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第一章・突然の廃妃
8・王の苛立ち
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「マクシミリアン・ベルード辺境伯様、カリシュ国第四王子シルバ・ラシュア様おいでになりました」
自分のことをそう呼ばれると、改めて妃ではなくなったのだ┉と実感する。
妃であった二年間は、人生の中でたった二年┉と言われるかもしれないが、永遠に続くかのような本当に長い二年だった┉。
この大帝国では、貴族の嫡男の結婚には王の承認がいる。
それで二人で、王や重臣の前で婚姻の書状に署名をし、晴れて夫婦と認められるのだ。
マクシミリアン様と二人で重臣の居並ぶ中、王の間を進むと、正面の玉座にガルド王が見える。
その途端、昨夜のことが思い出されてブルッと身体が震えた。あの時の恐怖が┉。
──いけない!しっかりしなくては┉。このままではマクシミリアン様に恥をかかせてしまうのでは?
そう思って何とか気持ちを立て直そうとするが、なにせあれから数時間ほどしか経っていないのだ。忘れようと思っても、直ぐに忘れる事など出来はしないのに┉。
自分の感情に戸惑っていると隣に並ぶマクシミリアン様が、掴んでいる私の手をほんの少し強く握ってくる。
更に反対の手で甲を、ぽんぽんと宥めるように重ねた。
そんな行動にハッとマクシミリアン様の顔を見上げた。
すると黄金色の目が優しく私を見つめていて、微かに頷いた。
まるで、私がいるから大丈夫だ!と言ってくれているようなその仕草。
それは間違いなくそういう意味なのだと思う。
──ああ、私はこの人に一体どれだけ救われるのか┉。
そう思うと、震えがすっと止まり気持ちも落ち着いてきた。
それからもう大丈夫┉とばかりに頷き返して、また歩き始める。
今日は王だけでなく、その隣には王妃様もおられる。
沢山の妃達の中で唯一、王子をお産みになっているのがこの王妃だ。
宰相ロハスの娘で、元はその侯爵家令嬢の。
私はこの方が、本当に苦手であった。
何か目の敵にされているというのか┉それは始めからだったように思う。
この国の重鎮の宰相の家に生まれ、それにお子まで┉。
なのに、何故私などをそれほど気になさったのかと思う。
だけど、もう今は関係のない事┉。
こうやって最後にこの場に出て来て下さったのだし。
マクシミリアン様のおかげで冷静を取り戻して、二人で王と王妃の御前に進んで同時に一礼する。
──大丈夫だ┉良かった。王の尊顔を拝しても、もう取り乱す事はない。このまま何事もなかったように装わなくては。
宰相に促され、婚姻の書状に名を記す。
まずはマクシミリアン様が、そして私が┉すると突然!
「待て!」ガルド王の大きな声がこの場に響く。
何事か!?と、この場に居る皆が王の方を注視する。
「シルバ。本当に良いのか?それに署名してしまえば、この城を出ていかねばならないのだぞ!」
私をじっと見据えながらそう言う王の、苛立つような声が┉。
──何を?一体どういう事なのか┉昨日といい、今といい。何をそのように┉御心を乱されるのか?
「シルバ、王は国同士の事をおっしゃっているのだ。お前が出ていけば、カリシュ国と騒動の種になるのでは?と、思っていらっしゃる。それで┉」
王妃が続けて何事かを言おうとした時、この場の空気を震わせるような王の激が飛ぶ。
「この痴れ者が!誰が発言を許したのだ?それにお前如きが何だ?敬称も付けずに名を呼び捨てにするとは!あの書状に名を最後の一文字まで書くまでは、シルバは一国の王子だぞ。お前が?王妃如きの!」
王のそんな激昂に、この場はしん┉と静まり返る。
私は王妃の言葉に、そうなのかと納得していたのに┉どうしたのか?王が王妃にあのような激しい叱責をするとは!
──王は、やはり私を城から出したくはないのか!?
自分のことをそう呼ばれると、改めて妃ではなくなったのだ┉と実感する。
妃であった二年間は、人生の中でたった二年┉と言われるかもしれないが、永遠に続くかのような本当に長い二年だった┉。
この大帝国では、貴族の嫡男の結婚には王の承認がいる。
それで二人で、王や重臣の前で婚姻の書状に署名をし、晴れて夫婦と認められるのだ。
マクシミリアン様と二人で重臣の居並ぶ中、王の間を進むと、正面の玉座にガルド王が見える。
その途端、昨夜のことが思い出されてブルッと身体が震えた。あの時の恐怖が┉。
──いけない!しっかりしなくては┉。このままではマクシミリアン様に恥をかかせてしまうのでは?
そう思って何とか気持ちを立て直そうとするが、なにせあれから数時間ほどしか経っていないのだ。忘れようと思っても、直ぐに忘れる事など出来はしないのに┉。
自分の感情に戸惑っていると隣に並ぶマクシミリアン様が、掴んでいる私の手をほんの少し強く握ってくる。
更に反対の手で甲を、ぽんぽんと宥めるように重ねた。
そんな行動にハッとマクシミリアン様の顔を見上げた。
すると黄金色の目が優しく私を見つめていて、微かに頷いた。
まるで、私がいるから大丈夫だ!と言ってくれているようなその仕草。
それは間違いなくそういう意味なのだと思う。
──ああ、私はこの人に一体どれだけ救われるのか┉。
そう思うと、震えがすっと止まり気持ちも落ち着いてきた。
それからもう大丈夫┉とばかりに頷き返して、また歩き始める。
今日は王だけでなく、その隣には王妃様もおられる。
沢山の妃達の中で唯一、王子をお産みになっているのがこの王妃だ。
宰相ロハスの娘で、元はその侯爵家令嬢の。
私はこの方が、本当に苦手であった。
何か目の敵にされているというのか┉それは始めからだったように思う。
この国の重鎮の宰相の家に生まれ、それにお子まで┉。
なのに、何故私などをそれほど気になさったのかと思う。
だけど、もう今は関係のない事┉。
こうやって最後にこの場に出て来て下さったのだし。
マクシミリアン様のおかげで冷静を取り戻して、二人で王と王妃の御前に進んで同時に一礼する。
──大丈夫だ┉良かった。王の尊顔を拝しても、もう取り乱す事はない。このまま何事もなかったように装わなくては。
宰相に促され、婚姻の書状に名を記す。
まずはマクシミリアン様が、そして私が┉すると突然!
「待て!」ガルド王の大きな声がこの場に響く。
何事か!?と、この場に居る皆が王の方を注視する。
「シルバ。本当に良いのか?それに署名してしまえば、この城を出ていかねばならないのだぞ!」
私をじっと見据えながらそう言う王の、苛立つような声が┉。
──何を?一体どういう事なのか┉昨日といい、今といい。何をそのように┉御心を乱されるのか?
「シルバ、王は国同士の事をおっしゃっているのだ。お前が出ていけば、カリシュ国と騒動の種になるのでは?と、思っていらっしゃる。それで┉」
王妃が続けて何事かを言おうとした時、この場の空気を震わせるような王の激が飛ぶ。
「この痴れ者が!誰が発言を許したのだ?それにお前如きが何だ?敬称も付けずに名を呼び捨てにするとは!あの書状に名を最後の一文字まで書くまでは、シルバは一国の王子だぞ。お前が?王妃如きの!」
王のそんな激昂に、この場はしん┉と静まり返る。
私は王妃の言葉に、そうなのかと納得していたのに┉どうしたのか?王が王妃にあのような激しい叱責をするとは!
──王は、やはり私を城から出したくはないのか!?
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