【完結】冷遇され臣下に下げ渡された元妃の物語

MEIKO

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第一章・突然の廃妃

10・侍従長の憂い(侍従長Side)

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 ベルード辺境伯の一行が、この城を出て行く。
 厳しい辺境の地に住む者達が、さらなる光の存在を手に入れて意気揚々と去って行くように見えた┉。
 侍従長の私はそれを遠くから見ながら、とうとうこの日が来てしまったのか┉と哀しむ。

 何も知らないあの方が、新たな希望を胸に抱いて、去って行かれた┉。
 我があるじは、それをじっと窓から見ていた。
 この主を、小さな頃から知っているがこのような表情は初めて見た。それで┉

 「このまま行かせて、良かったのですか?本当の事を伝える訳にはいかなかったのでしょうか?あれでは余りにも┉」
 思わず私はそう問うてしまっていた。叱責されても仕方のない事を。

 「いや┉。もう止める事は出来なかったであろう。何もかもが遅かったのだ。あと少し┉そう思っていたのだが。」

 叱責する事もなく、力なく後悔を口にする主を見ていると、それまでに何も出来なかった己の不甲斐なさが嫌になった。
 
 この寂しげな主の為に、何か出来ないであろうか┉?
 そう思って、私は一つだけ実行した。

 「だけど、希望はあるのではないでしょうか?あの方は手に入れられなくとも┉そもそも、あの方はご存知ないのかもしれませんね?」

 私のその言葉に、主は驚き目を見開く。

 「そなた!┉しかし。だが、それも良いのかもしれんな。せめてそれならば、この想いは救われるのかも知れん┉」

 ──賽は投げられた。あとは転がり落ちて、この手に落ちてくるのを待つのみ┉だ。

 「その前に、御出来になる事をやってしまってはいかがでしょうか。迷っていらっしゃいますか?」

 その問いに先程までの精気のない主の赤い目が、再び力を取り戻しギラリと光る。

 「迷う┉だと?此度の事で更に迷いなど消し飛んだ!あの者達に、制裁を加えてやろう。全く小賢しい奴らだ┉。」
 
 主は憎々しげに顔を歪めて、怒気を深める。

 「それでカサンドラ側は、何と言っているのだ。知らせはあったのか?」
 私は力強く頷き、秘密裏に受け取った小さな手紙を見せる。

 「もう直ぐそこまで、来ているようです。ご安心下さい。それに意外なお方もご同行されるようですよ。もう少し早くおいでになれたら良かったですね。それならば┉」

 「残ってくれたであろうか┉」

 私は再び曇った表情を浮かべる主の前から静かに辞する。
 暫くお一人で居たいのでは?と思ったが故に。
 そして扉の前で控える『王の剣』の男にそっと伝える。

 「暫くこの場でお願い致します。そしてこれから┉血なまぐさい事になりそうです。心しておくようにとの事で御座います。」

 その男は全く動じる様子もなく、ゆっくりとした瞬き一つで承諾した旨を伝える。
 ベルード卿が光の剣ならば、この男ジスカル卿は闇の剣だ。

 ──光と闇。どちらが強いのか?
 今はまだ分からないが、今後雌雄を決する時が来るのかもしれない┉と思って期待で震えた。
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