上 下
85 / 127
再び大国へ

第八十五話 約束

しおりを挟む
 行動自体はとても早いと思う。

 少し前のオレだったら、外堀を埋めたり根回ししたりと色々な絡め手を使うために考えることが多かったけど、今のオレならさっさと行動に移した方が問題解決まで早いと感じているから、ここまで迷わずに行動出来ているのかもしれない。

 それ以前に、ケモミミ様だからという可能性もあるか…。



「信希?いきなり王城に行っても会えるとは限りませんよ…?」

「うん、大丈夫。別に今日会いたいわけじゃないから、約束を取り付けるだけでも十分かな」



「やはりこの国にも孤児がいるんだな…?シアンの事があったからまさかとは思ったが」

「そうだな、それに…少しだけ引っかかってることもあるんだ」

「聞いてもいいですか…?」



「もちろん。この国には人間が多いのに、獣人だけの子供が孤児になっているのが気になっている。ヨーファの話だと、獣人の孤児が多いみたいだからな…」



 そう、二人と出会った後に話しかけられた男との会話で、もしかしてと思っていたことだ。



「それって…」

「この国で何かが渦巻いていると?」



「まだ分からない。確証じゃないから…、ただそうじゃなければいいなと思うことにしている」



 今は他にもやることがある。そちらに集中することで、この嫌な考えをなるべく表に出さないようにしている。



「もしも、信希の考えが的中していたとして…、この国を滅ぼすつもりなのか…?」

「どうだろう…。正直、奴隷にされているのが子供で、とんでもない扱いを受けているのであれば根絶やしも視野に入ってくる…。でも、あの子たちをオレが面倒見切れないのは事実だし…。できればこの国の中で解決できる問題にしたいと思っているよ」



「そうか…」

「信希は少し変わりましたか…?」



「いや、結局のところ孤児になっている獣人たちの、根本的解決にはならないなって思っただけというか」

「なるほど…。自分の足で歩けるようにしてあげたいんですね?」



「まぁ、そうなる…」

「ははっ、信希は本当に優しいな」



 まぁ、ヨーファとの約束でもあるからな。あいつもまだ子供なのに、妹を守るために強くあろうとしているんだ。

 そういう考えのやつが増えればいいと思ったから、そうすればもっと多くのケモミミ様が誕生することにもなるから…。



「うまく行くといいですね。あの子たちのためにも」

「必ず成功させるから心配する必要はない」



「ふふっ、お手並み拝見ですね?」



 今から向かう王城での目的を明確にするには、十分な時間だったかもしれない。そうこう話しているうちに、宿で教えてもらった王城に到着することが出来た。



「なぁ、王様に会いたいんだけど」

「…一般人か?王に会うのであれば、それなり準備や手続きが必要になることを知らないのか?」



「あー。じゃあ、オレは神の使い『御使い』という役割を持ってるんだ。その仕事の一環で王様に用事があるんだけど、取り次いでくれないかな?」

「ふっ、お前は何を言っているんだ。御使い様がこんなところに居るわけがないじゃないか。それに御使い様を語っていると確実に殺されるぞ?」



 どうやらこの門番には話は通じないみたいだ。

 どうしたものかとイレーナへ視線を送ってみると──。



「信希、ワタシに任せてください」

「ああ、頼むよ」



「…?」

「門番さん?ワタシの服装に心当たりはありますか?この服装を許されているのは白狐人族だと分かっていれば通じると思うのですが」



 流石はイレーナだ。ちゃんと下準備をしてくれていた。この街に来た時には『もう必要ない』と言っていた装束を身に纏ってくれていた。

 王に会うかもしれないからと思っていたが、そんな使い方もできるのかと感心してしまった。



「白狐人族…」

「それに、こちらに居るのは竜人族の方です。どちらも御使い様への協力を生きる目的とする種族です。その二種族がここに居れば、取り次ぎするくらいは出来るのではないですか?」



「竜人族まで…?」



 門番の男は、イレーナとロンドゥナを交互に見比べて、彼女の言葉が本当かどうか確かめているようだった。



「多分、この人はどんな手を使ってでも王様に会うつもりですから、その時危うくなるのは、自分の首だとご理解いただけると良いのですけれど」

「わ、分かりました。取り次ぎするのでしばしここでお待ちいただけますか…?」



「ああ。もちろんだ」



 門番は慌てたように門の中へと駆け込んでいった。



「ちょっと、いやかなり怖かった…イレーナって怒るとあんな感じになるのか…」

「何を言っているんですかっ!あの人を守ってあげるために少しだけ強く言っただけです!怒っていませんし、簡単に殺すとか言う信希に言われたくありません!」



「ご、ごめんごめん」



 オレの言葉にイレーナはご立腹みたいだ。

 でも正直、優しいイレーナしか知らないから、美人の怒っている表情は怖さとは別に何かプラスされているような気がした…。



 ──。



 門番が城の中に入っていってから少し経った頃に、偉そうな服装をした男と一緒に戻ってきた。



「お待たせいたしましたぁっ!一度中へどうぞっ!」



 全力で走ってきたのか、ぜぇぜぇと息が上がっている偉そうな男がオレたちにそう告げる。



「ああ。分かった。二人ともオレから離れないでね?」

「わかりました」



 イレーナはそう返事をすると、オレの腕にしがみ付いてきた。

 すこーし想像していたのと違うんだけど…。



「あのー…?そんなに引っ付かなくてもいいんじゃない?」

「これは、信希を暴走させないためでもありますからね?」

「なるほど、では私も反対を担当するか」



「あ、あれえぇ…?」



 両腕に女性を引き連れているオレは、さながらろくでもないリア充野郎に見えるのではないだろうか…?しかも、この状況で王城に入ろうとしているのだから、自分でもなかなかの度胸だと思う。

 とりあえず、偉そうな服装の男について行くことになった。



 ──。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...