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2章 西ドワーフの村
46.振り切った力
しおりを挟む気味が悪いほどの底力が腹の奥底から湧いてくる。
「等加ちゃん、これ…」
「一時的なもんだけど、強力なバフさ。この間にやっちまいな」
等加に言われるまでもなく、たてのりとタスクは肉塊が動くことすら出来なくなるほどキメラを木っ端微塵に吹き飛ばした。
倒れていたドワーフたちも流れる血を顧みず再び立ち上がってキメラを殴り飛ばす。
バフの力でたてのりが覚醒してからは、本当に一瞬の出来事だった。
あれほど数がいたキメラは次第に起き上がることもできず、ただの血だらけの肉に成り下がっていった。
教会のすぐ近くとは思えないほど生臭い鉄の臭いがあたりに充満する。
「はぁ…はぁ…」
前が見えないほどに血に塗れ、息を上げたたてのりが大剣を振って血を払ったところで最後のキメラが倒れた。
「はぁ…これで、最後か…?」
大鎚を下ろしたタスクが周囲を見回しながら呟く。
美しかった泉は赤く染まり、教会の外観はヒビが壁を走って窓が割れ、扉も外れている。
バフが切れたドワーフたちは地面に伏してうめきをあげていた。
木漏れ日しかなく静かで神聖だった教会は一瞬で血の海になった。
等加は最後のキメラが起き上がらないことを確認して踊るのをやめた。
「…は………っ」
「たてのん!!」
等加が踊るのをやめた瞬間、たてのりがその場に崩れ落ちる。
駆け寄ったアルアスルと等加を辛うじて一瞥してたてのりはすぐに目を閉じた。
心臓の音を確認するが、止まってはいない。気絶しているようだった。
「傀儡のバフは肉体の限界を突破して底力を無理やり出させるものなんだ。しばらくは起きられないだろう」
「たてのんしかろくな戦力がないと、どうしても無理させるなぁ…とりあえず回復だけでもしとこ」
アルアスルは莉音を連れてひとまず回復を頼む。
莉音は自分の手を見て、その場の匂いを嗅ぎ、アルアスルを見上げた。
「負傷者を全員ここに出してくれへん?今やったらまとめて回復できる気がする」
莉音は怪我を負った全員を教会の中に入れさせて、自分は女神像のすぐ足元に膝をついた。
村人と聖職者たち、パーティのメンバーで数十人では済まない人数が一堂に会する。
聖女たちは神の子だと言われていた先輩である莉音の力を一目見ようと前のように押しかけた。
「主よ…我らが主よ…」
莉音の囁きに女神像から柔らかな光が溢れ応える。
「彼らを、救い給え、癒し給え…天海のお恵みを…」
光はいつもよりも白く輝いて教会のすべてのものに降り注ぐ。
欠けた肉は元に戻り、蒼白だった顔は安らかになる。
聖女たちは憧れの目でその様子を見ていた。
莉音の光が消えるよりも先に教会にいたもの全ての怪我が修復され、活気が戻る。
疲労感はありながらもたてのり以外はみんな回復し切ったようだった。
「莉音」
祈りを捧げ続ける莉音の肩に手が置かれる。
額から汗をこぼしながら見上げた莉音の瞳に映ったのは神父だった。
「ありがとう。よくやってくれた」
その言葉を聞き届けて莉音はそのまま眠りについた。
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