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第一章・突然の廃妃
1・忘れられた存在
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誰もが寝静まっているであろう夜半すぎ、また誰かが私のところにやって来ている。
もう慣れっ子ではあるが、やはり知らない者に自分の寝顔を見られるのは少しだけ抵抗があるものだ┉。
その者は、ただじっと黙って寝顔を見ているだけで、触れようとは決してしない。
そもそも私などに触れたくもないのだろうが┉。
──男の妃である私など。
私がこの大帝国にやって来たのは二年前。私が十六の歳だ。
この大陸で、最弱の存在のカリシュ国の第四王子として生まれた私は、最強で最大の存在の大帝国の王ガルドの第十六妃になるべくやって来た。
カリシュ国の王族では、昔から男の身でありながら子供が産める特殊な腹を持つ半性身の者が多く生まれた。
その半性身の者が産んだ子供は神の祝福を受けた者だとされ、その国に繁栄をもたらす存在になるとの言い伝えがある。
市井の者からも半性身が生まれる場合もあるが、その祝福は王族だけのもの。
だから最弱の存在のカリシュでも未だに国として存在出来ているのだ。
婚姻で以って国同士を結びつけ守護して貰う。
対外的に何の特産物も有利な条件も持たないカリシュが、他国に侵略されずに未だに存在し続ける。
それはひとえに、その半性身の者のお陰である。
──だから私は、この国に一人嫁いで来た。
現王から二人の半性身が産まれたが、見た目が輝くばかりに美しい兄と違って、貧弱で平凡な容姿の他に、何の特技も持たない私がそれも大帝国に┉そう言われたが、私にはその選択が出来る立場ではない。
ただ、父に言われて嫁いだだけ。
だけど、この国での扱いは元々大人しい性格で控え目だと言われていた私でさえも、耐え難いものであったのは確かだ┉。
王であるガルドのお渡りがあったのは、初夜の一度きり。
ガルドに抱かれたのはその一度だけなのだ。
その初夜は次の日の夕方まで絶えず抱き続けられ、これが毎日なのか┉と心配になる程だったが、蓋を開けてみればそれきりで┉。
きっと最後のお情けというか、祖国に対しての礼儀というのか、王は始めから最初で最後と思っておられたのだろうな?
それでは私の自尊心が打ち砕かれるのは当たり前だろう。
それから二年が経ち、今は二十四妃までいて、尚且つ男は私一人ではない。だけどこの後宮でそんな扱いを受けるのはただ一人、私だけだろう。
そんな二十四人もいる中で、王の目が行き届く筈もなく、こうして時折様子を見に来る者が居るのだ。
健康に問題はないか、何か困っている事はないか、何処かに消えてしまっていないか┉を。
意外と王は独占欲が強いのかもしれないな?
こんな忘れられた存在の私でさえも、こうして人を寄越すのだから。
以前他の妃にそんな存在の私を非難され、妃として支給される手当てを取られた時期があったが、こうして見に来てくれたお陰で解決した事がある。
その妃は今も離宮に軟禁されている┉。
この後宮に居る者達は、その処分の重さに慄いた。
だから明らかな悪事も出来はしないのだが、ただここは後宮だ┉。
人を妬んだり、追い落とそうとしたり馬鹿にしたり┉そういう醜い思いが渦巻いている所だから。
王からの寵愛の深さで位が決まる後宮の中で、一番位が低いのは私で間違いないが、もうとっくに慣れた。
僅かばかり残っていた、カリシュ国の王子としての誇りも、こうして打ち砕かれてきたのだから。
この先は、諦めてじっと耐えているのみだ。
いつまで?きっと己が死ぬか、王が亡くなられて妃全てがここを去らねばならない時だろう。
それまでに私は早く死ねるといいな┉って、漠然と思う。
──そんな私が、何故か?
もう慣れっ子ではあるが、やはり知らない者に自分の寝顔を見られるのは少しだけ抵抗があるものだ┉。
その者は、ただじっと黙って寝顔を見ているだけで、触れようとは決してしない。
そもそも私などに触れたくもないのだろうが┉。
──男の妃である私など。
私がこの大帝国にやって来たのは二年前。私が十六の歳だ。
この大陸で、最弱の存在のカリシュ国の第四王子として生まれた私は、最強で最大の存在の大帝国の王ガルドの第十六妃になるべくやって来た。
カリシュ国の王族では、昔から男の身でありながら子供が産める特殊な腹を持つ半性身の者が多く生まれた。
その半性身の者が産んだ子供は神の祝福を受けた者だとされ、その国に繁栄をもたらす存在になるとの言い伝えがある。
市井の者からも半性身が生まれる場合もあるが、その祝福は王族だけのもの。
だから最弱の存在のカリシュでも未だに国として存在出来ているのだ。
婚姻で以って国同士を結びつけ守護して貰う。
対外的に何の特産物も有利な条件も持たないカリシュが、他国に侵略されずに未だに存在し続ける。
それはひとえに、その半性身の者のお陰である。
──だから私は、この国に一人嫁いで来た。
現王から二人の半性身が産まれたが、見た目が輝くばかりに美しい兄と違って、貧弱で平凡な容姿の他に、何の特技も持たない私がそれも大帝国に┉そう言われたが、私にはその選択が出来る立場ではない。
ただ、父に言われて嫁いだだけ。
だけど、この国での扱いは元々大人しい性格で控え目だと言われていた私でさえも、耐え難いものであったのは確かだ┉。
王であるガルドのお渡りがあったのは、初夜の一度きり。
ガルドに抱かれたのはその一度だけなのだ。
その初夜は次の日の夕方まで絶えず抱き続けられ、これが毎日なのか┉と心配になる程だったが、蓋を開けてみればそれきりで┉。
きっと最後のお情けというか、祖国に対しての礼儀というのか、王は始めから最初で最後と思っておられたのだろうな?
それでは私の自尊心が打ち砕かれるのは当たり前だろう。
それから二年が経ち、今は二十四妃までいて、尚且つ男は私一人ではない。だけどこの後宮でそんな扱いを受けるのはただ一人、私だけだろう。
そんな二十四人もいる中で、王の目が行き届く筈もなく、こうして時折様子を見に来る者が居るのだ。
健康に問題はないか、何か困っている事はないか、何処かに消えてしまっていないか┉を。
意外と王は独占欲が強いのかもしれないな?
こんな忘れられた存在の私でさえも、こうして人を寄越すのだから。
以前他の妃にそんな存在の私を非難され、妃として支給される手当てを取られた時期があったが、こうして見に来てくれたお陰で解決した事がある。
その妃は今も離宮に軟禁されている┉。
この後宮に居る者達は、その処分の重さに慄いた。
だから明らかな悪事も出来はしないのだが、ただここは後宮だ┉。
人を妬んだり、追い落とそうとしたり馬鹿にしたり┉そういう醜い思いが渦巻いている所だから。
王からの寵愛の深さで位が決まる後宮の中で、一番位が低いのは私で間違いないが、もうとっくに慣れた。
僅かばかり残っていた、カリシュ国の王子としての誇りも、こうして打ち砕かれてきたのだから。
この先は、諦めてじっと耐えているのみだ。
いつまで?きっと己が死ぬか、王が亡くなられて妃全てがここを去らねばならない時だろう。
それまでに私は早く死ねるといいな┉って、漠然と思う。
──そんな私が、何故か?
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