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第二章・辺境伯夫人へ
11・王都の辺境伯邸
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王都にあるベルード辺境伯家の屋敷に着いて、私の為に設えた部屋に通された。
品の良い調度品が揃えられ、新しく作らせた衣装が数多く用意されていた。
衣装はともかく、この先直ぐに辺境伯領に向かって出発するであろうに、手厚く用意して下さって┉と申し訳ない気持ちになる。
こんな王の元妃の半性身である男の私を、屋敷の使用人達は夫人として温かく迎えてくれた。
もしも冷たく対応されたら┉と心配だったが、これで一安心だ。
それに急遽一緒に連れて出る事になったロベルトの事も、私の世話に慣れているだろうからと、受け入れてくださった。
今、この王都邸の執事から屋敷についての説明を受けに行っている。
ロベルトも、元貴族とはいえ従順で謙虚な性格であるから、直ぐに他の使用人達と打ち解けてくれると思う。
どちらかと言えば、私の方が心配だ┉。
この広い部屋で一人でいると、あの牢獄のような後宮を出る事ができたのは奇跡のようだ┉と感じる。
この先は、心穏やかでいたいものだ。そう感慨深い気持ちでいると┉
──コン、コン。
扉を叩く音にビクリとなる。
──えっ┉?今、入口の扉ではなく部屋の中で聞こえなかったか?
不思議に思って、キョロキョロと部屋の中を見渡す。
すると部屋の中にある扉の一つから聞こえてくるのだと分かる。
その扉は他の扉と比べて、片開きで小さい造りをしている。
「はい┉」少し怖々と返事をすると、その扉が開かれてマクシミリアンが現れる。
──マクシミリアン様!?もしかして、部屋同士が繋がっているのか?これは┉夫婦の部屋だという事?
「シルバ、驚かせてしまったか?この部屋は私の部屋と続き間になっているんだ。だけど、勝手に入ったりはしないから安心して欲しい。」
驚いた様子の私に、マクシミリアン様が慌ててそう教えてくれる。
「少し┉話しをしてもいいだろうか?今後の事についてなんだが。三日後にここを出発して辺境伯領に向かう。馬車で一週間くらいかかるだろう。途中宿屋で泊まる事になるのだが、充分に満足出来るような宿ではないし、場合に寄っては野宿もあるかも知れないが┉大丈夫だろうか?」
不安な表情をしたマクシミリアンが、私をじっと見てくる。
私は元妃でカリシュ国の王子で┉普通ならば無理だと思うかも知れない。だけど┉
「大丈夫です。私はあなたの妻になりましたから。どのような環境にあっても、マクシミリアン様に付いていくと決めました。これからはそういう経験も、楽しめたらと思っています。」
──これは本意だ。今までの私は、もう居ない。
妃でも王子でもない、私になったのだ。
そして、この先はこの方に寄り添っていこうと思う。
出来たら、それを私にも返して欲しいが┉それは私には過ぎた望みなんだろうか?
そう思った瞬間、マクシミリアン様が私の手をぎゅっと握る。
──ドキン!┉何?
「┉ありがとう!これから先は共に歩んで行こう。私もシルバに対して真心で接する事を誓うよ。シルバ┉」
そして┉そっと私に口付ける。
「あっ┉ん、ファ┉っハァ」
突然のその深い口付けに、戸惑いながらも懸命に応える。
ほぼ初めてだと言える口づけは、甘く濃厚で頭の芯から痺れた。角度を変えながら何度も何度も、繰り返し舌を絡め唾液を啜られて、まるで食べられているのでは?と錯覚するほどだった┉。
それから身体をぎゅっと抱き締められて、ずっとこうしてみたかった┉と耳元で囁かれる。
「ハァッ!あ┉あぁっ」
マクシミリアンの手が、徐ろに私の尻を掴む。
私はこの先を想像してしまって、思わず声を上げる──。
品の良い調度品が揃えられ、新しく作らせた衣装が数多く用意されていた。
衣装はともかく、この先直ぐに辺境伯領に向かって出発するであろうに、手厚く用意して下さって┉と申し訳ない気持ちになる。
こんな王の元妃の半性身である男の私を、屋敷の使用人達は夫人として温かく迎えてくれた。
もしも冷たく対応されたら┉と心配だったが、これで一安心だ。
それに急遽一緒に連れて出る事になったロベルトの事も、私の世話に慣れているだろうからと、受け入れてくださった。
今、この王都邸の執事から屋敷についての説明を受けに行っている。
ロベルトも、元貴族とはいえ従順で謙虚な性格であるから、直ぐに他の使用人達と打ち解けてくれると思う。
どちらかと言えば、私の方が心配だ┉。
この広い部屋で一人でいると、あの牢獄のような後宮を出る事ができたのは奇跡のようだ┉と感じる。
この先は、心穏やかでいたいものだ。そう感慨深い気持ちでいると┉
──コン、コン。
扉を叩く音にビクリとなる。
──えっ┉?今、入口の扉ではなく部屋の中で聞こえなかったか?
不思議に思って、キョロキョロと部屋の中を見渡す。
すると部屋の中にある扉の一つから聞こえてくるのだと分かる。
その扉は他の扉と比べて、片開きで小さい造りをしている。
「はい┉」少し怖々と返事をすると、その扉が開かれてマクシミリアンが現れる。
──マクシミリアン様!?もしかして、部屋同士が繋がっているのか?これは┉夫婦の部屋だという事?
「シルバ、驚かせてしまったか?この部屋は私の部屋と続き間になっているんだ。だけど、勝手に入ったりはしないから安心して欲しい。」
驚いた様子の私に、マクシミリアン様が慌ててそう教えてくれる。
「少し┉話しをしてもいいだろうか?今後の事についてなんだが。三日後にここを出発して辺境伯領に向かう。馬車で一週間くらいかかるだろう。途中宿屋で泊まる事になるのだが、充分に満足出来るような宿ではないし、場合に寄っては野宿もあるかも知れないが┉大丈夫だろうか?」
不安な表情をしたマクシミリアンが、私をじっと見てくる。
私は元妃でカリシュ国の王子で┉普通ならば無理だと思うかも知れない。だけど┉
「大丈夫です。私はあなたの妻になりましたから。どのような環境にあっても、マクシミリアン様に付いていくと決めました。これからはそういう経験も、楽しめたらと思っています。」
──これは本意だ。今までの私は、もう居ない。
妃でも王子でもない、私になったのだ。
そして、この先はこの方に寄り添っていこうと思う。
出来たら、それを私にも返して欲しいが┉それは私には過ぎた望みなんだろうか?
そう思った瞬間、マクシミリアン様が私の手をぎゅっと握る。
──ドキン!┉何?
「┉ありがとう!これから先は共に歩んで行こう。私もシルバに対して真心で接する事を誓うよ。シルバ┉」
そして┉そっと私に口付ける。
「あっ┉ん、ファ┉っハァ」
突然のその深い口付けに、戸惑いながらも懸命に応える。
ほぼ初めてだと言える口づけは、甘く濃厚で頭の芯から痺れた。角度を変えながら何度も何度も、繰り返し舌を絡め唾液を啜られて、まるで食べられているのでは?と錯覚するほどだった┉。
それから身体をぎゅっと抱き締められて、ずっとこうしてみたかった┉と耳元で囁かれる。
「ハァッ!あ┉あぁっ」
マクシミリアンの手が、徐ろに私の尻を掴む。
私はこの先を想像してしまって、思わず声を上げる──。
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