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十章
69.ホウ、レン、ソウ
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「さぁ、もう夜も遅いことだし、今日は以上にしよう。これ以上はミーシャの体に負担をかけてしまう」
「そうですね、姫様の回復を確認できたことですし」
そうクローデンの言葉にマシマが同調したことにより、まだミーシャの世話をするというシャーレンさんとマシマを残して僕らは部屋を出た。
《ねぇクローデン》
《何だ》
《ミーシャの体調大丈夫だったの?起きたってことはアマテラスの神通力を吸収しきったんでしょ?》
クローデンの横を歩きながらそう言うと、クローデンは難しい顔をしながら
《何とも言えん。見たところ特に問題なかったんだが、人間の器でどこまで持つか…》
やはり、ミーシャの中の神通力は不安定らしい。
《それを伝えるためにも、これからツクヨミ様に報告に行く。テトラ、お前も来てくれ》
《わかった》
と、そこで念話を切り、
「ニャー?(ハロルドのところまで行くのか?)」
と声をかける。
「いや、今回は簡単な報告のみだし、簡易的な水鏡で十分だろう。私の部屋でやろうと思う」
「ニ(ん)」
そう話している間にもクローデンの部屋につき、中に入った。
相変らずごちゃごちゃした部屋だ。
メカニックルーム程ではないにしろ、足元に気を付けてクローデンのあとを進む。
すると少し部屋の奥に入ったところでクローデンが
「あー、確かここらに…」
と立ち止まった。
ガタゴトと周囲を探し回って
「ああ、これだ」
と、布を被ったそれを見つけ出して卓上に置く。
「ニャ?(何それ?)」
「まぁみてろ」
置かれた少し高めのテーブルに僕も登ったのをクローデンは一瞥して、ふわりと上にかぶせてあった布を取った。
出てきたのは丸い水晶。天界から持ってきたのだろう。
「さぁ、繋ぐぞ」
クローデンの呼びかけにうなづくと、水晶が水の揺蕩うように流れ出す。
ふんわりと浮かんできた形が形成され、水晶の中には天界の様子が映された。
「…ニ?(…あれ?)」
ツクヨミ様が現れない。
「おかしいな、正確にツクヨミ様の宮殿とつないでいるはずなんだが…」
僕らがそう顔を上げた途端、唐突に水晶の中が揺れた。
「…っお待たせしました。テトラ、クローデン、どうしました」
画面内に飛び込むようにツクヨミ様が現れる。
息の荒い口調でそう言うツクヨミ様の御前に慌てて僕らは頭を垂れた。
「は。先ほどミーシャが目を覚ましました。現在私が見うる限りではアマテラスの神通力は感じませんでしたので、吸収しきったものと思います」
「……えぇ、今確認しました。体内にも残っているアマテラスの神通力はありませんね。これからも経過観察をお願いします。それだけかしら?」
「いえ…」
クローデンの言葉を引き継いで、口を開く。
「ニャーオン(ミーシャが眠る前に話に上がったように、犬神エレナ・シュガウツをこちら側へ引き込もうと思っています)」
三秒ほど、静寂が走る。
「ふ…」
とため息が聞こえた。
「…言いたいことはわかったわ。すべて貴方達に任せます」
ツクヨミ様の言葉に思わず顔を上げると、そこでは少しやつれた様子のツクヨミ様が呆れたように笑っていた。
「せっかくそれを実行するのだから精一杯引っ掻き回してきなさいな」
ツクヨミ様は「貴方達は昔からお転婆なんだから」と付け足すと
「では、よろしく頼みましたよ」
とまた水の揺蕩いに消えて行ってしまった。
…僕らの返事を聞かずに帰るなんて珍しいこともあるものだ。
それにいつもより落ち着きもなかった気がする。
「…ニャ?(…今天界で忙しいこととかあったっけ?)」
「…そういえば、何か忘れているような?」
お互いに頭をひねる。
が、いくら考えても答えは出てこない。
「…ニャーオ(…ま、とりあえず置いといて、明日の準備しよっか)」
「そうだな」
この時、僕らは思いもしなかった。
まさか僕らが考えることを放棄したこのことが、あとあと大きな事件を引き起こすことになるとは。
「そうですね、姫様の回復を確認できたことですし」
そうクローデンの言葉にマシマが同調したことにより、まだミーシャの世話をするというシャーレンさんとマシマを残して僕らは部屋を出た。
《ねぇクローデン》
《何だ》
《ミーシャの体調大丈夫だったの?起きたってことはアマテラスの神通力を吸収しきったんでしょ?》
クローデンの横を歩きながらそう言うと、クローデンは難しい顔をしながら
《何とも言えん。見たところ特に問題なかったんだが、人間の器でどこまで持つか…》
やはり、ミーシャの中の神通力は不安定らしい。
《それを伝えるためにも、これからツクヨミ様に報告に行く。テトラ、お前も来てくれ》
《わかった》
と、そこで念話を切り、
「ニャー?(ハロルドのところまで行くのか?)」
と声をかける。
「いや、今回は簡単な報告のみだし、簡易的な水鏡で十分だろう。私の部屋でやろうと思う」
「ニ(ん)」
そう話している間にもクローデンの部屋につき、中に入った。
相変らずごちゃごちゃした部屋だ。
メカニックルーム程ではないにしろ、足元に気を付けてクローデンのあとを進む。
すると少し部屋の奥に入ったところでクローデンが
「あー、確かここらに…」
と立ち止まった。
ガタゴトと周囲を探し回って
「ああ、これだ」
と、布を被ったそれを見つけ出して卓上に置く。
「ニャ?(何それ?)」
「まぁみてろ」
置かれた少し高めのテーブルに僕も登ったのをクローデンは一瞥して、ふわりと上にかぶせてあった布を取った。
出てきたのは丸い水晶。天界から持ってきたのだろう。
「さぁ、繋ぐぞ」
クローデンの呼びかけにうなづくと、水晶が水の揺蕩うように流れ出す。
ふんわりと浮かんできた形が形成され、水晶の中には天界の様子が映された。
「…ニ?(…あれ?)」
ツクヨミ様が現れない。
「おかしいな、正確にツクヨミ様の宮殿とつないでいるはずなんだが…」
僕らがそう顔を上げた途端、唐突に水晶の中が揺れた。
「…っお待たせしました。テトラ、クローデン、どうしました」
画面内に飛び込むようにツクヨミ様が現れる。
息の荒い口調でそう言うツクヨミ様の御前に慌てて僕らは頭を垂れた。
「は。先ほどミーシャが目を覚ましました。現在私が見うる限りではアマテラスの神通力は感じませんでしたので、吸収しきったものと思います」
「……えぇ、今確認しました。体内にも残っているアマテラスの神通力はありませんね。これからも経過観察をお願いします。それだけかしら?」
「いえ…」
クローデンの言葉を引き継いで、口を開く。
「ニャーオン(ミーシャが眠る前に話に上がったように、犬神エレナ・シュガウツをこちら側へ引き込もうと思っています)」
三秒ほど、静寂が走る。
「ふ…」
とため息が聞こえた。
「…言いたいことはわかったわ。すべて貴方達に任せます」
ツクヨミ様の言葉に思わず顔を上げると、そこでは少しやつれた様子のツクヨミ様が呆れたように笑っていた。
「せっかくそれを実行するのだから精一杯引っ掻き回してきなさいな」
ツクヨミ様は「貴方達は昔からお転婆なんだから」と付け足すと
「では、よろしく頼みましたよ」
とまた水の揺蕩いに消えて行ってしまった。
…僕らの返事を聞かずに帰るなんて珍しいこともあるものだ。
それにいつもより落ち着きもなかった気がする。
「…ニャ?(…今天界で忙しいこととかあったっけ?)」
「…そういえば、何か忘れているような?」
お互いに頭をひねる。
が、いくら考えても答えは出てこない。
「…ニャーオ(…ま、とりあえず置いといて、明日の準備しよっか)」
「そうだな」
この時、僕らは思いもしなかった。
まさか僕らが考えることを放棄したこのことが、あとあと大きな事件を引き起こすことになるとは。
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