【完結】冷遇され臣下に下げ渡された元妃の物語

MEIKO

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 「何と申したのだ┉今、戦勝の褒美として何が欲しいと?ベルード!!」
  
 家臣達が一同に居並ぶこの王の間で、ガルド王の苛立つ声が辺りに響き渡る。それにはまるで雷に撃たれたように、ここに居並ぶ誰もがブルッと身震いした。

 眼光鋭く全ての者を威圧するこの王の冷酷ぶりは、他国にも広く知れ渡っている。

 自分の王位の継承の為に父王を殺した?さらにその妃や息子である兄弟達をも──。
 一度ひとたび戦場に出れば、血を一滴たりとも残さないほど完膚無きまでに敵を叩き潰す。
 王が通った道には、無惨な死体の山と焼け野原が広がるだけになる…。
 
 それがどこまで真実であるかは分からない。
 だけどこの王ならば有り得るかもしれないのは、誰もが分かっているのだ。

 冷静沈着で冷酷に処断を下す──そんな王に意見など言える筈もなく、黙って従うのが長生きする秘訣だと、皆が骨身に染みている。

 いつもは冷静な王が、これだけ言葉を荒らげるのは珍しいことだ┉。

 ピリッとした刺すような空気が漂う中、王の目の前にかしずく容姿端麗でありながら、戦場に出れば王と同様に勇猛果敢に敵を薙ぎ倒し、「戦場の銀狼」と二つ名で呼ばれている程の猛々しさを持っているこの男は、至極平然とした様子で答えた。

 「陛下の第十六妃、シルバ様を戦勝の褒美としていただきたいと申し上げました。私の望み、叶えていただけますでしょうか?」

 その言葉にこの場にいるものが騒然とする中、唯一王の近くに立っている宰相ロハスが口元に僅かな笑みを浮かべながら口を開く。

 「そのような┉いや、十六妃様の下げ渡しを所望なのか?そなたの活躍ならどのような美女も思うままだぞ?金銀、宝石だって有り余る程頂けるまたとない機会を┉あの方一人でいいと言うのか?」

 宰相のその言葉に、周りの者達もいくらなんでも┉と納得いかない様子でじっと見ている。

 第十六妃シルバ┉弱小国カリシュからこの大帝国に嫁いで来た王子。

 男性ながら子供が産める半性身であるのは周知されているが、初夜の時以来王のお渡りは一度もなく、後宮の中で忘れられたような存在の┉。

 「はい!そのシルバ様を私は妻に迎えたいと思っております。陛下の数多い妃の中のお一人、シルバ様を下げ渡していただけるのあれば恐悦至極だと思っております。」

 真っ直ぐに王を見据えて、堂々とそう述べるベルードの凛とした声が響いて、この場に居合わせた一人を除いた全員がなんと欲がない事か┉と感心している。

 ──ただ一人、王だけを除いて。

 
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