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転機

第百十四話 それは突然に

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 ロンドゥナのことを少しだけ知り、自分もまだまだ女性を見る目が無いなと思いつつ、もう慣れたように馬車を停めている宿へと戻ろうとしている時だった──



「信希さぁぁん!!」



 叫んでいるからか、声の持ち主が誰なのか気付くまで少しだけ時間が掛かってしまった。



「ルーファーか…?」

「そうみたいだ」



「はぁ…はぁ…」



 明らかに走り続けて息が上がっている。

 だが、オレのことを呼んでいるのを考えると、ルーファーはオレの居るところを知っていたのだろうか。



「なに?どうかしたの?」

「信希さんにお願いしたいことがっ!」



 ルーファーは強引に息を整えながら、自分の目的を伝えようとしている。



「お願いねぇ?」

「と、とにかく、聞いてくださいっ!隣国から孤児たちがこちらに向かっている馬車があるのですが、一度山岳の付近を通過します。つい先ほど、その山岳のあたりでドラゴンの発見報告があったんです!」



 ルーファーの言葉は真に迫っていて、自分の欲を満たそうとしている感じには見えない。それと同時に、自分たちだけではどうすることもできないと、オレに助けを求めてきたのだろう。



「この街の軍を出すことは出来ないのか?」

「出すことは出来ます。既に命令は出しています!ですが、編成までに時間が掛かりすぎるんですっ」



 なるほどな…。隣国から来ているという馬車の位置が確認できればいいんだけどな。



「孤児たちの中には獣人もいるのか…」

「その通りです。大半が獣人となっており、護衛の者たちだけではドラゴンの対処をすることなんて到底できません」



「分かった。場所を教えてくれるか?」

「この街から東側、あちらの門から出て道を進んでいけば山岳地帯が見えてきます。道を逸れずに、進み続けるといくつかの谷がある地域にたどり着きます。目撃情報はそのあたりです」



「時間的余裕はない?」

「そう…ですね…。今、隣国からの馬車の位置を正確に把握できないので、憶測にはなりますが、隣国を出立したのが一週間ほど前です。普通のキャラバンで隣国までの道を進むと、ゆっくり進んだとしても二週間くらいです。そして、こちらから山岳地帯にたどり着くまでに二日は欲しい所です…」



 なるほど…。今教えてもらった情報だけで言えば、今すぐにこの街を出ても間に合わない可能性すらあるわけだな…。

 慌てる気持ちを抑えて、重要なことを最後に確認していく。



「その情報は信頼できるのか?」

「はい。ユフィーナたちの隠密部隊から来た魔法具を使った連絡です。私がこの国で最も信頼しているので、こうして信希さんを探してお願いしました」



 そう言い放つルーファーは、先日のようにオレへ疑問を抱かせるような考えを与える余地のないほどに真剣な眼差しで、彼自身もこの問題の大きさを把握できているみたいだった。



「ああ、分かったよ引き受けよう。だが、オレたちが動くのもこれきりだと思ってくれ。あしらっているわけじゃなくて、オレも忙しいんだ」

「分かりました。肝に銘じておきます」



 深々と頭を下げるルーファーに、以前は少しだけやりすぎてしまったかもしれないと感じて、なるべく早くこの場を去りたいとすら思ってしまった。



「じゃあ、行こうかロンドゥナ」

「ああ」



「ありがとうございます!」



 それからオレたちは、予定通りに馬車に戻ることになった。



 ──。



「と、言うわけなんだけど…」

「なるほど…確かに放置することは出来ませんね…?」



 オレは孤児の獣人たちを助けることもそうだが、同じくらいに一つだけ困っていることがある…。



「メキオンとのデートが…」

「あら、信希様はわたくしのことを気にかけてくださってるんですの?」



「そりゃもちろん…、メキオンだけ行ってないのは嫌じゃないか?」

「ふふふっ、信希様が獣人のことを大切に思っていることは十分に存じておりますの。ここでうだうだ言うようでは、国どころか一人の男性にも愛想をつかされてしまいますの」



 確かにメキオンの言いたいことも分かる…。だがこれはオレ自身の問題の方が大きいのかもしれない。



「で、でも…」

「信希様?急がないと時間がありませんの。そのうち、わたくしだけにお時間を作ってくださいですの」



「わ、わかったよ。約束だ」

「信希、しっかりしてください。メキオンさんにここまで言わせるなんて、信希らしくありませんよ?」



 イレーナの言葉でハッとする。

 いつものメキオンの言動から、彼女がまだ幼い女性だということをすっかり忘れていた。頼れることも多いメキオンに、自分が甘えてしまっていることに気付かされる。



「すまなかった。すぐに行こう。メキオン、ドラゴン退治が終わったら特別な時間をプレゼントすると約束するよ」

「まぁ!それは楽しみにしておきますのっ」



 メキオンはにっこりと笑い、いつものペースに戻れたオレを確認して、柔らかくて小さな両手でオレの手を握りしめてくる。



「大丈夫ですの。必ず間に合いますの」

「ありがとうね」



「おーい。すぐに出られるぞ」

「信希、馬たちの準備もできたようです」

「みんな、ありがとう。すぐに出発しよう」



 そうしてオレたちは、ドラゴン退治に出発することになった。



 ──。

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