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第五章・真実の愛
49・大帝国の危機
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「あ、あぁ┉何故」
その場に倒れているアルベルト王の身体からは夥しい血が流れて微動だにしない。
その前には┉血塗れた剣を持つガルド王の姿が。
──王が、ガルド王が┉アルベルト王を?
余りの事に唖然としていると、私達の方へガルド王が振り返る。意外にもその顔は落ち着いていた。
「もうこうするしかあるまい┉あのままではシルバが危険だ。そして生かしていても、この状況では衝突は避けられないであろう。それならば┉」
先程までのアルベルト王はもう平常心を失っていて、あのままでは何をするか分からなかった┉。最悪、私達も斬られていたかも知れない。でも兄上が┉
兄上は呆然としながら、よろよろとアルベルト王に近づき、顔を見下ろして震え、動揺を隠せない。
それから悼むようにぎゅっと目を閉じた。それから再び目を開けると、一筋の涙が流れ落ちた。
「この人は狂気に取り憑かれていたのです。以前からずっと┉そして誰も救う事が出来なかった。これで本当の意味で楽になれたのかも知れません。」
そう言って兄上は、止め処無く涙を流し続けた。
「ですが┉カサンドラ国との衝突は避けられないでしょう。王を殺されたとなれば黙ってはいないでしょうから┉」
マクシミリアンが冷静にそう判断する。
──戦争?戦争が始まるのか┉もしかしてマクスもその戦いに┉!?
その時、ひとしきり泣いて目を真っ赤にした兄上が、徐ろに立ち上がった。
「戦いは望みません。そちらも┉ではないですか?戦争をしても、死者が増えるだけで得るものなどありません。幸いと言っていいのか┉影武者が居ます。その者をこちらに秘密裏に呼び出しましょう。今回王はお忍びだと言っても、私は公式にこちらを尋ねました。ですから誰の目にも王と共に来たのは明らかです。影武者は今、誰にも見つからない場所に隠れています。」
その内容に私達は皆、一様に驚く。
「その影武者に王が生きていると装って貰います。この先ずっと┉私の息子が後を継ぐ、その時まで!」
その兄の凛とした声がこの場に響き、その決意の固さが知れる。
「あ、兄上?それって┉大丈夫なのですか?もしも誰かに知られた時、兄上が危険になるのでは┉」
──兄上のお子は確かまだ六つとか五つくらいではないか?
それだと後を継ぎ王になるまで、十年はある事になるけれど┉
「その点は大丈夫だ。今まで何年も影武者を務めてきたが、誰にも分からなかったのだ。顔はもちろん、行動も同じに装う事が出来る。影武者の存在を知る者は全て殺されている┉。唯一知る人物が先程殺された側近だったのだ。」
──そのような完璧な影武者が、あの男に┉。
兄上の子はまだ小さ過ぎる!いきなり王に据えるには命の危険が伴うだろう。
この大帝国としても要らぬ戦争を避ける事が出来るし、カサンドラ側からしても正統な王を安全な年齢で立てるまでの時間稼ぎが出来る┉。
「そちらがそれで良いのなら┉。こちらとしてもカサンドラのような大国を相手にするには、数々の犠牲が出るだろう。それで┉何をしたら良いのだ?」
そう聞くガルド王を兄上は、真正面からじっと見ながらきっぱりと言い放つ。
「ですがこれには条件があります。まず国同士、友好国の締結を!今後我々は戦争をしない┉と。それと┉これが一番重要です。」
兄上が言う、重要な条件とは?
この国の危機を回避する為の条件に息を呑む。
「シルバ、こちらに!」
突然、兄の私を呼ぶ声に驚く。な、何が┉?
その場に倒れているアルベルト王の身体からは夥しい血が流れて微動だにしない。
その前には┉血塗れた剣を持つガルド王の姿が。
──王が、ガルド王が┉アルベルト王を?
余りの事に唖然としていると、私達の方へガルド王が振り返る。意外にもその顔は落ち着いていた。
「もうこうするしかあるまい┉あのままではシルバが危険だ。そして生かしていても、この状況では衝突は避けられないであろう。それならば┉」
先程までのアルベルト王はもう平常心を失っていて、あのままでは何をするか分からなかった┉。最悪、私達も斬られていたかも知れない。でも兄上が┉
兄上は呆然としながら、よろよろとアルベルト王に近づき、顔を見下ろして震え、動揺を隠せない。
それから悼むようにぎゅっと目を閉じた。それから再び目を開けると、一筋の涙が流れ落ちた。
「この人は狂気に取り憑かれていたのです。以前からずっと┉そして誰も救う事が出来なかった。これで本当の意味で楽になれたのかも知れません。」
そう言って兄上は、止め処無く涙を流し続けた。
「ですが┉カサンドラ国との衝突は避けられないでしょう。王を殺されたとなれば黙ってはいないでしょうから┉」
マクシミリアンが冷静にそう判断する。
──戦争?戦争が始まるのか┉もしかしてマクスもその戦いに┉!?
その時、ひとしきり泣いて目を真っ赤にした兄上が、徐ろに立ち上がった。
「戦いは望みません。そちらも┉ではないですか?戦争をしても、死者が増えるだけで得るものなどありません。幸いと言っていいのか┉影武者が居ます。その者をこちらに秘密裏に呼び出しましょう。今回王はお忍びだと言っても、私は公式にこちらを尋ねました。ですから誰の目にも王と共に来たのは明らかです。影武者は今、誰にも見つからない場所に隠れています。」
その内容に私達は皆、一様に驚く。
「その影武者に王が生きていると装って貰います。この先ずっと┉私の息子が後を継ぐ、その時まで!」
その兄の凛とした声がこの場に響き、その決意の固さが知れる。
「あ、兄上?それって┉大丈夫なのですか?もしも誰かに知られた時、兄上が危険になるのでは┉」
──兄上のお子は確かまだ六つとか五つくらいではないか?
それだと後を継ぎ王になるまで、十年はある事になるけれど┉
「その点は大丈夫だ。今まで何年も影武者を務めてきたが、誰にも分からなかったのだ。顔はもちろん、行動も同じに装う事が出来る。影武者の存在を知る者は全て殺されている┉。唯一知る人物が先程殺された側近だったのだ。」
──そのような完璧な影武者が、あの男に┉。
兄上の子はまだ小さ過ぎる!いきなり王に据えるには命の危険が伴うだろう。
この大帝国としても要らぬ戦争を避ける事が出来るし、カサンドラ側からしても正統な王を安全な年齢で立てるまでの時間稼ぎが出来る┉。
「そちらがそれで良いのなら┉。こちらとしてもカサンドラのような大国を相手にするには、数々の犠牲が出るだろう。それで┉何をしたら良いのだ?」
そう聞くガルド王を兄上は、真正面からじっと見ながらきっぱりと言い放つ。
「ですがこれには条件があります。まず国同士、友好国の締結を!今後我々は戦争をしない┉と。それと┉これが一番重要です。」
兄上が言う、重要な条件とは?
この国の危機を回避する為の条件に息を呑む。
「シルバ、こちらに!」
突然、兄の私を呼ぶ声に驚く。な、何が┉?
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