6 / 57
第一章・突然の廃妃
5・最後の夜
しおりを挟む
侍従のロイに傅かれながら、私は堂々と王の間まで向かう。
その道中で、後宮の妃達やこの国の重臣達とすれ違ったが、一様に驚いた表情を見せていた。
今まで端に隠れて目立たぬようにしていた者の、こんなに堂々としている姿など見た事もなかったのであろうし。
「だ、第十六妃、シルバ様が到着されました!」
王の間の前で、驚きながら私の名を告げる声を聞きながら、中に入って行く。
私のいつもとは違う姿に、一同に騒めく。
本当にあれがシルバ様か┉という声が聞こえたが、王の御前であるが故、直ぐに静かになってその中を真っ直ぐに前だけを見ながら進む。やがて王の前にきて、私は深々と頭を下げた。
「シルバ、陛下の御前に参りました。」
そう凛とした声で告げ、ここにはもう臆病な私は居ない。
「シルバ┉」そう王の声が響いて、思わず顔を見た。
本当に何年ぶりかで正面から尊顔を拝見したのだが、少し┉寂しそう?何故だかそう思ってしまったけど、そんな訳ないのは自分が良く分かっている。
見事な金髪にギラつく赤い瞳の、記憶と変わらぬまるで獣を思わせる野性的な風貌。
だけど、私もたった一度だけだが優しさで揺れるこの瞳を見た事があったのだ┉。
──もうそれで充分だ┉。愛される事は無かったけれど、一度は王の腕に抱かれ、我が妃と呼ばれたのだから。
それから王が署名した廃妃の書状に私も自分の名をハッキリと記す。
一字、一字噛み締めるように。
これで晴れて妃では無くなった!そう思ったら途端に気が楽になった。
それで思わず笑みが溢れてしまい、周りにいた臣下や王妃は驚き、何ともいえない表情になる。
──もう┉いいだろう?自分を偽る事は。私はこの上なく嬉しいのだから!
そして美しい笑みで王に一礼する。今までありがとうございました┉と呟きながら。
一瞬、王がうっ┉と声を出したような気がした。
だが、私はそのまま御前を去った。
そして自分の部屋に戻り荷造りをする。
元々、持ち物は多くはないし、こちらで諸々の物は揃えておきますと辺境伯様から手紙を受け取っていた。
──本当に有り難い事だ┉。
そして、記憶に残っているベルード辺境伯様を思い浮かべる。
優しい微笑みと、力強く私を抱く腕を┉。
ハッと我に返って、一体何を考えている?と恥ずかしくなる。あ、あの時は人助けで┉。
慌ててそんな思いを打ち消して、この場を明け渡す準備を急いだ。
ここは辺境伯様の気遣いに甘えて、故国から持って来た物だけを持って出ようと決めた。
──後は処分していただこう!その方が思い残す事なく去れるだろう。
明日いよいよここから出る┉だからもう早めに寝よう。
そう思って、ベッドに入る。明日の夜はもうここには居ない┉そう思ったら感慨深いが、それでも昼間の疲れでうつらうつらし始めた。
暫く経った後、いつもの夜来たる者が入って来た気配に気付く。
──ん┉明日には居なくなるのに。最後に見に来たのだろうか?もう私は既に妃では無いのだぞ!
そう思いつつも、慣れている私はそのまま寝たふりをする。
すると、今まで一切私に触れた事は無かったのに、腕にそっと触れる感覚が!
──何!?驚いて思わず目を開ける。
私は驚愕で目を見開いた。瞬間、その者が飛び退く。
暗闇の中、まるで獰猛な獣のような赤い目が私をじっと見ていた┉。
狙いすましたように、じりじりと再び近付いて、やがて窓から漏れる月の光に照らされる。
──ガルド王!!何故に?
その道中で、後宮の妃達やこの国の重臣達とすれ違ったが、一様に驚いた表情を見せていた。
今まで端に隠れて目立たぬようにしていた者の、こんなに堂々としている姿など見た事もなかったのであろうし。
「だ、第十六妃、シルバ様が到着されました!」
王の間の前で、驚きながら私の名を告げる声を聞きながら、中に入って行く。
私のいつもとは違う姿に、一同に騒めく。
本当にあれがシルバ様か┉という声が聞こえたが、王の御前であるが故、直ぐに静かになってその中を真っ直ぐに前だけを見ながら進む。やがて王の前にきて、私は深々と頭を下げた。
「シルバ、陛下の御前に参りました。」
そう凛とした声で告げ、ここにはもう臆病な私は居ない。
「シルバ┉」そう王の声が響いて、思わず顔を見た。
本当に何年ぶりかで正面から尊顔を拝見したのだが、少し┉寂しそう?何故だかそう思ってしまったけど、そんな訳ないのは自分が良く分かっている。
見事な金髪にギラつく赤い瞳の、記憶と変わらぬまるで獣を思わせる野性的な風貌。
だけど、私もたった一度だけだが優しさで揺れるこの瞳を見た事があったのだ┉。
──もうそれで充分だ┉。愛される事は無かったけれど、一度は王の腕に抱かれ、我が妃と呼ばれたのだから。
それから王が署名した廃妃の書状に私も自分の名をハッキリと記す。
一字、一字噛み締めるように。
これで晴れて妃では無くなった!そう思ったら途端に気が楽になった。
それで思わず笑みが溢れてしまい、周りにいた臣下や王妃は驚き、何ともいえない表情になる。
──もう┉いいだろう?自分を偽る事は。私はこの上なく嬉しいのだから!
そして美しい笑みで王に一礼する。今までありがとうございました┉と呟きながら。
一瞬、王がうっ┉と声を出したような気がした。
だが、私はそのまま御前を去った。
そして自分の部屋に戻り荷造りをする。
元々、持ち物は多くはないし、こちらで諸々の物は揃えておきますと辺境伯様から手紙を受け取っていた。
──本当に有り難い事だ┉。
そして、記憶に残っているベルード辺境伯様を思い浮かべる。
優しい微笑みと、力強く私を抱く腕を┉。
ハッと我に返って、一体何を考えている?と恥ずかしくなる。あ、あの時は人助けで┉。
慌ててそんな思いを打ち消して、この場を明け渡す準備を急いだ。
ここは辺境伯様の気遣いに甘えて、故国から持って来た物だけを持って出ようと決めた。
──後は処分していただこう!その方が思い残す事なく去れるだろう。
明日いよいよここから出る┉だからもう早めに寝よう。
そう思って、ベッドに入る。明日の夜はもうここには居ない┉そう思ったら感慨深いが、それでも昼間の疲れでうつらうつらし始めた。
暫く経った後、いつもの夜来たる者が入って来た気配に気付く。
──ん┉明日には居なくなるのに。最後に見に来たのだろうか?もう私は既に妃では無いのだぞ!
そう思いつつも、慣れている私はそのまま寝たふりをする。
すると、今まで一切私に触れた事は無かったのに、腕にそっと触れる感覚が!
──何!?驚いて思わず目を開ける。
私は驚愕で目を見開いた。瞬間、その者が飛び退く。
暗闇の中、まるで獰猛な獣のような赤い目が私をじっと見ていた┉。
狙いすましたように、じりじりと再び近付いて、やがて窓から漏れる月の光に照らされる。
──ガルド王!!何故に?
114
お気に入りに追加
1,504
あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる