上 下
73 / 127
今とこれからと

第七十三話 もふもふしっぽ

しおりを挟む
 寝巻に着替えて、二人でオレの部屋でベットに腰掛けていた。



「タオルオーケー。ブラシオーケー。ドライヤーの魔法もオーケー。ある程度乾いたとき用の予備タオルもオーケー。トリートメントとかは流石に準備できていない…なんてことだ。ちなみにドライヤーの魔法は温風は人肌温度なので安心してほしい!普通のドライヤーよりも温度は低めなのです」



「ま、信希そんなにはりきらなくても…」

「何を言うんだ!オレにとってはとても大切なことだぞ!」



「そ、その…」

「ん??」



「耳を触った時みたいにしないでくださいね…?」

「もちろんだ。今回はちゃんとイレーナに確認しながらするから安心して」



「では、お願いします…」

「痛かったりしたらすぐに言ってね」



 ベッドに腰掛けているイレーナの背後にまわり、一度タオルで拭いたくらいのまだまだ濡れているという言葉が似合う尻尾を乾かしていく。



「すこしくすぐったいです…」

「嫌な感じ?」



「だ、大丈夫です…」



 こういう動物の毛を乾かす時にはコツがある。

 犬を飼っている友人に聞いたことがある程度だが、まずは沢山濡れてしまっている毛の全体をタオルで拭き取っていく。

 どのくらいまで乾かすかは慣れが必要みたいだが、タオルがこれ以上吸い取れないくらいを目安にするといいらしい。

 あくまでも毛全体の乾燥が、次の段階に進める程度を目標にするといいでしょう。拭いている時に、水分が取れている感覚がある時はタオルだけで拭くのがオススメだそうです。



 次はドライヤーを使った乾燥に移っていきます。タオルを交換するタイミングはここでオーケー。最初は冷風で水分を浮き出させて、タオルに吸わせるのがオススメです。相手の様子や状況を見て、冷風が良いか温風が良いか確認するようにしましょう。



「風は冷たくない?温かい風の方がいい?」

「冷たくても大丈夫です…」



 ここでどれだけ入念に、タオルとドライヤー併用の乾燥を実行できるかで後々楽になってきます。出来るだけ生え際まで乾燥できるようにしてあげましょう。



「信希…」

「ん?痛い?」



「上手すぎませんか…?」

「本当?なら良かった」



 そして、ここでもコツがあります。『もう水分は取れたかな?』と思っていても、かなりの水分が残ってしまっている場合がほとんどです。その対処法としまして、このタイミングでブラッシングを数回入れることで一気に水分を取ることが出来ます。

 ドライヤーを掛けながらブラッシングをして、その後にタオルで水分を拭き取りましょう。もちろんのことと忘れてしまいそうになりますが、水分を含んでいる毛にブラッシングする時は、いつも以上に注意してブラッシングしましょう。絡んでしまっているところは丁寧にブラッシングをするか、ちゃんとほぐしてからブラッシングしましょう。



「くすぐったいのは平気?」

「少しだけ…」



 ドライヤーとブラッシングで水分が出てこなくなった辺りから、温風とブラッシングに切り替えていきましょう。

 この時注意することがありまして、お相手が皮膚病などで乾燥肌だったりすると高温のドライヤーを当てられることで、痒みの原因になってしまうことがあります。なので、温風を当てる際も、温度に応じてドライヤーの距離で体感温度を調整してあげましょう。自分の肌に当たっている風が、少しだけ温かく感じる程度が良いでしょう。

 温かい風を毛に当てている時には、一点に集中させないように注意しましょう。すぐに高温になってしまいますので、少しだけ温まるくらいを意識すると良い感じです。



「嫌じゃない?」

「とても気持ちいいです…」



「本当?変なところはない?」

「ありません」



 徐々に水分が抜けていき、イレーナの綺麗な毛並みの尻尾がふわふわになってくる。



「イレーナの尻尾はふわふわで綺麗だね」

「そうですか…?」



「うん。とっても魅力的だ」



 日頃から手入れされているのが良くわかる。

 ぱっと見では分からないことでも、ちゃんとブラッシングすると手入れ度合いはすぐに分かる。特に長毛種の場合だと、それが顕著で手入れをしている分だけ綺麗な毛並みになっていく。これは短毛種にはない魅力の一つだな。



「他に気になるところとかない?」

「て、手持ち無沙汰…」



「え?なに?」

「少しとめてもらってもいいですか?」



「あ、ああ」



 イレーナが何か言いたそうだったので、一度ブラッシングを止める。



「やっぱり嫌だったりするの?」

「違いますっ」



 そう言いつつ立ち上がったイレーナは、オレの方へ振り向いてベッドに上がってくる。

 そして、すぐ目の前に座るのか腰を下ろして…。



「イレーナ…?」

「乾かしている間、こうしてます…」



 胡坐をかいていたオレの足の上に足を広げて、イレーナがちょんと座ってくる。



「あ、あのぉー…」

「嫌ですか…?」



「集中できない…かも」

「これはワタシのお礼です」



 そのまま抱きしめてくるので、オレはさらに動揺してしまう。



「乾かしてくれないんですか…?」

「や、やります…」



 どうやら離れるつもりはないみたいだった。

 それに彼女は、オレが嬉しいことを熟知しているみたいだった。



 いろいろ密着していてそちらに意識が持っていかれそうになるが、今はイレーナの大切な尻尾をお手入れしてるんだ。そっちに集中して、終わってから堪能させてもらおう…。



 体勢的に少しやりづらさはあるものの、お手入れしてふわふわな尻尾に仕上げていく。



「どう?まだ乾いてない感じする?」

「とってもいい感じです…。自分でするよりも早くて気持ちいいです」



「それは良かった」



 彼女の声が近くて、お風呂上りの体が火照っているのかとても温かく感じる。



「ふわふわでとっても綺麗だね」

「そうですか?」



「ああ。こんなに良く見て、触っているのは初めてだからね」

「それもそうですね…」



「こんなにも毛が細いと思わなかった。オレの見立てだともう少し太いかと思ってた」

「ワタシにはよくわかりません…」



「あっ…。もしかして、こういうこと聞いたり言ったりするのデリカシーなかったりするのかな?だったらごめん…」

「ふふっ。大丈夫ですよ」



 オレの事を抱きしめたまま、喜んでいるのかお手入れした尻尾をふりふりと揺らしている。



「その温かい風が出る魔法具があれば便利そうですね…?」

「確かに…でも、これ作って渡しちゃうと、もうオレがお手入れできなくなっちゃうんだけど…」



「じゃあ毎日は大変でしょうから、何日か置きにお願いします」

「いいの!?」



 とんでもなく嬉しいお願いをイレーナが提案してくれる。



「じゃ、じゃあ!準備に少し時間が掛かるかもしれないけど、毛艶がよくなったりいい匂いがしたりする香油みたいなのを作ってみるよ!」

「そんなのがあるんですね?」



「ああ。元居た世界だったら多くの女性がこだわったりしていたな。男でも使ってる人が居たくらいだ」

「少し気になりますね…」



「好きな匂いとかあればリクエストしてくれ!」

「甘い匂いとか好きですね…。柑橘系はちょっぴり好きくらいですけど…」



「わかった。チャレンジしてみる!完成したら教えるよ」

「楽しみにしています」



 そんな甘い時間を過ごしていると、オレの部屋の扉が勢いよく開かれた。



 ──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...