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王都

第二十八話 なんだか怪しい人が居たみたい

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 昨晩、この世界に居る目的を考えている途中で、どうやら眠ってしまっていたようだ。



 今朝の目覚めも良い感じで、長旅の疲れを忘れてしまっているかのようだった。



「さぁて、今日は何をしようかな」



 ─コンッコンッ



 まるで、オレが目覚めるのを狙っていたかのようにドアがノックされる。



 …?誰だろう…。



「はーい、どなたですか?」

「信希、イレーナです」



 どうやらイレーナが訪ねてきたみたいだった。



「少しだけ待ってね、今開けるよ」

「はい」



 オレはすぐに身支度を整える。

 慣れてきたとはいえ、流石に寝起きの姿を見せるの気が引ける。

 いつものように『想像の力』を使うことへ何の疑問も持たない自分に気付いたが、今はイレーナ優先だ。



「─お待たせ、どうしたの?」

「部屋に入ってもいいですか?」

「ああ。もちろん」



 その時のイレーナの表情は、これまでに見せてくれていた笑顔ではなく少し曇っているような、どこか申し訳なさそうな感じがした。



 オレの宿泊している部屋には、一人部屋だからか机や椅子は用意されていなかったので、二人でベットに腰掛ける。



「どうしたの?大丈夫?」

「あの…信希…」



「ゆっくりでいいよ、何かあった?」

「はい。確証はなくて、危険かもしれないと思っているだけですが、信希がフォレストバジリスクを討伐してから、信希のことを監視している人たちがいます」



 イレーナの言葉に疑いを感じたが、その真剣な表情から冗談ではないとすぐに理解する。



「そ、それはどうしてわかったの?」

「ワタシとユリアさんが確認しています。昨日、信希と出かけている時にすでに監視している人物を確認しましたから…」



「困ったな…」

「ですが、暗殺とかそういった類ではないと思っています。これはユリアさんと同意見です」



「何が目的か…。なんて分かるわけないか」

「そうですね…。こういった場合、後手に回ってしまうので『早めに信希へ報告してどうするか決めよう』とミィズさん達と話し合いました」

「なるほど…」



 どうしたものか…。

 これは結構深刻な問題かもしれないのか?あまり問題にも感じないのだが、イレーナの醸し出す空気がどうにも重大な問題だと告げてきている。



「ちなみに聞きたいんだけど、その監視しているヤツらの正体ってわかったりするのかな?」

「あくまでも可能性ですけど、国絡みの可能性が十分に高いかという結論に…」



 オレが居ないところで女性陣の間で会議でも行われていたのか、イレーナはすぐに答えてくれる。



「国か…。理由も分かる?」

「一番濃厚だというだけですけど、そう考える理由は三つあります。

一つ目は、「信希が討伐した」という情報がこの街に出回っていないこと。

二つ目は、信希がフォレストバジリスクを倒したことを知っているのは、デストのパーティーと討伐隊だけということ。

三つ目は、かなりの手練れだということ。普通の人間では気付けないくらいの人のようですから」



「確かに、どれも信憑性があるね」



 これはどうしたもんかなぁ…。



「もしも国が相手になった時って、どんなことをしてくるか想像でもいいから教えてくれない?」



「これはミィズの意見ですが、ワタシたちを人質に『信希の力』を利用するつもりかもと、その可能性が濃厚だとワタシも考えています」

「なるほど…」



 もしも、イレーナの言うようなことが現実になったら、オレは確実に人類根絶やしにしてしまう。

 そうならないためにも、みんなに怖い思いをさせないためにも、早めに行動した方がよさそうだ。



「対策するとしたら、この街を出るか、手を出せないように先手を打つか、見つからないように隠れるか…」

「あの、信希…」



「ん?どうかした?」

「…」



 イレーナは少し俯き、どこかいたたまれないような表情を浮かべている。



「イレーナ、オレに遠慮することなんてないよ?何かあるなら言ってほしい」

「はい…。その、信希はワタシたちが近くに居ると人間の生活圏で暮らすのが難しくなるのではないかと思っていて…」



「なんだ、そんなことか」

「え…?」



「イレーナ、オレはね人間の中でもかなり変わっていると思うんだ。イレーナの常識だとこの世界の人間たちは、今言った通りなのかもしれないけど、オレは違う」

「と…言うと?」



「オレはこの世界の人間たちにあまり興味はないんだ。これは元居た世界でも一緒で、特にここに住みたいとか人間と一緒に居たいなんてことはないよ」

「それは、ケモミミが良いってことですか…?」



 イレーナはそう言いながら、美しいケモミミをぱたぱたと動かしている。

 ケモミミにも慣れてきたのか、真剣な話をしているからか、オレが暴走することはなく─



「もちろんケモミミ様は最高だけど、今一緒に居るみんなは『ケモミミ様だから』一緒に居たいわけじゃない。最初はケモミミからだったけど、今は皆のことを女性として魅力的な人たちだと思っているよ」



「そ、そうですか…」



 自分でも恥ずかしいことを言っていると分かっているが、彼女たちと接する時に変に取り繕うのは間違っている気がした。

 ケモミミ様たちと生活してきて、オレの中で何かが変わっていくようなそんな気がしていた。



「だから、オレのこと心配しなくていいよ?イレーナも自分のやりたいようにやってくれ。気を遣われすぎると申し訳なくなる、悲しそうな顔なんて見たくないよ」



 彼女の瞳をまっすぐに見つめて自分の本音を告げていく。



「分かりました。信希は出会った頃に比べて変わりましたね」

「そう?だったらイレーナやみんなのおかげかもね」



 イレーナは微笑み、オレの言葉を受け止めてくれる。

 オレの性格や行動が変化してきているのであれば、それは間違いなくこの世界に来て関わってきた人たちのおかげだ。



「でもどうしようか、悩んでいても変わらないし。イレーナに何か考えはない?」

「そうですね、一番問題が少ないのは王都を出ることでしょうか」



「そうなるよね、すぐに出た方がいいのかな。昨日から監視されていて、フォレストバジリスクの討伐からだと二日経ってるよね」

「そうですね、街を出るのであれば早ければ早いほど良いかと思います」



「うん、わかったよ。朝食を取ったらみんなで作戦会議をしよう」

「分かりました。皆さんを起こしてきます」

「ありがとう、なるべく全員固まって行動しよう。準備ができたら呼びに来て?」

「はい、それがいいでしょうね」



 オレはそのままイレーナを部屋に送り、自室で再び旅に出るための支度を整えていく─。



 ──。
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