太陽の向こう側

しのはらかぐや

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1章 結成

29.見せたいもの

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斜陽が窓から差し込み会場をほんのりと赤く染めている。
会場はお開きの雰囲気となり、貴族たちは次々と帰り始めた。

「それではゼーローゼ公爵、これにて失礼いたします」

「あぁ、オリヴェ伯爵、また来てくれたまえよ」

最後まで残っていた老紳士が深々とお礼をして自家用馬車に乗り込んだのを最後に来賓は全て帰路についたようだ。
周囲を見回してアルアスルは背伸びをする。

「えーっと、ほな俺らはどうやって帰るかなぁ…」

行きは迎えの馬車が来ていたが、帰りまで貸してくれるかはわからない。
山を越えるにしても全員が徒歩だと一晩くらいは野宿になってしまうだろう。
それとなく帰る手段がないことを示唆しながらアルアスルはゼーローゼを一瞥した。

「今から山を越えるのは大変なことだ。諸君には部屋を用意してある。泊まっていきなさい」

ゼーローゼは馬車どころか優しく声をかけて宿泊を勧めた。
その場で遠慮する人間は誰もいない。全員が大人しく広間へと戻っていく。

「それに、諸君らに見せたいものもあるのだ」

年齢に見合わず悪戯な笑みを浮かべたゼーローゼにアルアスルはお宝の気配を察知して目を輝かせた。
唯一遠慮しそうだったたてのりもその顔を見て声を上げることも諦める。

「先に湯浴みをしてくるといい。部屋は使用人に案内させよう」

それだけ告げてゼーローゼは私室へと戻っていった。
代わりに髪色の暗いヒューマンが一行の前に現れて、長い廊下を先導する。
教会のものよりもふかふかしたマットに見たこともない細工や材質の壺、よくわからないが高そうな絵などを横目に通り過ぎながら莉音は受けたことのない待遇に恐縮した。

「なんか…ええんかな、こんな…」

「ご機嫌とられてるみたいで気持ち悪いよな~」

「そんな失礼なこと言うな!!」

気楽に笑って莉音に同意するアルアスルに、聞いたこともないたてのりの怒声が屋敷に響き渡った。


田舎のエルフが好んで着る着心地のいい軽くゆったりとした寝巻きはこれだけで屋敷を歩き回っても問題ないようなデザインになっていた。
風呂上がりに裾の長さを調整していた莉音とトウカを案内人が呼びにくる。
引きずる裾を気にしながら辿り着いた応接間には既に男性陣も通されていた。

「はぁーすごい…」

応接間にはおそらくゼーローゼが世界各地から集めたであろう数々の宝石や絵画、彫刻が壁や棚一面に並んでいた。
お宝に目がないアルアスルは落ち着いて椅子に座っていられずソワソワと部屋を見回している。

「この部屋だけでどんだけの価値があるんやろか…流石にこんだけは盗みきれへんなぁ」

たてのりはアルアスルを叱ろうと口を開くが、彼の性質や生業を考えて呆れたようにため息を吐いて肩をすくめるだけにとどめる。
しばらくして奥の重厚な扉が開いて部屋着に着替えたゼーローゼが姿を現した。

「どうだね。盗賊であるアルアスルくんならこの部屋を気に入ってくれるかと思ったのだが」

盗賊と呼ばれて一行は身構えるがゼーローゼは何も気にした様子はない。
むしろ、名高いお尋ね者であるアルアスルが一生懸命にコレクションを観察している様子にどこか得意げだった。

「いやぁ、もちろん!ただ金積んだだけで手に入る代物やないでしょこれ!王国の秘宝庫より値打ちあるもんもあるんとちゃうか…」

興奮気味のアルアスルにゼーローゼは頷いて目を細める。

「実はね…つい最近、この大国でも傾くような代物を手に入れてね…今後君たちが旅をするなら様々な財宝に出会うかもしれないが、これは裏市場でも滅多に流れない大変貴重なものなんだ」

もったいぶるゼーローゼにアルアスルは焦れて尻尾を振る。

「そんなええもん見せてくれるんですか?なんやろ~東の大陸の竜の逆鱗…千年に一度咲くとかいうトワの雌花…海底のオーパーツ…なんやろなぁ…なぁたてのん!」

アルアスルがあまりにも目を輝かせるため、最初はあまり興味のなかった一行も少しだけ期待が募ってきた。
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