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第一章・突然の廃妃
4・戦勝の褒美
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あの時、あれから直ぐ部屋に戻って事無きを得た。
その夜、まだ先だろうと思っていた夜来たる者が意外にもやって来て、傷だらけの足を見られてしまった┉。
だけど、朝起きたらきちんと治療されていて。
夜中、誰かが手当てしてくれたのだろうか?
その件で叱責される事は無かったが、あの木の根元が┉露呈してしまった。
直ぐに塞がれてしまい、二度と抜け出せなくなって溜め息が出た┉。
きっとあそこから出て┉って思われてしまったらしく、暫くの間部屋に居るのかを毎夜確認に来られて、辟易する事になる。
それから一年半┉。
いきなり王妃様から呼び出され、お前は辺境伯の戦勝の褒美として下げ渡される事になった┉と告げられた。
下げ渡される┉という不名誉よりも、『この後宮を┉出られる!?本当に?』という驚きの方が強かった。
私は降って湧いたような幸運を喜んだ。
きっと辺境伯様は望んで妻に┉などとは思って居ないのは分かっている。
たとえ使用人のような扱いを受けるとしても、ここよりは間違いなく救われる!
──嬉しい┉本当に!
そう思っても、王妃にその思いが分かってしまうのはちょっと不味いのだ。
それで私は悟られまいと悲しむふりをして、泣きながら王妃の御前を去る。
俯きながら踵を返すと、目の端に王妃が笑っているのが見えた。またあの方は┉。
だけど、あの王妃のニヤリとした顔を思い出すと、思わずこちらも笑ってしまう。
私は嬉しいのだ!そう大声で言いたいけれど、グッと我慢する。
何故かって?喜んでいる事が分かってしまうと、絶対に邪魔される。そんな事はさせない!
だって、最初で最後の機会なのだ。これを逃したら二度とここからは出られないだろう。
──後宮から出る┉その日までは嫌々を装おう。
これから一ヶ月後に辺境伯様が王都まで来て、結婚承諾の書状に二人で署名する。そしたら晴れて辺境伯夫人になる。それまでは┉誰からも注目されないようじっとしているのだ。
落ち込むふりをして一ヶ月待った。
明日、辺境伯様が到着されると連絡があり、その前に私の廃妃の儀をする事になる。
それにより本当に久しぶりに王に会う事に┉。
あの初夜から二人では会った事は無い。
祝祭の席で末端に居る私をチラッと見たような気がする程度だ。
だから少しだけ緊張するけれど、もしかして顔も覚えていないのではないか?って思うが┉。
侍従のロイがやって来て、王の御前に立つという事で、新品の豪華な衣裳を渡される。
このロイは、唯一私の身の回りの世話をしてくれていたが、必要以上には近付かない。そんな存在だったので気が楽だったな┉。今となってはもう既に懐かしいような気持ちになってきた。
──それにしても┉こんな豪華な衣裳、結婚の儀以来ではないか?
取り敢えずそれに袖を通してみる。何故か暗い紺色の布地に銀糸で細やかな刺繍をしてある。
一目で豪華なものだと分かるが、こんな暗い色でなければならないのか?
私の気持ちは晴れやかで明るいのに┉。
──まあ、扱いは『廃妃』であるから。普通は死ぬような気持ちになるものなんだろうな。
「シルバ様。いつものように素肌で行かれますか?それとも┉」
私はいつも、目立たないように全く化粧はしていない。する必要もなかったし、それで王に取り入ろうとしている┉と言われたら堪らない。だけど┉
「今日はお願いしようかな。もう妃は最後であるから。」
ロイがバッとこちらを振り返る。きっと意外な答えだったのであろうな。
それから何事もないようにこちらに近付いて、化粧を施してくれる。
王との結婚から、およそ二年┉。十六だった私が十八になった。
あの時はまだ子供であったが、今は少しは成長したし前とは違うのではないか?
こうやって化粧を施されるとルイス兄上にも似てきていると思う。
もちろんあちらは『傾国の美』と言われる存在だから、足元にも及ばないけれど。
──最後だけは、ありのままで居たい!そう思ってもいいだろう?
この儀が終わったら、明日までの間は一人の王子に戻る。
誰からも指図されずに、後ろ指を差される事もなくいられる筈だ。
その事実が私に勇気をくれる。
「さあ、ロイ。行こうか?私が自由になれる場へ」
その夜、まだ先だろうと思っていた夜来たる者が意外にもやって来て、傷だらけの足を見られてしまった┉。
だけど、朝起きたらきちんと治療されていて。
夜中、誰かが手当てしてくれたのだろうか?
その件で叱責される事は無かったが、あの木の根元が┉露呈してしまった。
直ぐに塞がれてしまい、二度と抜け出せなくなって溜め息が出た┉。
きっとあそこから出て┉って思われてしまったらしく、暫くの間部屋に居るのかを毎夜確認に来られて、辟易する事になる。
それから一年半┉。
いきなり王妃様から呼び出され、お前は辺境伯の戦勝の褒美として下げ渡される事になった┉と告げられた。
下げ渡される┉という不名誉よりも、『この後宮を┉出られる!?本当に?』という驚きの方が強かった。
私は降って湧いたような幸運を喜んだ。
きっと辺境伯様は望んで妻に┉などとは思って居ないのは分かっている。
たとえ使用人のような扱いを受けるとしても、ここよりは間違いなく救われる!
──嬉しい┉本当に!
そう思っても、王妃にその思いが分かってしまうのはちょっと不味いのだ。
それで私は悟られまいと悲しむふりをして、泣きながら王妃の御前を去る。
俯きながら踵を返すと、目の端に王妃が笑っているのが見えた。またあの方は┉。
だけど、あの王妃のニヤリとした顔を思い出すと、思わずこちらも笑ってしまう。
私は嬉しいのだ!そう大声で言いたいけれど、グッと我慢する。
何故かって?喜んでいる事が分かってしまうと、絶対に邪魔される。そんな事はさせない!
だって、最初で最後の機会なのだ。これを逃したら二度とここからは出られないだろう。
──後宮から出る┉その日までは嫌々を装おう。
これから一ヶ月後に辺境伯様が王都まで来て、結婚承諾の書状に二人で署名する。そしたら晴れて辺境伯夫人になる。それまでは┉誰からも注目されないようじっとしているのだ。
落ち込むふりをして一ヶ月待った。
明日、辺境伯様が到着されると連絡があり、その前に私の廃妃の儀をする事になる。
それにより本当に久しぶりに王に会う事に┉。
あの初夜から二人では会った事は無い。
祝祭の席で末端に居る私をチラッと見たような気がする程度だ。
だから少しだけ緊張するけれど、もしかして顔も覚えていないのではないか?って思うが┉。
侍従のロイがやって来て、王の御前に立つという事で、新品の豪華な衣裳を渡される。
このロイは、唯一私の身の回りの世話をしてくれていたが、必要以上には近付かない。そんな存在だったので気が楽だったな┉。今となってはもう既に懐かしいような気持ちになってきた。
──それにしても┉こんな豪華な衣裳、結婚の儀以来ではないか?
取り敢えずそれに袖を通してみる。何故か暗い紺色の布地に銀糸で細やかな刺繍をしてある。
一目で豪華なものだと分かるが、こんな暗い色でなければならないのか?
私の気持ちは晴れやかで明るいのに┉。
──まあ、扱いは『廃妃』であるから。普通は死ぬような気持ちになるものなんだろうな。
「シルバ様。いつものように素肌で行かれますか?それとも┉」
私はいつも、目立たないように全く化粧はしていない。する必要もなかったし、それで王に取り入ろうとしている┉と言われたら堪らない。だけど┉
「今日はお願いしようかな。もう妃は最後であるから。」
ロイがバッとこちらを振り返る。きっと意外な答えだったのであろうな。
それから何事もないようにこちらに近付いて、化粧を施してくれる。
王との結婚から、およそ二年┉。十六だった私が十八になった。
あの時はまだ子供であったが、今は少しは成長したし前とは違うのではないか?
こうやって化粧を施されるとルイス兄上にも似てきていると思う。
もちろんあちらは『傾国の美』と言われる存在だから、足元にも及ばないけれど。
──最後だけは、ありのままで居たい!そう思ってもいいだろう?
この儀が終わったら、明日までの間は一人の王子に戻る。
誰からも指図されずに、後ろ指を差される事もなくいられる筈だ。
その事実が私に勇気をくれる。
「さあ、ロイ。行こうか?私が自由になれる場へ」
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