11 / 57
第一章・突然の廃妃
10・侍従長の憂い(侍従長Side)
しおりを挟む
ベルード辺境伯の一行が、この城を出て行く。
厳しい辺境の地に住む者達が、さらなる光の存在を手に入れて意気揚々と去って行くように見えた┉。
侍従長の私はそれを遠くから見ながら、とうとうこの日が来てしまったのか┉と哀しむ。
何も知らないあの方が、新たな希望を胸に抱いて、去って行かれた┉。
我が主は、それをじっと窓から見ていた。
この主を、小さな頃から知っているがこのような表情は初めて見た。それで┉
「このまま行かせて、良かったのですか?本当の事を伝える訳にはいかなかったのでしょうか?あれでは余りにも┉」
思わず私はそう問うてしまっていた。叱責されても仕方のない事を。
「いや┉。もう止める事は出来なかったであろう。何もかもが遅かったのだ。あと少し┉そう思っていたのだが。」
叱責する事もなく、力なく後悔を口にする主を見ていると、それまでに何も出来なかった己の不甲斐なさが嫌になった。
この寂しげな主の為に、何か出来ないであろうか┉?
そう思って、私は一つだけ実行した。
「だけど、希望はあるのではないでしょうか?あの方は手に入れられなくとも┉そもそも、あの方はご存知ないのかもしれませんね?」
私のその言葉に、主は驚き目を見開く。
「そなた!┉しかし。だが、それも良いのかもしれんな。せめてそれならば、この想いは救われるのかも知れん┉」
──賽は投げられた。あとは転がり落ちて、この手に落ちてくるのを待つのみ┉だ。
「その前に、御出来になる事をやってしまってはいかがでしょうか。迷っていらっしゃいますか?」
その問いに先程までの精気のない主の赤い目が、再び力を取り戻しギラリと光る。
「迷う┉だと?此度の事で更に迷いなど消し飛んだ!あの者達に、制裁を加えてやろう。全く小賢しい奴らだ┉。」
主は憎々しげに顔を歪めて、怒気を深める。
「それでカサンドラ側は、何と言っているのだ。知らせはあったのか?」
私は力強く頷き、秘密裏に受け取った小さな手紙を見せる。
「もう直ぐそこまで、来ているようです。ご安心下さい。それに意外なお方もご同行されるようですよ。もう少し早くおいでになれたら良かったですね。それならば┉」
「残ってくれたであろうか┉」
私は再び曇った表情を浮かべる主の前から静かに辞する。
暫くお一人で居たいのでは?と思ったが故に。
そして扉の前で控える『王の剣』の男にそっと伝える。
「暫くこの場でお願い致します。そしてこれから┉血なまぐさい事になりそうです。心しておくようにとの事で御座います。」
その男は全く動じる様子もなく、ゆっくりとした瞬き一つで承諾した旨を伝える。
ベルード卿が光の剣ならば、この男ジスカル卿は闇の剣だ。
──光と闇。どちらが強いのか?
今はまだ分からないが、今後雌雄を決する時が来るのかもしれない┉と思って期待で震えた。
厳しい辺境の地に住む者達が、さらなる光の存在を手に入れて意気揚々と去って行くように見えた┉。
侍従長の私はそれを遠くから見ながら、とうとうこの日が来てしまったのか┉と哀しむ。
何も知らないあの方が、新たな希望を胸に抱いて、去って行かれた┉。
我が主は、それをじっと窓から見ていた。
この主を、小さな頃から知っているがこのような表情は初めて見た。それで┉
「このまま行かせて、良かったのですか?本当の事を伝える訳にはいかなかったのでしょうか?あれでは余りにも┉」
思わず私はそう問うてしまっていた。叱責されても仕方のない事を。
「いや┉。もう止める事は出来なかったであろう。何もかもが遅かったのだ。あと少し┉そう思っていたのだが。」
叱責する事もなく、力なく後悔を口にする主を見ていると、それまでに何も出来なかった己の不甲斐なさが嫌になった。
この寂しげな主の為に、何か出来ないであろうか┉?
そう思って、私は一つだけ実行した。
「だけど、希望はあるのではないでしょうか?あの方は手に入れられなくとも┉そもそも、あの方はご存知ないのかもしれませんね?」
私のその言葉に、主は驚き目を見開く。
「そなた!┉しかし。だが、それも良いのかもしれんな。せめてそれならば、この想いは救われるのかも知れん┉」
──賽は投げられた。あとは転がり落ちて、この手に落ちてくるのを待つのみ┉だ。
「その前に、御出来になる事をやってしまってはいかがでしょうか。迷っていらっしゃいますか?」
その問いに先程までの精気のない主の赤い目が、再び力を取り戻しギラリと光る。
「迷う┉だと?此度の事で更に迷いなど消し飛んだ!あの者達に、制裁を加えてやろう。全く小賢しい奴らだ┉。」
主は憎々しげに顔を歪めて、怒気を深める。
「それでカサンドラ側は、何と言っているのだ。知らせはあったのか?」
私は力強く頷き、秘密裏に受け取った小さな手紙を見せる。
「もう直ぐそこまで、来ているようです。ご安心下さい。それに意外なお方もご同行されるようですよ。もう少し早くおいでになれたら良かったですね。それならば┉」
「残ってくれたであろうか┉」
私は再び曇った表情を浮かべる主の前から静かに辞する。
暫くお一人で居たいのでは?と思ったが故に。
そして扉の前で控える『王の剣』の男にそっと伝える。
「暫くこの場でお願い致します。そしてこれから┉血なまぐさい事になりそうです。心しておくようにとの事で御座います。」
その男は全く動じる様子もなく、ゆっくりとした瞬き一つで承諾した旨を伝える。
ベルード卿が光の剣ならば、この男ジスカル卿は闇の剣だ。
──光と闇。どちらが強いのか?
今はまだ分からないが、今後雌雄を決する時が来るのかもしれない┉と思って期待で震えた。
85
お気に入りに追加
1,500
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる