9 / 57
第一章・突然の廃妃
8・王の苛立ち
しおりを挟む
「マクシミリアン・ベルード辺境伯様、カリシュ国第四王子シルバ・ラシュア様おいでになりました」
自分のことをそう呼ばれると、改めて妃ではなくなったのだ┉と実感する。
妃であった二年間は、人生の中でたった二年┉と言われるかもしれないが、永遠に続くかのような本当に長い二年だった┉。
この大帝国では、貴族の嫡男の結婚には王の承認がいる。
それで二人で、王や重臣の前で婚姻の書状に署名をし、晴れて夫婦と認められるのだ。
マクシミリアン様と二人で重臣の居並ぶ中、王の間を進むと、正面の玉座にガルド王が見える。
その途端、昨夜のことが思い出されてブルッと身体が震えた。あの時の恐怖が┉。
──いけない!しっかりしなくては┉。このままではマクシミリアン様に恥をかかせてしまうのでは?
そう思って何とか気持ちを立て直そうとするが、なにせあれから数時間ほどしか経っていないのだ。忘れようと思っても、直ぐに忘れる事など出来はしないのに┉。
自分の感情に戸惑っていると隣に並ぶマクシミリアン様が、掴んでいる私の手をほんの少し強く握ってくる。
更に反対の手で甲を、ぽんぽんと宥めるように重ねた。
そんな行動にハッとマクシミリアン様の顔を見上げた。
すると黄金色の目が優しく私を見つめていて、微かに頷いた。
まるで、私がいるから大丈夫だ!と言ってくれているようなその仕草。
それは間違いなくそういう意味なのだと思う。
──ああ、私はこの人に一体どれだけ救われるのか┉。
そう思うと、震えがすっと止まり気持ちも落ち着いてきた。
それからもう大丈夫┉とばかりに頷き返して、また歩き始める。
今日は王だけでなく、その隣には王妃様もおられる。
沢山の妃達の中で唯一、王子をお産みになっているのがこの王妃だ。
宰相ロハスの娘で、元はその侯爵家令嬢の。
私はこの方が、本当に苦手であった。
何か目の敵にされているというのか┉それは始めからだったように思う。
この国の重鎮の宰相の家に生まれ、それにお子まで┉。
なのに、何故私などをそれほど気になさったのかと思う。
だけど、もう今は関係のない事┉。
こうやって最後にこの場に出て来て下さったのだし。
マクシミリアン様のおかげで冷静を取り戻して、二人で王と王妃の御前に進んで同時に一礼する。
──大丈夫だ┉良かった。王の尊顔を拝しても、もう取り乱す事はない。このまま何事もなかったように装わなくては。
宰相に促され、婚姻の書状に名を記す。
まずはマクシミリアン様が、そして私が┉すると突然!
「待て!」ガルド王の大きな声がこの場に響く。
何事か!?と、この場に居る皆が王の方を注視する。
「シルバ。本当に良いのか?それに署名してしまえば、この城を出ていかねばならないのだぞ!」
私をじっと見据えながらそう言う王の、苛立つような声が┉。
──何を?一体どういう事なのか┉昨日といい、今といい。何をそのように┉御心を乱されるのか?
「シルバ、王は国同士の事をおっしゃっているのだ。お前が出ていけば、カリシュ国と騒動の種になるのでは?と、思っていらっしゃる。それで┉」
王妃が続けて何事かを言おうとした時、この場の空気を震わせるような王の激が飛ぶ。
「この痴れ者が!誰が発言を許したのだ?それにお前如きが何だ?敬称も付けずに名を呼び捨てにするとは!あの書状に名を最後の一文字まで書くまでは、シルバは一国の王子だぞ。お前が?王妃如きの!」
王のそんな激昂に、この場はしん┉と静まり返る。
私は王妃の言葉に、そうなのかと納得していたのに┉どうしたのか?王が王妃にあのような激しい叱責をするとは!
──王は、やはり私を城から出したくはないのか!?
自分のことをそう呼ばれると、改めて妃ではなくなったのだ┉と実感する。
妃であった二年間は、人生の中でたった二年┉と言われるかもしれないが、永遠に続くかのような本当に長い二年だった┉。
この大帝国では、貴族の嫡男の結婚には王の承認がいる。
それで二人で、王や重臣の前で婚姻の書状に署名をし、晴れて夫婦と認められるのだ。
マクシミリアン様と二人で重臣の居並ぶ中、王の間を進むと、正面の玉座にガルド王が見える。
その途端、昨夜のことが思い出されてブルッと身体が震えた。あの時の恐怖が┉。
──いけない!しっかりしなくては┉。このままではマクシミリアン様に恥をかかせてしまうのでは?
そう思って何とか気持ちを立て直そうとするが、なにせあれから数時間ほどしか経っていないのだ。忘れようと思っても、直ぐに忘れる事など出来はしないのに┉。
自分の感情に戸惑っていると隣に並ぶマクシミリアン様が、掴んでいる私の手をほんの少し強く握ってくる。
更に反対の手で甲を、ぽんぽんと宥めるように重ねた。
そんな行動にハッとマクシミリアン様の顔を見上げた。
すると黄金色の目が優しく私を見つめていて、微かに頷いた。
まるで、私がいるから大丈夫だ!と言ってくれているようなその仕草。
それは間違いなくそういう意味なのだと思う。
──ああ、私はこの人に一体どれだけ救われるのか┉。
そう思うと、震えがすっと止まり気持ちも落ち着いてきた。
それからもう大丈夫┉とばかりに頷き返して、また歩き始める。
今日は王だけでなく、その隣には王妃様もおられる。
沢山の妃達の中で唯一、王子をお産みになっているのがこの王妃だ。
宰相ロハスの娘で、元はその侯爵家令嬢の。
私はこの方が、本当に苦手であった。
何か目の敵にされているというのか┉それは始めからだったように思う。
この国の重鎮の宰相の家に生まれ、それにお子まで┉。
なのに、何故私などをそれほど気になさったのかと思う。
だけど、もう今は関係のない事┉。
こうやって最後にこの場に出て来て下さったのだし。
マクシミリアン様のおかげで冷静を取り戻して、二人で王と王妃の御前に進んで同時に一礼する。
──大丈夫だ┉良かった。王の尊顔を拝しても、もう取り乱す事はない。このまま何事もなかったように装わなくては。
宰相に促され、婚姻の書状に名を記す。
まずはマクシミリアン様が、そして私が┉すると突然!
「待て!」ガルド王の大きな声がこの場に響く。
何事か!?と、この場に居る皆が王の方を注視する。
「シルバ。本当に良いのか?それに署名してしまえば、この城を出ていかねばならないのだぞ!」
私をじっと見据えながらそう言う王の、苛立つような声が┉。
──何を?一体どういう事なのか┉昨日といい、今といい。何をそのように┉御心を乱されるのか?
「シルバ、王は国同士の事をおっしゃっているのだ。お前が出ていけば、カリシュ国と騒動の種になるのでは?と、思っていらっしゃる。それで┉」
王妃が続けて何事かを言おうとした時、この場の空気を震わせるような王の激が飛ぶ。
「この痴れ者が!誰が発言を許したのだ?それにお前如きが何だ?敬称も付けずに名を呼び捨てにするとは!あの書状に名を最後の一文字まで書くまでは、シルバは一国の王子だぞ。お前が?王妃如きの!」
王のそんな激昂に、この場はしん┉と静まり返る。
私は王妃の言葉に、そうなのかと納得していたのに┉どうしたのか?王が王妃にあのような激しい叱責をするとは!
──王は、やはり私を城から出したくはないのか!?
134
お気に入りに追加
1,503
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる