【完結】冷遇され臣下に下げ渡された元妃の物語

MEIKO

文字の大きさ
上 下
36 / 57
第四章・運命の歯車

35・渇望(マクスSide)

しおりを挟む
 この圧倒的な軍事力を誇る大帝国に戦を仕掛ける愚かな国など、もう無いだろうと思っていたが、近頃きな臭い動きをする国が現れた。
 その国を警戒する為に王都に集められた兵は、各地を警戒する目的で配置される。

 私マクシミリアン・ベルードは、父親譲りの剣の腕で名を馳せ、二年ほど前に「王の剣」として王のお側で護衛を務める事になった。
 それが父親の急死で叶わなくなり、後を継いで辺境伯となる。

 そんな経緯いきさつで暫く王都を離れていたが、このような時にはどれだけ遠くに住んでいようとも駆け付けなければならない。
 我が辺境の兵には、山の上にある監視台での警備を命ぜられる。
 そのまま二週間が過ぎ、初めての山地での警備に少し疲れが見えて来た時、監視台の面々に緊張が走る。

 「マクシミリアン様!何者かがこちらに向かって来ております。ですが相当にふらついておりまして、敵だとは思えませんが┉」

 「何だと?何者かが┉でも敵だとは思えないのだな?では私が行ってこよう。皆はこのまま監視を続けているように!」

 疲れ切っている状態の部下達を、敵でも無い者を確認などの目的に行かせる訳にはいかないと思った。それなら私が┉と向かう。

 監視台から一時間ほど降りて、もしかしてこの辺りか?と緊張しながら見渡すと、山道の途中に少しだけなだらかになった所がある。
 その部分の崖にせり出した所に誰かが腰掛けているのが見えた。

 確かに服装や体型から、敵の兵士には見えない。
 だけど┉あの人は何者なのだろう?なぜこんな所に┉

 男にしては細身で、丈の長い見ただけでも分かるような上等な服を着ている。
 じっと見ていると楽しそうに笑ったかと思えば、徐ろに立ち上がり遠くを見つめている。と、その瞬間身体を前に揺らめかせる。

 「あ、危ない!!」

 

 その時、初めてシルバの┉その甘やかな身体を抱き締めた。
 一体どこから漂ってくるのだろうと思うほどの甘美な香りが鼻孔をくすぐり、その美しい菫色の瞳はもう私の心を離さない!

 その瞬間私は恋に落ち、身分差も立ちはだかる数々の問題も、一切物ともせず全力で手に入れるべく動いた。

 その全身全霊で求め、愛したシルバが消えた┉。

 オスカーの件を知り、待ち合わせの宿屋に急いだ私に待っていたのは、頭を殴られて負傷した護衛だけだった┉。

 それから私は死にものぐるいでシルバとオスカーを捜す。
 やがて、見つけだしたのはあの男┉ロベルトだ。

 シルバの温情で我が家に迎え入れてやったにも関わらず、恩を仇で返すような真似をする憎き男。

 だが、ロベルトが言うには自分と家族の命を救った恩人からどうしてもと頼まれて断われなかったと┉。
 それにオスカーを本当の家族のように思っていたから、実行する振りをして後に無事に返すつもりであった事を泣きながら白状する。
 私がロベルトの居場所を特定するほんの少し前に、オスカーはその恩人が連れ去ったと。
 だけど、シルバが居なくなった件は全く知らないという┉。

 その犯人を教えるように問い詰めたが知らぬの一点張りで┉。
 そして隙をついて毒をあおり果てる。その最後に何か思う所があったのか、スサ┉と言い遺していた。

 ──スサ┉とは、スサの離宮か?
 この王都から、カサンドラ国側に向かって一日ほど進んだ所にある┉。

 「皆の者、今からスサの離宮に向かうぞ!」

 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...