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再び大国へ

第七十七話 森の先には

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 ローフリングを脱出してから、すでに二週間以上経過していた。

 イレーナから聞いていた話では、イダンカまでは二週間から三週間くらい掛かるという話だったので、そろそろ到着するかもしれないと思っていた。



「そろそろイダンカに着くころかな」

「この森を抜けて二日くらい進んだところなので、もう少しかかりますね」



「なるほど。この森に入ってからもしばらく経つよね」

「ローフリングからイダンカへの間にあるこの森は、かなり大きな森林地帯で有名ですからね。その分、魔物とかも多くて危険地帯とも言われています」



 この魔改造した馬車のおかげで、道中では危険を感じることすらなかった。

 通りすがる人たちが気付かないのはもちろんのこと、強そうな魔物なんて馬車が進んでいる前を横切っていくくらいで、この馬車の存在を認識することすらできないみたいだった。



「食料のこともあるので、そろそろ到着できるといいですね」

「ああ、そうだね」



 そんな他愛のない会話をしながら、オレたちは今日も旅を進めて行く。



 イダンカに進んでいる最中で、やりたいことや試してみたいことが増えていたので、否応なしに期待が高まってしまっている。

 獣人にも優しくて過ごしやすい国だといいな…。

 イダンカに到着したら何から始めようか…。宿を探して馬車を停めておく場所の確保、魔法具用の水晶の補充、おいしい食事と食材探し、獣人の孤児が居るのかを調べる、周辺が済みやすい土地であるかの探索、転移の魔法具作成…。



 やることとしないといけないことが多くて、みんなとのんびりする時間が確保できるか不安になってくる。



「ん-、イダンカでゆっくりできるといいなぁ」

「最初は難しいかもしれませんね…?だいたい大きな街に到着した後は忙しくなりますから…」



「そうだよねー。早く定住地を見つけたいものですな」

「そう…ですね」



 少しだけ照れているのか、イレーナはチラチラとオレの事を見ているみたいだった。



「イレーナ?どうかしたの?」

「い、いやっ!新しいお家はどんな風になるのかなって…」



「いろいろ作りたいものがあるからなー。場所が決まったらゆっくり考えよう?みんなが満足できる家にするよ」

「今度は信希の欲しい物も作るんですか?」



「欲しい物か…。そう言われるとあんまりないけど、農場とかを作って自給自足はやってみたいかも」

「なるほど…、広い土地が必要になりそうですね」



「オレの性格上、国や街の中で住むのはしんどいから…、どこか広い平原にでも建てたいね」

「それはいいですね。静かなところでの生活は懐かしさもあるので、賛成です」



 イレーナは賛成してくれているみたいでよかった。

 他のみんなは分からないけど、オレの言ったことであれば賛成してくれそうだと思っていた。それに街の中にいる大きなメリットは、オレの力でほぼ意味がなくなっているみたいなものだから、生活には困らないだろう。



 これからの生活に期待を膨らませつつ、どんなところだと住んでみたいか考えようとしていると、イレーナの視線が進路上を見つめて声をかけてきた。



「信希、森を抜けそうです」

「本当かっ」



 オレも目を凝らして、彼女の見つめている先を確認してみる。



 確かにこれまでの森にはない、木々の間に差し込む明るさが森の出口を教えてくれている。



「もうすぐだな」

「はい。森を出て少し進んだところで休憩にしましょう」



 ──。



 オレたちは森の中をついに抜けることが出来た。聞いていた通りに、森を抜けると大きな平原が広がっていた。

 所々で少し開けているところがあるとはいえ、ずっと森の中に居る感覚だったのでこの平原はとても広く感じた。



 少しだけ草の背丈は高いものの、周囲を見渡せる程度の高さしかないので不快に感じることもなかった。



「ひっろーーーい!」

「ああ、本当に広く感じるね」



「今日はここまでにしておきますか?」

「ん-。まだ昼を過ぎたあたりだよね。イダンカに行きたくてうずうずしているから、もう少しだけ進まないか?」



「わかりました、夕方まで進めておきましょう」



「なぁ、信希よ。レストに渡していたオセロだが、もう一つ準備できないか?みんなで盛り上がっていてな…」

「もちろんいいよ」



 きっと、みんなからのお願いだろう…。ミィズがそう言ってる間に、オレへの視線が一気に集まって少しだけ威圧感のようなものを感じた。

 もう一つ新しくオセロを創造してミィズに手渡すと、他のみんなも嬉しそうに「やるぞぉー!」と張り切っていた。



「そんなに面白いんですね…」

「気になる?」

「そうですね…」



 イレーナはオセロの事が気になっているのか、自分もやってみたいと考えているみたいだった。



「あー。出来るか分からないけど、試しに作ってみるか」

「…何をですか?」



 不思議そうな顔でオレの事を見つめているイレーナを余所に、マグネット式のオセロとかがあったことを思い出したので、創造できるか試してみることにした。



「ん。いい感じだね」

「これは…?」



 ミィズたちに渡した本格的なやつではないが、ただ遊ぶだけならこれでも十分だろう。



「オセロの持ち運びができるやつみたいな感じかな。色んなところで使えるから、オレが御者している時でも遊べるよ」

「おおぉ…」



 身を乗り出して覗き込んでくるイレーナは、本当にこれで遊びたかったのだろう。

 子供のようにワクワクしている彼女を見るのは初めてだったので、少しだけ得をしたような気分になる。ケモミミもぱたぱたとさせながら、尻尾をゆらゆらさせながら喜んでいるみたいだ。

 簡単にルールの説明をしてから、また馬車で進むことになった。



 ──。



 オレがオセロを考えている時間よりも、御者に集中している方が長いくらいにイレーナは『むぅ…』と悩み続けていた。

 周囲の景色も徐々に変わってくるのを楽しみつつ、イダンカがどんな国なのかを想像していると楽しい気分になってくる。



「どうして信希はそんなに簡単に置く場所を決められるんですか…」

「こればかりは慣れだよ。子供の時から遊んだゲームだからね、どこを取ったら強いか大体わかってるんだ」



「ズルい…」

「これでも手加減してるんだけど…」



「もうっ!」



 少しだけ意地悪だっただろうか、イレーナは意外に負けず嫌いなのかもしれないと思ってしまった。



「自分順番のあとに、相手がどこに置くか考えると少し強くなるかな」

「なるほど…なるほど…」



 これだけ集中しているのであれば、色々なゲームをすぐにマスターしてしまうだろう…。完全にゲーマーの顔になっているイレーナを微笑ましいと思ってしまった。



 オレの御者は合格点なのだろう。イレーナが何も見ていないことからも、馬の扱いが上手になっているのだと感じることが出来た。



「また負けました…」

「何度でも挑戦していいよ。最初よりどんどん強くなってるから、すぐいい勝負ができるようになるよ」



「いい勝負…?」

「そうそう。本気で考えて本気で勝負するから、ゲームって面白くなるんだよね。みんなとも遊べるしな」



「信希の本気ですか…。が、頑張りますっ!」



 そこまで真剣になるものかとも思ったが、自分の子供の時もこうだったのだろうかと感じさせられて、またまた嬉しい気持ちになってしまう。

 それから夕方までオレは御者を続け、ずっとイレーナの対戦相手になることになった。



 ──。
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