48 / 127
目的の旅
第四十八話 御使いⅢ
しおりを挟む
まだ可能性である部分を否定できないが、オレが御使い様でこの世界に来たのには『何か役目』を与えられるためだとロンドゥナたちから教えてもらった。
神に会うなんて、絶対に面倒なことになるので望んではいないが、もしもケモミミ様の住む世界に何かあったら、それはオレにとって無視できない問題になってくる。
「それで、なにかすることがある?手伝ったり準備したり?」
「そうだな。神を呼ぶ儀式には、色々な準備が必要になる。今すぐにというのは難しいから、後日ということになるな」
「儀式の準備か…。それは皆に害があったりしないよね?」
「ああ、問題ない。体力を使うだろうから旅路には影響が出る程度だ」
「分かった。でも無理だけはしないでね?」
「もちろんだとも、そうだな…。数日中には準備が整うと思うからその日が近くなったら教えよう」
神を呼ぶ儀式とやらに何が必要なのかは、終ぞ分からなかったが数日中には神に会うことになりそうだった。
今すぐにならなくてよかったのか…、少しだけ心の準備を整える時間が出来たのはうれしいことだった。
「イレーナ…?大丈夫?」
「…大丈夫です」
明らかに大丈夫そうではない…。
オレが御使い様だとロンドゥナが告げてから、イレーナは明らかに様子がおかしくなっていた。
動揺しているような…、心配しているような何かを考えているのは間違いないだろうといった様子だ。
「心配?」
「…え?い、いや…そういうことじゃ…」
イレーナが何を考えているのか…、オレに何かを伝えたいのか…。
どんなに強力と言われている力を持っていても、愛しているケモミミ様を不安にさせたり悲しい顔をさせるなんて…自分の弱さに腹が立つ…。
元居た世界で、もっともっと人間関係の勉強をしっかりしていれば、今イレーナの事が理解出来ていたのではないか…。
彼女のことが心配だけど、今のオレの力ではどうすることもできないと、とても惨めな気持ちになる。
「とりあえず、今日は休まないか?色々考えて疲れちゃった」
「そうだな、見張りはどうしようか」
「ん、最初はオレがするよ。みんなは先に休んでくれ」
「分かった。ではイレーナも一緒にお願いできるか?」
「ロンドゥナ、イレーナも休んだ方が─」
「分かりました。信希と見張りをします」
オレの言葉を遮るように、彼女は何かを覚悟するようにロンドゥナを見つめていた。
先ほどからイレーナの言動が理解できずに、自分でも動揺しているのが分かってしまうくらいに彼女に振り回されていた。
「そ、そう?わかった。じゃあみんな、ゆっくり休んでくれ」
「「おやすみー」」
──。
オレとイレーナは焚火に当たりながら周囲の警戒をしていた。
二人とも会話をしないままどのくらいの時間を過ごしていただろうか…。出会った頃に比べると、無言でも気まずくなるなんてことはなくなったが、今夜のイレーナは話しかけにくい雰囲気があったから何となく居心地が悪く感じていた。
焚火の薪を弄りながらそんなことを考えているとイレーナから会話を振ってくれる。
「信希は驚いていませんか…?」
「ん?どういうこと?」
「いきなり御使い様と聞かされてです」
「んー。あんまり自覚が無いし、そもそもまだ確定しているわけじゃないんでしょ?だったら悩むのも面倒だからね」
「そうですけど…普通は可能性すらありませんから…」
「それもそうか。でも自分の境遇的には御使い様とやらでもおかしくない状況だからね。本当にそうならしょうがないかなって感じはしているけど」
「…」
もし本当にオレが御使い様の役目とやらを受けることになると、イレーナが心配するようなことになるんだろうか?
こういう状況になった時って、大体自分の心配をするのが常だと思うけどオレはケモミミ様以外のことは頭になかった。
「もしも御使い様の役目をオレが貰ったとしたら、イレーナは心配?」
「え、えっと…実はワタシもそこまで詳しいわけではありません…。もちろん、危険な役目もあるでしょうから心配にもなります」
「大丈夫…とは言えないよね。オレもこの世界の事に詳しいわけじゃないし」
「そう…ですね」
やはりイレーナは少しおかしな雰囲気のままだ。
オレはもう少し踏み込んでみる。
「もしかして、まだ他にも考えていることがある?」
「…」
俯き黙ってしまったイレーナに、もう喋ってくれることは無いのだろうかと思っていると─
「信希は…、御使い様の役目を与えられるとワタシたちから離れていってしまうのでしょうか…」
「え…」
一瞬だがイレーナが何を言いたいのか理解できずに戸惑ってしまう。
「この世界で、御使い様の役目は何よりも優先されるものです。どこか遠くの国に行くことになったりしたら、ワタシたちはきっと足手まといに─」
「待ってくれイレーナ。オレがケモミミ様を放って御使いの役目をやると?それはあり得ない話だよ。もしも、神がそんなことを強制してくるようなら、オレは神だって殺すよ?オレの全てはケモミミ様のためにあるんだ。イレーナは理解できないかもしれないけど、オレにとってはそれほどに重要なことなんだよ」
「ケモミミ…。このために信希は一緒に居てくれるんですか?」
やはりイレーナはオレのケモミミ愛を理解できていないのか、納得は出来ないような表情を浮かべている。
それに、ケモミミも大切だがもちろん理由はそれだけではない。
「それも待ってくれ。ケモミミがついていることでオレは皆のことが大好きだ。でもね?それだけじゃないんだよ、シアン、レスト、ポミナ、イレーナに他の皆が魅力的な人だから一緒に居たいんだよ?ローフリングでも何人かケモミミ様を見たけど、一緒に居てくれる皆ほど魅力的に感じなかったんだ。だから、ケモミミがついてるだけで一緒に居るわけじゃないよ」
「はい…」
イレーナはまた俯いてしまう…。
オレの力ではイレーナの心配を解消させることは出来ないのだろうか…。
「ま、信希!」
「ん?どうしたの?」
突然イレーナが大きな声でオレの呼ぶので、少しだけ驚いてしまう。
「た、大切な話があります!」
「お、おう?」
急にどうしたんだろうか。イレーナは真剣な眼差しでオレのことを見つめている。
──。
神に会うなんて、絶対に面倒なことになるので望んではいないが、もしもケモミミ様の住む世界に何かあったら、それはオレにとって無視できない問題になってくる。
「それで、なにかすることがある?手伝ったり準備したり?」
「そうだな。神を呼ぶ儀式には、色々な準備が必要になる。今すぐにというのは難しいから、後日ということになるな」
「儀式の準備か…。それは皆に害があったりしないよね?」
「ああ、問題ない。体力を使うだろうから旅路には影響が出る程度だ」
「分かった。でも無理だけはしないでね?」
「もちろんだとも、そうだな…。数日中には準備が整うと思うからその日が近くなったら教えよう」
神を呼ぶ儀式とやらに何が必要なのかは、終ぞ分からなかったが数日中には神に会うことになりそうだった。
今すぐにならなくてよかったのか…、少しだけ心の準備を整える時間が出来たのはうれしいことだった。
「イレーナ…?大丈夫?」
「…大丈夫です」
明らかに大丈夫そうではない…。
オレが御使い様だとロンドゥナが告げてから、イレーナは明らかに様子がおかしくなっていた。
動揺しているような…、心配しているような何かを考えているのは間違いないだろうといった様子だ。
「心配?」
「…え?い、いや…そういうことじゃ…」
イレーナが何を考えているのか…、オレに何かを伝えたいのか…。
どんなに強力と言われている力を持っていても、愛しているケモミミ様を不安にさせたり悲しい顔をさせるなんて…自分の弱さに腹が立つ…。
元居た世界で、もっともっと人間関係の勉強をしっかりしていれば、今イレーナの事が理解出来ていたのではないか…。
彼女のことが心配だけど、今のオレの力ではどうすることもできないと、とても惨めな気持ちになる。
「とりあえず、今日は休まないか?色々考えて疲れちゃった」
「そうだな、見張りはどうしようか」
「ん、最初はオレがするよ。みんなは先に休んでくれ」
「分かった。ではイレーナも一緒にお願いできるか?」
「ロンドゥナ、イレーナも休んだ方が─」
「分かりました。信希と見張りをします」
オレの言葉を遮るように、彼女は何かを覚悟するようにロンドゥナを見つめていた。
先ほどからイレーナの言動が理解できずに、自分でも動揺しているのが分かってしまうくらいに彼女に振り回されていた。
「そ、そう?わかった。じゃあみんな、ゆっくり休んでくれ」
「「おやすみー」」
──。
オレとイレーナは焚火に当たりながら周囲の警戒をしていた。
二人とも会話をしないままどのくらいの時間を過ごしていただろうか…。出会った頃に比べると、無言でも気まずくなるなんてことはなくなったが、今夜のイレーナは話しかけにくい雰囲気があったから何となく居心地が悪く感じていた。
焚火の薪を弄りながらそんなことを考えているとイレーナから会話を振ってくれる。
「信希は驚いていませんか…?」
「ん?どういうこと?」
「いきなり御使い様と聞かされてです」
「んー。あんまり自覚が無いし、そもそもまだ確定しているわけじゃないんでしょ?だったら悩むのも面倒だからね」
「そうですけど…普通は可能性すらありませんから…」
「それもそうか。でも自分の境遇的には御使い様とやらでもおかしくない状況だからね。本当にそうならしょうがないかなって感じはしているけど」
「…」
もし本当にオレが御使い様の役目とやらを受けることになると、イレーナが心配するようなことになるんだろうか?
こういう状況になった時って、大体自分の心配をするのが常だと思うけどオレはケモミミ様以外のことは頭になかった。
「もしも御使い様の役目をオレが貰ったとしたら、イレーナは心配?」
「え、えっと…実はワタシもそこまで詳しいわけではありません…。もちろん、危険な役目もあるでしょうから心配にもなります」
「大丈夫…とは言えないよね。オレもこの世界の事に詳しいわけじゃないし」
「そう…ですね」
やはりイレーナは少しおかしな雰囲気のままだ。
オレはもう少し踏み込んでみる。
「もしかして、まだ他にも考えていることがある?」
「…」
俯き黙ってしまったイレーナに、もう喋ってくれることは無いのだろうかと思っていると─
「信希は…、御使い様の役目を与えられるとワタシたちから離れていってしまうのでしょうか…」
「え…」
一瞬だがイレーナが何を言いたいのか理解できずに戸惑ってしまう。
「この世界で、御使い様の役目は何よりも優先されるものです。どこか遠くの国に行くことになったりしたら、ワタシたちはきっと足手まといに─」
「待ってくれイレーナ。オレがケモミミ様を放って御使いの役目をやると?それはあり得ない話だよ。もしも、神がそんなことを強制してくるようなら、オレは神だって殺すよ?オレの全てはケモミミ様のためにあるんだ。イレーナは理解できないかもしれないけど、オレにとってはそれほどに重要なことなんだよ」
「ケモミミ…。このために信希は一緒に居てくれるんですか?」
やはりイレーナはオレのケモミミ愛を理解できていないのか、納得は出来ないような表情を浮かべている。
それに、ケモミミも大切だがもちろん理由はそれだけではない。
「それも待ってくれ。ケモミミがついていることでオレは皆のことが大好きだ。でもね?それだけじゃないんだよ、シアン、レスト、ポミナ、イレーナに他の皆が魅力的な人だから一緒に居たいんだよ?ローフリングでも何人かケモミミ様を見たけど、一緒に居てくれる皆ほど魅力的に感じなかったんだ。だから、ケモミミがついてるだけで一緒に居るわけじゃないよ」
「はい…」
イレーナはまた俯いてしまう…。
オレの力ではイレーナの心配を解消させることは出来ないのだろうか…。
「ま、信希!」
「ん?どうしたの?」
突然イレーナが大きな声でオレの呼ぶので、少しだけ驚いてしまう。
「た、大切な話があります!」
「お、おう?」
急にどうしたんだろうか。イレーナは真剣な眼差しでオレのことを見つめている。
──。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる