中二な僕がささやかな祝福で生き延びる方法

うさみん

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110,争いの種

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 見渡す限りの広い平原に、東西に別れて軍隊が睨み合っていた。

 その数は両軍合わせて一万余りで、昨今の小競り合いの中では最大規模の物である。

 小競り合いの切っ掛けは『国境付近の複数の集落の殺戮と強奪』という血生臭い物で、真偽も定まらないうちに御互いに責め合い、それを疑問に思う者も無く、周囲の村や町を巻き込み大きな争いに急速に発展した。

 平原では双方が殺気立ったまま、御互いに睨みを効かせて一触即発の緊迫した状態が続き、殺し合いの幕が上がるのを待ちわびているかの様だった。

 シャルダンの居た街での人々の話題に、戦争や小競り合いの話など全く上らず、小さな噂さえ聞き及ぶ事も無かったのに、それを裏切る様にこの場所だけが殺伐とした別世界と化していて、正しく異様だった。

 今まで旅をしてきたのが、比較的小規模な村や町だったので、何処にこんなにも人が居たのか、ソウタにはまるで想像も付かなかったが、一万にも上る狂者の様に殺気立った人の群れから黒い霞みの様な物が発ち昇ってくるのに気付く。

 戦場の遥か上空で様子を伺いながら、眼下を緊張した面持ちで見詰めていたソウタは、感じた事のある嫌な気配に身を震わせる。

 一度死んだ事のあるソウタは、死の気配に敏感だった。
 あの村よりも濃い死の気配は、まるで黒い蛇がとぐろを巻いて戦場を囲み込み、命を刈り込もうと鎌首をもたげているかの様だった。

「これは普通じゃない・・・。」

 フルリと身を震わせ、戦場を包み込む死のかいなを凝視する。
 生き物の様に蠢き、その濃さを増していく死の気配を良く見ると、湧き出でる起点が在るのに気が付いた。
 その忌まわしい起点は、戦場に転がった人の頭部程の大きさの黒い岩だった。
 更にそれを良く視ると、何処からか力が注ぎ込まれているのに気が付いた。
 注意深くその注ぎ込まれる力をたどり、見落としそうなほど細い糸を見出だす。
 その糸の先を辿ると、その場所を心に刻む。
 そうしている間にも嫌な気配が更に強くなり、ソウタは拳を握る。

「急いだほうが良さそうだ。」

 結界を幾重にも張り、起点事包み込んで死の気配の流出を遮断する。

 この大規模な戦場を網羅できる規模の奇跡を起こすには、かなり無理をしなければ成らなかった。
 奇跡の魔法の中にヒールだけでなくキュアも追加しておく。
 気休めだが、キュアには浄化作用が有る。
 死の気配による精神の汚染を、少しでも軽減出来ればと考えたのだ。

 ストックは全て吐き出し、無駄を無くす為に範囲の狭い結界を幾つも連結してフェンスの様に囲う結界を造る。

 魔法附与を行ってから、魔法の精度は上がっていた。
 その為、奇跡の準備に必要な時間を最小限で行える事は、ソウタにとっては行幸だった。

『争いを回避して解決を考える気持ち』 『家族を想い相手を想う気持ち』を奇跡に込める。

 流石に魔力を使い過ぎて、ソウタは自分の姿を保つ事が出来なくなった。
 今のソウタはまるで、幻か幽霊か実体の無い霞みも同然だ。 
 しかし、ソウタはそんな自分を省みることはしなかった。

「神の奇跡を皆に・・・。」

 穏やかに微笑むと『奇跡』を発動させた。
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