【完結】冷遇され臣下に下げ渡された元妃の物語

MEIKO

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第三章・予期せぬ計略

21・不穏な足音(後半侍従長Side)

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 私がこの事に気付いたのは、子供達がちょうど一歳になった頃だ。
 ルイス兄上から贈っていただいた、新生児用のおくるみの端がほつれてしまった。
 しっかりした生地の物だったが、何故だか四つある角の一箇所だけがほつれた。
 子供達も幼い頃から使っているものなので愛着があり、おくるみとしての用途だけでなく、寝る時に掛けるなどしていたものだ。

 私はせっかく兄上からいただいた物だし、これからも長く使いたいと、そのほつれを直そうとした。すると、よくよくその部分を見ると明らかに縫い目が二重になっている所があった。

 ──カサンドラ王家からの贈り物なのに?一度ほつれた所を縫直してあるのだろうか┉

 少し不思議に思ったけれど、以前誰か使用人の中で気付いて縫ってくれたのかもしれない┉と思い直した。

 よく似た色の糸を針に通して縫おうとすると、布地の厚みが違う所があるのに気付く。
 何か気持ちの悪さを感じた私は、逆に糸を解いて中を大きく開いてみた。
 
 すると、袋状になった生地の中に、ほんの小さな布地が縫い付けられているのが分かる。
 何やら不穏な気がして、それを解いてみると┉内側に文字が刺繍してあった。

 ──ル?┉ルドミラ!ルドミラって、ルドミラ国の事だろうか?
 そしてこれは、兄上が!?

 私は、何が何やら分からなくなる。ルドミラと言えば┉私の亡くなった母上の故国だ。

 今はもう失われて存在しないが、かつてカリシュよりも弱い国だった。
 そのルドミラの王家から嫁いで来たのが私の母だけど┉どういう意味だろう?

 王族同士の結婚だが、珍しくお互いが望んで結婚したと聞く。カリシュは、半性身の者を数多く産ませる必要がある為に、王には沢山の妃がいるが、その中でも母をより愛していたと┉。

 これが兄上からの秘密の伝言だとして、こんなところに!?と思う。
 このままずっと気づかなかったかも知れないのに┉。

 『ルドミラ』この失われた国が、後から私の身に重くのしかかることになる──。




 「マッケラン侍従長様。手の者からこちらが届いております。」

 私は、待ち望んだ報せがやっと来たのか?と心が浮き立った。
 私の腹心の者をあちらに行かせて、早二年ほど経った。
 疑われぬようにする為に、一年は報せは不要と伝えてあったが、二年もなしつぶてだとは┉。

 やっとか┉と、はやる気持ちでそれを読んでみると┉。

 「ハハ┉ハハハッ、あるじよ!」

 ──念願の┉。私は、ひとしきり笑ってから、それから泣いた。周りの者はいぶかしげにそんな私を見ているが、そんな事はどうでもいい!

 私は早速「王の剣」と呼ばれる男に、時が来た事を告げる。
 その男、ジスカル卿はニヤリと笑って頷き、そして足早に去っていく。まったく気持ちの悪い男だ┉。

 それにしても、やっと主の思いが報われる。それも、何の因果かあの男から┉。

 幼少の頃から、この世を統べる天賦の才に恵まれていながらも不遇の時代を過ごした主。
 あちらは父君に愛されて、大切に育てられたと聞く┉。そして、あの方をも手に入れて?

 主の無限に続くような孤独を嫌と言うほど知っている私は、実行するように文を出す。

 ──もう二年も待つなど赦さぬ┉今直ぐに!!
 そうすればおのずと┉なぁ?

 私は、主の喜ぶ顔を想像して、満面の笑みを浮かべた。
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