は兄上から突き付けられた条件に溜息をつき渋い顔をしていたが、やがて諦めたように項垂れる。
「分かった┉。友好国の締結は私も是非にと思う。そちらが約束を守るのであれば、こちらから攻め込む事はないと誓おう。だが、シルバは┉本意ではないが、その条件も飲もう┉。」
「ありがとうございます。ではその約束破らぬようにお願い致しますね。」
私達はそれにホッとする。そう決まったからには、取り敢えず兄上の手当てをと思った時、この詰所にドカドカと人々が入ってきて、兵同士で言い争うような声が聞こえ出した。
「も、もしや兄上!カサンドラの兵ではないでしょうか?」
──このままでは不味いのではないか?影武者が来る前に、カサンドラの兵達に知られてしまわないだろうか┉?
そんな私の心配をよそに、兄上は凄く落ち着いていて、アルベルト王の遺体が見えないようにして欲しいと指示を出す。そして、扉を開けて外に出た。
「ルイス様!お怪我を!?何かあったのでしょうか?」
「王妃様なぜそのような怪我を?王はいかがなさいました┉ご無事なのでしょうか!」
カサンドラの兵はまず兄上の腕から流れる血に慄き声を上げる。
それからこの場に姿を見せない王への心配が募る。
「皆の者、よく聞いて欲しい。先程、我らの命を狙う刺客を送り込まれた。その情報を得た大帝国のベルード辺境伯様が駆け付けてくださり撃退していただいたので安心して欲しい。だが┉私がこのように腕を斬られ、それを庇った王が傷を負われたのだ。直ぐに治療に入るのでこのまま待機して欲しい。私は王の側を離れられぬので、後は頼みます。」
カサンドラ側はそれに一旦騒然とするが、ルイス王妃の落ち着いた態度に、王の怪我もそこまでは深刻ではないのだと理解する。
そして重要なのは、マクスがここに強攻に押し入った件も兄上の機転で意味のあるものに変えてくれたのだった┉。
そうして何とか誤魔化し事なきを得る。
それから医者を呼び兄上の治療をし、それからマクスが物凄く心配するので私の身体も見てもらう事にした。
「ああ、ちょっと!大丈夫なのに┉」
マクシミリアンが私の身体を横抱きにして、私達のために用意された部屋へと連れて行ってくれる。
始めは人の目がある所で?と恥ずかしい気持ちが表立っていたけれど┉なんだかあの時を思い出す。
「マクス┉私達が初めて会ったあの時を思い出すね。足を怪我していたのをこうやって運んでくれて┉」
「あの時、私はシルバに一目惚れしたんだ┉。これからだっていくらでも抱いてやるから。」
そう言って笑顔を見せるマクシミリアンに、嬉しいという気持ちと、不安が入り交じる。
──これからあの事を話さねばならない。決してこの人を裏切ったのではないけれど、自分以外の相手の子を産んだ事実に何と思うんだろう?果たして許してくれるのだろうか┉。そしてオスカーはどうなるのか?
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