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2章 西ドワーフの村
49.タスクの文明
しおりを挟むドワーフ村の有り様は見れば見るほどそれはもう凄惨なものだった。
屋根は削げ落ち土で作られた壁は崩れ、立派な作物のなる畑はぐちゃぐちゃに踏み潰されている。
「はぁ、でも皆さんが無事だっただけ不幸中の幸いというか…」
背伸びして屋根の雨樋を修理をする神父がため息をつく。
「村人は全員無事やったんか?」
器用に屋根の上に登って崩れた部分を塞ぐアルアスルが下にいる神父の嘆きに反応する。
気付けば、誰からともなく一行は各々復興の手伝いをしていた。
身のこなしが軽いアルアスルは屋根や高い部分の修復を、莉音は畑の土を起こし、たてのりは重い瓦礫を運び、等加は昨日の傀儡をまた施そうとして止められていた。
タスクは村の鍛冶場に行ったきり姿を現していない。
「ええ…あ、いえ、そういえば外交担当の夫妻が見えませんね…村にいるかはわからないのですが」
アルアスルの問いかけに神父は眉を寄せる。
「外交担当の夫婦?」
「えぇ。ここの人々は基本的に自給自足と物々交換のため村から出ないのですが、余った鉱石などはたまに街へ引き換えに行ったりもするんです。でもほら、ドワーフは…その…街では生きづらいですから」
ドワーフはヒューマンやエルフといった世界の大多数を占める種族に奴隷として使われる差別対象だ。
小さくずんぐりとして醜い容姿や山籠りをする種族性は気味悪く、それに加えて丈夫さや真面目さ、争いを好まない性格などが奴隷にはうってつけだった。
街にいるドワーフは基本的に奴隷として連れ去られたか奉公などに出された者ばかりである。
鉱石を持って引き換えになど出たらどんな目に遭うか想像に難くない。
「だから、村の皆さんは世渡りが上手なとびきりの美男美女を外交役として決めて、被害を減らそうと考えたらしいです」
「そ…それは…随分とパワー解決というか…現金な話やな…」
「でも、実際それがうまくいってるそうなんですよ」
神父は差別する人間を心から軽蔑するかのように目を伏せると扉の修理へ移った。
その夫婦の安否がわかっていないというのは心配なことだが、もしも跡形もなく食われていれば探すこともできない。
アルアスルは屋根から屋根を飛び移りながらなんとはなしに美男美女を探した。
猫人族の間では瞳の美しさと尻尾の毛並みで美しさを判断するため、ドワーフの美醜などわかるはずもない。
とびきり目を引いて、顔のパーツが整っているなというドワーフを見つけたと思ったらタスクだった。
「お!アル!身軽やな」
タスクは何やら怪しい機械をたくさん携えて村人に配って歩いている。
「なんやタスク、なんか作ってたんか?」
「せやねん!いやー鍛冶場が小さいからちょっと苦労したけどできたわ!」
タスクはたくさんの中からいくつかの機械をアルアスルに見せた。
タスクの作ったものにしては装飾が少なめでシンプルな機械である。
歯のようなものと石が嵌め込まれた小さめの杖に見える。
「それ何?」
アルアスルが尋ねる前に近くの畑で作業をしていた莉音が近付いてきて覗き込む。
村人も何人かついてきて勝手に触っては不思議そうにした。
「これは文明や。簡易的なもんやけど、街の方で使われてる農具を真似したもんやで!」
タスクは莉音が一生懸命土を退けていた畑に歩み寄ると杖の先についた歯を突き刺した。
途端に歯はゆっくりと回転を始め、土を容易に耕し始めた。
「おぉ…!」
「これだけやないで!こっちは街の引っ越し屋が使っとる軽く物を運べる形状の背負子や。こっちは移動が楽になるスクーター、こっちは…」
タスクは村人の前で自分の作った作品を説明し、村人は各々手に取って使用感を確かめた。
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