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3章 サマク商国
53.砂漠
しおりを挟むアルアスルの嫌な予感は見事に的中した。
「あぁ~…!あづい…!」
「うるさいぞタスク…」
ドワーフ村のあった山を越え、数日進むとやがて目の前は平坦な森になった。
ガウもエレジーも大喜びで収納空間から出てきて走り回っていたのがはるか昔のことのように思える。
森で咲き始めた花や春の気配に青々としげる木々を余裕で眺めていた昨日までが恋しい。
「そ、んなこと…言うたって…!ここまで、とは…」
「はぁ…はぁ…」
歩みを進めるごとに砂漠の気配を感じてはいたものの、視界が開けて永久に続く砂が見えたときは流石に全員が唾を飲み込んだ。
たてのりはプレートを脱ぎ、莉音は白一色の旅装束に着替えて等加も肌が露出しないように布を羽織る。
準備をしっかりとして一行は覚悟を決めてから砂漠へと踏み込んだ。
しかし、実際は覚悟よりも過酷な現実が待ち受けていた。
滑らかな砂に足がとられて前に進むことも簡単ではない。
必死になって上がった呼吸をするたびに体温よりもはるかに暑い風が体内に入ってきて肺を焦がした。
何の遮蔽物もないために浴びるしかない太陽の光は肌を直火で炙っている。
焚き火で焼かれる魚はきっとこんな気持ちだろうと思いながら無駄口を叩くこともできなかった。
汗をかいているということも認識できないほど汗で濡れてもうこれ以上はどこからも水分が出ない。
「やっぱり…砂漠越えは大変だね…」
頭から羽織った布がずり落ちないように押さえながら等加は目を細めてカンカン照りの太陽を見上げる。
最も背の低い莉音は地面から上がってくる熱気に目を回した。
「こ、これが…砂漠…」
「アホ、変に喋るな!死ぬぞ」
比較的余裕そうなアルアスルは持ち前の身軽さと慣れた様子で砂に足をとられていない。
尻尾の毛は暑苦しいがそこまで酷く汗をかいている様子もなかった。
「普通は歩いて行ったりはしやん…暑さに、強い…騎乗ペットとかに…乗るねん…でも高いし俺らの財力では…」
アルアスルは浅い呼吸を繰り返しながら辛そうに一行を先導する。
次いで進む等加を、海の浅瀬で足をつけて遊ぶ子供のように熱された砂に埋まる莉音を何度も引き上げながらたてのりが進む。
一番後ろをタスクがのろのろと辛うじてついてきていた。
「ケチった結果死ぬんちゃうかこれぇ…!」
「口動かすな、足動かせ!」
振り返ると先程までいた森がゆらゆらと揺れて遠くに見える。
まだ森が見える範囲にしかいないことでタスクは完全に萎えていた。
「サマクまで、どれくらいだったか?」
久しぶりに口を開いたたてのりの声は掠れていた。
アルアスルはたてのりの口に水を入れた容器をぶち込んで少しだけ飲ませながら全員の顔を見回す。
「…この速度やと……少なくとも、4日…いや5日はかかるんちゃうか…」
たてのりとアルアスルの2人だけで砂漠を越えたときは3日程度だった。
人が増えれば増えるほど食料や水の管理も厳格になり、歩みも遅い者に合わせることで日程が伸びることは仕方のないことだ。
涼しい山に住んでいた莉音と街育ちのタスクが絶望の表情を浮かべる。
「とりあえず今日は、次の岩場まで行かんと!休んでたら死ぬぞ!」
アルアスルの叱咤にげんなりしながら一行は気合いだけで足を動かした。
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