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第一章・突然の廃妃
5・最後の夜
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侍従のロイに傅かれながら、私は堂々と王の間まで向かう。
その道中で、後宮の妃達やこの国の重臣達とすれ違ったが、一様に驚いた表情を見せていた。
今まで端に隠れて目立たぬようにしていた者の、こんなに堂々としている姿など見た事もなかったのであろうし。
「だ、第十六妃、シルバ様が到着されました!」
王の間の前で、驚きながら私の名を告げる声を聞きながら、中に入って行く。
私のいつもとは違う姿に、一同に騒めく。
本当にあれがシルバ様か┉という声が聞こえたが、王の御前であるが故、直ぐに静かになってその中を真っ直ぐに前だけを見ながら進む。やがて王の前にきて、私は深々と頭を下げた。
「シルバ、陛下の御前に参りました。」
そう凛とした声で告げ、ここにはもう臆病な私は居ない。
「シルバ┉」そう王の声が響いて、思わず顔を見た。
本当に何年ぶりかで正面から尊顔を拝見したのだが、少し┉寂しそう?何故だかそう思ってしまったけど、そんな訳ないのは自分が良く分かっている。
見事な金髪にギラつく赤い瞳の、記憶と変わらぬまるで獣を思わせる野性的な風貌。
だけど、私もたった一度だけだが優しさで揺れるこの瞳を見た事があったのだ┉。
──もうそれで充分だ┉。愛される事は無かったけれど、一度は王の腕に抱かれ、我が妃と呼ばれたのだから。
それから王が署名した廃妃の書状に私も自分の名をハッキリと記す。
一字、一字噛み締めるように。
これで晴れて妃では無くなった!そう思ったら途端に気が楽になった。
それで思わず笑みが溢れてしまい、周りにいた臣下や王妃は驚き、何ともいえない表情になる。
──もう┉いいだろう?自分を偽る事は。私はこの上なく嬉しいのだから!
そして美しい笑みで王に一礼する。今までありがとうございました┉と呟きながら。
一瞬、王がうっ┉と声を出したような気がした。
だが、私はそのまま御前を去った。
そして自分の部屋に戻り荷造りをする。
元々、持ち物は多くはないし、こちらで諸々の物は揃えておきますと辺境伯様から手紙を受け取っていた。
──本当に有り難い事だ┉。
そして、記憶に残っているベルード辺境伯様を思い浮かべる。
優しい微笑みと、力強く私を抱く腕を┉。
ハッと我に返って、一体何を考えている?と恥ずかしくなる。あ、あの時は人助けで┉。
慌ててそんな思いを打ち消して、この場を明け渡す準備を急いだ。
ここは辺境伯様の気遣いに甘えて、故国から持って来た物だけを持って出ようと決めた。
──後は処分していただこう!その方が思い残す事なく去れるだろう。
明日いよいよここから出る┉だからもう早めに寝よう。
そう思って、ベッドに入る。明日の夜はもうここには居ない┉そう思ったら感慨深いが、それでも昼間の疲れでうつらうつらし始めた。
暫く経った後、いつもの夜来たる者が入って来た気配に気付く。
──ん┉明日には居なくなるのに。最後に見に来たのだろうか?もう私は既に妃では無いのだぞ!
そう思いつつも、慣れている私はそのまま寝たふりをする。
すると、今まで一切私に触れた事は無かったのに、腕にそっと触れる感覚が!
──何!?驚いて思わず目を開ける。
私は驚愕で目を見開いた。瞬間、その者が飛び退く。
暗闇の中、まるで獰猛な獣のような赤い目が私をじっと見ていた┉。
狙いすましたように、じりじりと再び近付いて、やがて窓から漏れる月の光に照らされる。
──ガルド王!!何故に?
その道中で、後宮の妃達やこの国の重臣達とすれ違ったが、一様に驚いた表情を見せていた。
今まで端に隠れて目立たぬようにしていた者の、こんなに堂々としている姿など見た事もなかったのであろうし。
「だ、第十六妃、シルバ様が到着されました!」
王の間の前で、驚きながら私の名を告げる声を聞きながら、中に入って行く。
私のいつもとは違う姿に、一同に騒めく。
本当にあれがシルバ様か┉という声が聞こえたが、王の御前であるが故、直ぐに静かになってその中を真っ直ぐに前だけを見ながら進む。やがて王の前にきて、私は深々と頭を下げた。
「シルバ、陛下の御前に参りました。」
そう凛とした声で告げ、ここにはもう臆病な私は居ない。
「シルバ┉」そう王の声が響いて、思わず顔を見た。
本当に何年ぶりかで正面から尊顔を拝見したのだが、少し┉寂しそう?何故だかそう思ってしまったけど、そんな訳ないのは自分が良く分かっている。
見事な金髪にギラつく赤い瞳の、記憶と変わらぬまるで獣を思わせる野性的な風貌。
だけど、私もたった一度だけだが優しさで揺れるこの瞳を見た事があったのだ┉。
──もうそれで充分だ┉。愛される事は無かったけれど、一度は王の腕に抱かれ、我が妃と呼ばれたのだから。
それから王が署名した廃妃の書状に私も自分の名をハッキリと記す。
一字、一字噛み締めるように。
これで晴れて妃では無くなった!そう思ったら途端に気が楽になった。
それで思わず笑みが溢れてしまい、周りにいた臣下や王妃は驚き、何ともいえない表情になる。
──もう┉いいだろう?自分を偽る事は。私はこの上なく嬉しいのだから!
そして美しい笑みで王に一礼する。今までありがとうございました┉と呟きながら。
一瞬、王がうっ┉と声を出したような気がした。
だが、私はそのまま御前を去った。
そして自分の部屋に戻り荷造りをする。
元々、持ち物は多くはないし、こちらで諸々の物は揃えておきますと辺境伯様から手紙を受け取っていた。
──本当に有り難い事だ┉。
そして、記憶に残っているベルード辺境伯様を思い浮かべる。
優しい微笑みと、力強く私を抱く腕を┉。
ハッと我に返って、一体何を考えている?と恥ずかしくなる。あ、あの時は人助けで┉。
慌ててそんな思いを打ち消して、この場を明け渡す準備を急いだ。
ここは辺境伯様の気遣いに甘えて、故国から持って来た物だけを持って出ようと決めた。
──後は処分していただこう!その方が思い残す事なく去れるだろう。
明日いよいよここから出る┉だからもう早めに寝よう。
そう思って、ベッドに入る。明日の夜はもうここには居ない┉そう思ったら感慨深いが、それでも昼間の疲れでうつらうつらし始めた。
暫く経った後、いつもの夜来たる者が入って来た気配に気付く。
──ん┉明日には居なくなるのに。最後に見に来たのだろうか?もう私は既に妃では無いのだぞ!
そう思いつつも、慣れている私はそのまま寝たふりをする。
すると、今まで一切私に触れた事は無かったのに、腕にそっと触れる感覚が!
──何!?驚いて思わず目を開ける。
私は驚愕で目を見開いた。瞬間、その者が飛び退く。
暗闇の中、まるで獰猛な獣のような赤い目が私をじっと見ていた┉。
狙いすましたように、じりじりと再び近付いて、やがて窓から漏れる月の光に照らされる。
──ガルド王!!何故に?
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