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3章 サマク商国
78.人魚の海運屋
しおりを挟む「人魚の海運屋…?」
訝しげに呟いたたてのりの声に反応してか不意に海面が不穏に泡立ち何か大きなものが上ってくる。
夜の真っ黒な海に泡立つ海面、大きな影が迫ってくる様子はひどく不気味だ。
固唾を呑んで見守っていると水の中からつぶらな瞳の大きな魚人が現れた。
確実に想像をするような人魚ではない、ずんぐりむっちりとした灰色の体に厳ついヒゲと鰭の生えた生き物である。
額に巻かれたハチマキには辿々しい字でてんちょうと書かれていた。
「あい!お客さ?のる?」
「え、あ、あの…」
「ファオククまで、かしだし!いっぴき、ぎんか2000!」
初めに出てきたのと同じ弾丸のような体につぶらな瞳の生き物が数匹現れる。
昼間だったら可愛いと思えたかもしれないが、何匹現れようと不気味さが増すだけだった。
「初利用なんやけど、どんな感じなんや?」
「これのる!おっきいお客さもふたりくらいのれる!あと、エーット、カップルカワイイ!わりびき!」
ずんぐりむっちりが海中から出してきたのは粗末な板でできた小さな方舟だ。
ボロボロに年季が入ったものだが、作り自体はしっかりとしたものである。
「…どうする?これで行くんやったら……ギリギリ足りるかもしれん…」
得体の知れないものへの恐怖と、数日かかるわりに屋根すらない頼りない方舟に悩みながら全員で円陣を組む。
しかし、話し合ったところで金は湧き出てはこない。
そして、話し合ううちに隣の豪華客船は出発して見る間に遠くなっていった。
仕方なく一行はずんぐりむっちりの生物にエルフ島まで乗せていってもらうこととなった。
「この人数をエルフ島まで乗せてくれ」
「あい!じゃ、のって!タイジュウはかる!」
生物は看板裏の機械を鰭で指す。
順番に乗った結果、セバスチャンはひとりで1匹が必要で莉音と等加をうまく利用してもあと2匹、合計3匹が必要だった。
3匹の合計は金貨1と銀貨1000で僅かに手持ちを超えてしまった。
全員の視線が等加とたてのりに集まる。
「な…なんだ?」
「ここしかないよな?」
「ないな。ワンチャンスにかけるならこいつらや」
「うんうん、認めたくはないけど世間一般的にはお似合いやで」
小声で話し合うタスクとアルアスル、莉音にたてのりは嫌な予感を覚えて眉を顰める。
アルアスルはにこにこの笑顔で生物にたてのりと等加を突きつけた。
「ここ実はカップルやねん!お似合いやろ?エルフ同士やで」
「は、ネコ…!?」
嫌そうにするたてのりとは相反して生物は目を輝かせ、水面を鰭で叩いて嬉しそうに泳ぎ回った。
「カップル!?カワイイ!おにあい!おにあい!ワリビキする!」
物申したげに口を開くたてのりも割引額を見て閉口する。
頭が良さそうな生き物ではないが、その通り、カップルというだけで半額以上の割引だ。
カップルと口先で偽装するだけで手持ちのお金がギリギリ足りている様子にたてのりはそれ以上何も言わなかった。
アルアスルが銀貨を手渡すと、生物はお腹の脂肪に挟み込んで背を向けた。
「はい、のって!もうすぐいく!」
水中から現れたてんちょうと同じ生物が牽引する小舟に恐る恐る足を乗せる。
セバスチャンが一隻、タスクとアルアスルと莉音で一隻、たてのりと等加で一隻のいつも通りの席分けだ。
「じゃ、よろしく、ダーリン」
等加がたてのりに手を出すよう促しながらお茶目に笑う。
仏頂面をしながら、生物の手前下手な反応もできずたてのりは素直に手を差し出してぎこちなく等加をエスコートした。
全員が乗り込んだところで生き物は泳ぎ、縄を引っ張って船を牽引する。
不安定に左右に揺れながら一行は真夜中の大海原へと出発した。
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