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第二章・辺境伯夫人へ
15・カサンドラからの使者(ガルドSide)
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「陛下、カサンドラからの使者が到着致しました。」
私が幼少の頃から仕える侍従長のマッケランがそう来訪を告げる。
やっと来たか┉そう思って、直ぐに迎賓の間に通すように指示した。
そして手早く身なりを整え、その面々を迎えるべく迎賓の間に急ぐ。
扉を開くと、とても使者とは思えない容貌の赤い髪の男は、私に気付くと笑顔で立ち上がった。
「ガルド王!ご無沙汰しています。思っていたよりも手間取ってしまいましたが┉お気に召す結果が出ました。これでご満足いただけると思いますよ?」
どこか不敵な笑みを浮かべながら、私に向かってこんな事を言い放つ使者など普通は居ない。
この男は、カサンドラ国の国王アルベルトだ。そして┉
その隣にいるフードを目深に被った一見男とも女とも見えるスラリとした印象の人物。
アルベルトとのやり取りの後、徐ろに立ち上がりフードをハラリと取り去る。
──ハッ┉!
ここに居る私の護衛達が息を呑む。
そこから現れたのは、光りを纏ったような美麗な男┉。
「お懐かしいですね。カサンドラ国王妃ルイスにございます。」
──相変わらず、美しい男だ。流石に『傾国の美』と言われるだけはある。
普段は微動だにしない護衛達でさえ、反応してしまうくらいだ。
カリシュの王族出身の半性身ルイス┉カサンドラ国の王妃となったこの五年で、二人の子を産んだと聞いているが、ほぼ変わらぬ美しさだ。
なれど、私はまた違う意味で反応してしまった┉シルバにやはり似ていたから。
およそ五年前、カリシュを訪れた時は似てるとは思わなかった。
だけど先日の┉あの堂々と私を見据える表情は、やはり兄弟だと思わせる程には似ている。
それに気付いてしまって、複雑な心情になる。だけど、何故┉
「これはアルベルト王、王妃まで揃って我が国においでになるとは┉。お二人共に国を出てしまって大丈夫なのかな?それとも、臣下をそれ程に信頼してるのか┉?」
それにはアルベルトが豪快に笑って答える。
「アハハッ!信頼か┉出来ると良いですな?まぁ、でも┉私には信頼している影武者がおりますので。誰も見破れない程に似ているのですよ。」
──そう言えば聞いた事がある。カサンドラ国では跡継ぎが生まれると、その子そっくりな子供を探しだし影武者として育てると。姿形はもちろん、頭脳、剣の腕までも同じになるようにする┉と。
そうなると、まるでもう一人の自分だな┉と思う。
「私は王からこちらに行くと聞きましたので┉どうしてもと頼んだのです。弟は┉シルバはどこにいるのです?会えなくなって、もう五年です。こうやって朗報を持って来たのですから、会わせていただいても良いですよね?」
ルイス王妃の期待に満ちた顔を見ていたら、侍従長マッケランの言っていた事を思い出す。
──「もう少し早く、おいでになれたら良かったですね。」と。
┉正しくそれだ!私は途端に憂鬱になる。そして┉
「ルイス王妃┉悪いが、シルバはもうここにはいない。ベルード辺境伯に下げ渡したのだ。シルバもそれを望んで┉」
それには、今までにこやかで穏やかな物言いをしていたルイス王妃が態度を一変させる。
ぶるぶると身体を震わせ、怒りが収まらない表情を。
「ガルド王!何故か?なぜシルバを┉。それに望んだだと?もしかしてシルバを蔑ろにしていたのではあるまいな!それにあの子は、ルドミラの血筋なのですよ?あの亡き国┉ルドミラ王国の最後の王族の。これがどういう事か分かっていますか?」
怒りの表情さえも美しいルイスにそう糾弾され、もちろん私は分かっていると心の中で答えた。
ルドミラ王国の┉この大陸中で、その事については私が一番分かっている┉嫌というほどにな。
私が幼少の頃から仕える侍従長のマッケランがそう来訪を告げる。
やっと来たか┉そう思って、直ぐに迎賓の間に通すように指示した。
そして手早く身なりを整え、その面々を迎えるべく迎賓の間に急ぐ。
扉を開くと、とても使者とは思えない容貌の赤い髪の男は、私に気付くと笑顔で立ち上がった。
「ガルド王!ご無沙汰しています。思っていたよりも手間取ってしまいましたが┉お気に召す結果が出ました。これでご満足いただけると思いますよ?」
どこか不敵な笑みを浮かべながら、私に向かってこんな事を言い放つ使者など普通は居ない。
この男は、カサンドラ国の国王アルベルトだ。そして┉
その隣にいるフードを目深に被った一見男とも女とも見えるスラリとした印象の人物。
アルベルトとのやり取りの後、徐ろに立ち上がりフードをハラリと取り去る。
──ハッ┉!
ここに居る私の護衛達が息を呑む。
そこから現れたのは、光りを纏ったような美麗な男┉。
「お懐かしいですね。カサンドラ国王妃ルイスにございます。」
──相変わらず、美しい男だ。流石に『傾国の美』と言われるだけはある。
普段は微動だにしない護衛達でさえ、反応してしまうくらいだ。
カリシュの王族出身の半性身ルイス┉カサンドラ国の王妃となったこの五年で、二人の子を産んだと聞いているが、ほぼ変わらぬ美しさだ。
なれど、私はまた違う意味で反応してしまった┉シルバにやはり似ていたから。
およそ五年前、カリシュを訪れた時は似てるとは思わなかった。
だけど先日の┉あの堂々と私を見据える表情は、やはり兄弟だと思わせる程には似ている。
それに気付いてしまって、複雑な心情になる。だけど、何故┉
「これはアルベルト王、王妃まで揃って我が国においでになるとは┉。お二人共に国を出てしまって大丈夫なのかな?それとも、臣下をそれ程に信頼してるのか┉?」
それにはアルベルトが豪快に笑って答える。
「アハハッ!信頼か┉出来ると良いですな?まぁ、でも┉私には信頼している影武者がおりますので。誰も見破れない程に似ているのですよ。」
──そう言えば聞いた事がある。カサンドラ国では跡継ぎが生まれると、その子そっくりな子供を探しだし影武者として育てると。姿形はもちろん、頭脳、剣の腕までも同じになるようにする┉と。
そうなると、まるでもう一人の自分だな┉と思う。
「私は王からこちらに行くと聞きましたので┉どうしてもと頼んだのです。弟は┉シルバはどこにいるのです?会えなくなって、もう五年です。こうやって朗報を持って来たのですから、会わせていただいても良いですよね?」
ルイス王妃の期待に満ちた顔を見ていたら、侍従長マッケランの言っていた事を思い出す。
──「もう少し早く、おいでになれたら良かったですね。」と。
┉正しくそれだ!私は途端に憂鬱になる。そして┉
「ルイス王妃┉悪いが、シルバはもうここにはいない。ベルード辺境伯に下げ渡したのだ。シルバもそれを望んで┉」
それには、今までにこやかで穏やかな物言いをしていたルイス王妃が態度を一変させる。
ぶるぶると身体を震わせ、怒りが収まらない表情を。
「ガルド王!何故か?なぜシルバを┉。それに望んだだと?もしかしてシルバを蔑ろにしていたのではあるまいな!それにあの子は、ルドミラの血筋なのですよ?あの亡き国┉ルドミラ王国の最後の王族の。これがどういう事か分かっていますか?」
怒りの表情さえも美しいルイスにそう糾弾され、もちろん私は分かっていると心の中で答えた。
ルドミラ王国の┉この大陸中で、その事については私が一番分かっている┉嫌というほどにな。
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