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目的の旅

第六十二話 相談事

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 完成した馬車の出来栄えにみんな驚いていた。

 それもそうだ。オレの元居た世界の知識や技術がもりもりだからな。みんなが喜んでくれていたので、オレも嬉しい。



「思ったより早く完成したけど、進もうか?」

「そうですね、片付けをして馬車を進めましょう」



 ここで少し不安になる。

 この家を作った時に重さの計算をするのを忘れていたからだ。

 すぐに外に出て、イレーナと一緒に馬たちを馬車に繋いで動かしてみることにした。



「問題なく動きますね」

「よかった…」



 重さの計算をしていなかったのは完全に油断していたが、どうやら馬車に重さは追加されていないみたいだった。

 今は皆も馬車の中にいるから、移動中も馬車の中でゆっくりすることが出来そうだ。



 馬車の魔改造も問題なく終わり、再びオレたちは旅路を進めることになる。



 ──。



 今日の御者は指導役のイレーナとロンドゥナが担当してくれていた。



 残りのみんなは、馬車の中でゆっくりすることが出来ていた。御者をしてくれている二人に申し訳なくなってしまうが、本人たちが大丈夫というので甘えさせてもらった。

 それに、休憩も取るし交代も考えているから問題ない…のか?このあたりは徐々に慣れていくしかないな…。

 ちなみに、馬車の前に付いている小窓からこの空間のリビングにアクセスできるようになっているので、何かあればすぐに呼んでもらえるようになっている。



 シアン、レスト、ポミナ、ユリア、メキオンは風呂の設置がよほど嬉しかったのかみんなで大浴場を使っていた。

  寛ぐ空間が欲しいと言ってたいたミィズとオレがリビングに居て会話をしていた。



「それで?相談ってのは?」

「そ、その…イレーナとユリアの事なんだけど…」



「…?」

「イレーナはオレと結婚を…ユリアはオレを求めていてどうすればいいのか…」



「はぁ…どうしてワシに相談するんじゃ」

「だ、だってよぉー…。一人で色々考えたけど答えなんて出せないって…こんなの元居た世界で言えば無い話だし…まさか自分がこんな状況になるなんて…」



「ワシも前に言っていたと思うが、信希の子供が欲しいと思っているのだぞ。その本人にこんな相談をするなんてなぁ?」



 そ、そうだった…。

 色々なことがありすぎて、ミィズがそんなことを言っていたのを忘れてしまっていた。



「ほ、他に相談できる人なんていないんだよ…頼むから…」

「じゃあ、手っ取り早く答えを出させてやる」



「え…?」



「信希はイレーナが好きか?」

「ああ。愛していると言ってもいい」



「ユリアの事は?」

「可愛いと思う。イレーナにはない魅力で迫ってきた時には正直焦った」



「そして、信希はいまその二人の間で揺れていると」

「簡単に言えばそうだな…」



「元居た世界では一夫一妻が普通だったよなぁ?」

「その通りだ」



「じゃあ、イレーナだけを愛するのが普通じゃないのか?」

「…」



「なんでユリアの事も愛するかどうかで悩んでいるんだ?」

「それは…、二人がいつの間にか仲良くなっていて、イレーナは良くてユリアはダメってことになったら…関係が壊れちゃんじゃないか…?」



「その通り。そこまで理解できているじゃないか」

「…?よくわかんないけど…?」



「前にも言ったじゃろ全員を愛してやれば良いと」

「…」



 そうだった。前にもミィズに同じことを言われていたな。



「バランスが崩れるとか言ってたやつだよね…」

「その通り」



「浮気って知ってる?」

「もちろんじゃ、一夫一妻が普通であるならよく聞く言葉じゃな」



「そういったことにもなるんじゃないかって…」

「何を言っているんだ?幸いにもワシら女性陣は皆仲が良い。それに信希が自分で集めている女性たちじゃろ。信じてやらぬか」



「そういうことになる…のか?」

「そうも何も、女性陣の話し合いではもとより全員で信希を愛することになっているから仲が良いというのもある」



「…?」

「はぁ…。ここまで言わせるかぁ?信希は女の扱いには慣れておるが、女心の事はさっぱり理解していないんだな?」



「そ、そんなこと分からないって!」



「例えばじゃ、そもそも獣人が迫害されているからといって、身銭を切って危険を冒してまで、遠い国へ送り届けてやろうなんてやつはこの世界には居らん」

「そりゃあケモミミ様だから当然だろう?」



「加えて、何も言わずとも女性との旅路で強引に手を出したりしようとはしない」

「当たり前じゃないか。ケモミミ様を悲しませる奴なんてぶっ殺してやる」



「…。シルバーウルフからイレーナを助けた時もそうだ。普通はビビってしまうのが当たり前の魔獣だ。分かっていても襲われるのを見ていることしかできんじゃろ」

「あれは、たまたまだって。周囲の警戒をしていたオレが動けたんだから、たまたまイレーナを助けることが出来たんだよ」

「普通はそんな簡単に助けられるものじゃない」

「そう…か?」



「他にもあるぞ、ユリアのことじゃ。あやつにしても、信希を初めて襲ったときに殺されていても文句を言えない状況だった。なのに『助けた』のはなぜ?」

「別にオレに害を加えただけだろ?ケモミミ様に何かしてたら容赦しないけど、別に殺すこともないんじゃないか?確かに少しイラっとしたけど…」



「それにローフリングについてから、メキオンから監視されていたことは?本来であれば縛り上げて理由を吐かせることがあっても不思議ではないが」

「それも別にケモミミ様に被害があるわけじゃないし、あの監視のおかげでオレたちは早めに脱出の準備もできたからなぁ…。別に理由なんてどうでもいいよ。ケモミミ様絡みなら仕方なく縛り上げて理由を吐かせてたよ?相手が誰とか関係なくね」



 先ほどから何の確認なのか、ミィズはこれまでにあったことを色々語っている。

 どれもオレにとっては普通のことばかりだ。



「ミィズ…。だからどうしたっていうのさ?それが女心がどうのっていうのと繋がる?」



「そう、そこが分かっていないと言っている。この世界の常識で言えば

自分たちがちゃんと生活できるようにしようとしてくれる。

力ずくなら抵抗できないのに優しく接してくれる。

命を助けたのに何も要求しない。

奴隷になった時点で普通は性奴隷にされる。

後ろめたいことがあっても責められなかったら不安になる。

こんなことをしてくれる男性はいち早く結婚したり、そもそも存在しないのだ。そこにそんな優しくて強い男が現れたらどうなるか。想像力豊な信希なら考えるまでもないだろう?」



「た、たしかに…?でもそれはケモミミ様だから──!」

「本当にそうか?」



「え…?」

「さっきの会話でも、イレーナを愛していると言っていたな」

「その通りだ」



「それはケモミミ様だからか?」

「いや、違うな…」



「確かに最初はケモミミ様だから優しくしていたのかもしれない。でも今は、ケモミミ様のイレーナじゃなくてイレーナだから助けたい、力になりたいと思っているのではないのか?」



「あ…」



「ようやく気付いたか。お主は最初の入り口こそ『ケモミミ様だから』と考えていたかもしれないが、みんなの魅力を見つけ愛せる人たちだからこそ彼女たちを守ってここまで来れたのではないのか?」



 その通りだ…。なんの反論も出来なくなってしまう。



「そして、それは他のみんなにも同じだと…?」

「そう、彼女らが嫌なヤツだったら、そもそも信希が一緒に居れるような性格ではないのは十分理解している」



「でも、体の関係や結婚ってなると話は別じゃない…?」

「ん-…。言いたいことも分かるが。そもそも、今話したことの先にそうしたことがあるんじゃないのか?別々に切り分ける意味が分からないが」



「え…」



 じゃあ何か?オレはこの世界に来てから、ケモミミ様一途で行動していたはずが、いつの間にかハーレムルートを選択していたと…?マジで?



「何かおかしいか?」

「じゃ、じゃあさ!もしミィズと結婚した男が他の女と寝てたらどう…?」



「そうだな、その女が他人であれば思うところもあるかもしれないな?ワシが信希とそういう関係になっていたとして、その相手がイレーナであれば何の問題もない。むしろ混ざりたいくらいだ」



「え、えらいこっちゃ…」

「おかしいか?」



「それって他のみんなも同じだったりするの…?」

「ああ。ロンドゥナとメキオンに関してはまだ日が浅いからなまだ分からぬが、他のみんなは同じじゃと思うぞ?聞いてみればいい」



「みんな逞しくなぁぁい…?」



 オレはこの世界の常識なのか、彼女たちがすごいのか、オレが女たらしなのか、はたまた彼女たちがおかしいのか…。

 何が正しいのか徐々に分からなくなっていきそうだった…。



 ──。

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