106 / 111
106,流転
しおりを挟む
朝食に呼ばれるまでの時間をひたすら魔力の回復に充てたものの、充分に回復したとは言えなかった。
魔族戦に続けて魔法附与を行ったのは、魔力消費の負荷が大き過ぎたようだ。
シャルダンが魔法附与を行った時には、此処まで魔力を消費して居なかった様に見て取れたのだが、個人差なのか、はたまたマジックバック作成は特別なのだろうか?
それとも魔族の魔石を使った為だからだろうか?
魔族の魔石は魔物の魔石とは一線を画する様で、性質も純度もまるで違うのだが、魔法附与するのに魔石なら何でも良いだろうと軽く考えて使ってしまったのだ。
どちらにせよ確認する術を持たないので確証が得られない。
それにしても、魂を消費した訳ではないので意識を失う程のダメージでは無いが、魔力を失いすぎると自分の姿を保持するのにも影響が出てくる。
今の魔力残量は、無理する事無く姿を保てるギリギリのラインだ。
魔法では魔力は回復しないし、魔力を回復させるアイテムは高価過ぎて手が出せない。
時間が一番有効なのだが、姿を見せないと不審に思われるだろう。
表面上は何でもない風を装う積もりだが、見抜かれるだろうか?
部屋の中は魔力を誤魔化す結界がまだ有効だが、部屋から出たら効力を失う。
突っ込まれたらどう返そうかな?と思案しつつ、部屋を出て食堂に向かう。
食堂では、シャルダンが執事と話し込んでいる姿が見られた。
「おはようございます。」
声を掛けるとシャルダンの視線がこちらに向く。
「おはよう、ソウタ。随分と疲れている様だが、もしかして眠れなかったのかな?」
探られているように感じられるのは、自意識過剰なのかそれとも別の理由があるのかイマイチ読みきれない。
「そうなんです。馴れない豪華な部屋で緊張してしまったみたいで・・・。」
話を合わせて殊勝な顔で誤魔化す。
示された席に座り、並べられた朝食に口をつける。
すぐさまエネルギーに変換していくけれど、砂上に水を注ぐ様なもので全く満たされない。
こんなに効率が悪かっただろうか?
取り敢えず魔法附与の目的も果たしたし、師事してもらう事も上手く断らなくてはならないのだが、どう話を持っていくべきか悩ましい。
相変わらず細かい問題が山積だけれども、上手く解決していかなければいけない。
この世界に来てから本当に苦労続きなので、安らぎが欲しいなぁと、思わず現実逃避したくなる。
「気負わせてしまったのかな?不都合があれば遠慮無く言ってくれれば君に合わせるよ?」
警戒心を抱かせない優しげな声でシャルダンが様子を伺ってくる。
そんな甘い言葉に後ろ髪を引かれるような錯覚を覚えるのは、消耗していて気持ちが少し後ろ向きな為だ。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。それよりも・・・少しお話しをさせていただきたいのですが、この後お時間よろしいですか?」
俺の現実逃避と、この世界の命運は比べる迄もない。
深刻な俺の表情に何か思うところが有ったのか、シャルダンの視線が鋭くなる。
「わかった。君のために時間を取ろう。」
「ありがとうございます。」
シャルダンが食事を終えたタイミングを見計らい、俺も食べ終える。
「私の書斎に来たまえ。」
「はい。」
席を立つシャルダンの後に続いて食堂を出る。
廊下を歩きながら、御互いに何も話さない。
沈黙は若輩者の俺に取ってはプレッシャーになる。
そんな胸中とは裏腹に、シャルダンの書斎のドアに辿り着く。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
促されるままに部屋に入り、シャルダンに続いて革張りのソファーに腰掛ける。
対面に座ったシャルダンに視線を合わせると、意を決して 前置きはせずに話す。
「師事して頂けるという折角のご厚意のお話でしたが、申し訳ありませんが辞退させて下さい。」
深々と頭を下げた俺に、シャルダンの不服そうな声が掛けられる。
「何故だね?君に不利益な事は全く無い筈だよ?理由を聞かせてくれないかね?」
「今の俺の急ぐべき優先順位の上位が魔法附与では無いだけです。いずれはと考えては居ますが、今では無いのです。」
強目の口調ではっきりと言い切ると、シャルダンの様子を伺う。
シャルダンは俺の顔をじっと見詰めた後、深く息を吐く。
「決意は固いようだね・・・。」
「すみません。」
申し訳なさそうな俺に、シャルダンは苦笑する。
「残念だが、仕方がない。」
シャルダンは懐から紋章の入ったメダルを取り出す。
「これは、私の所に所属する魔法使いである印だ。魔法協会のある所なら便宜を図ってもらえるだろう。紛失して悪用されると困るので、肌身離さず持っていて欲しい。君の優先するべき事を終えたら、再び訪ねて来たまえ。その時に改めて師事してあげよう。私の所在は、魔法協会で此を見せて尋ねれば知ることが出来る。待っているよ、ソウタ。」
あっさりと引き下がってくれたわけでは無いようだが、ここで受け取らないのは不味そうなので、丁重に受け取る事にする。
「ありがとうございます。出会ったばかりの礼儀作法も成ってない未熟者の俺の為に、そこまでして頂いて大変恐縮です。」
メダルを受け取るとシャルダンが笑顔を向ける。
俺はペコリと頭を下げて、ふとシャルダンの書斎机が気になって一瞬視線を向けた。
「気になるかね?」
シャルダンがニヤリと笑みを浮かべる。
立ち上がり、書斎机の側に移動して書斎机の上に置かれた木箱を開けて、羊皮紙を恭しく取り出す。
「今朝届いたばかりの貴重な物だ。調査中の古代遺跡の壁に描かれていた模様を描き写した物で、何故か厳かな気持ちになる・・・不思議な模様だ。特別に見せてあげよう。」
シャルダンに取っては暗に、自分の所に居れば優遇されるという餌を示しただけであったが、ソウタに取っては結果が異なった。
広げられた羊皮紙には初めて見る筈の模様・・・しかし、ソウタは自分の魂が模様と共振していくのを確かに感じた。
『 神に関わる魔方陣だ!』直感的にそう思った途端に、ソウタの魂が魔方陣に引きよせられる。
ソウタが手を伸ばし触れた瞬間、凄まじい光の渦に室内が呑み込まれる。
「!?」
光が収まると、シャルダンの書斎からソウタの姿が消え去っていた。
魔族戦に続けて魔法附与を行ったのは、魔力消費の負荷が大き過ぎたようだ。
シャルダンが魔法附与を行った時には、此処まで魔力を消費して居なかった様に見て取れたのだが、個人差なのか、はたまたマジックバック作成は特別なのだろうか?
それとも魔族の魔石を使った為だからだろうか?
魔族の魔石は魔物の魔石とは一線を画する様で、性質も純度もまるで違うのだが、魔法附与するのに魔石なら何でも良いだろうと軽く考えて使ってしまったのだ。
どちらにせよ確認する術を持たないので確証が得られない。
それにしても、魂を消費した訳ではないので意識を失う程のダメージでは無いが、魔力を失いすぎると自分の姿を保持するのにも影響が出てくる。
今の魔力残量は、無理する事無く姿を保てるギリギリのラインだ。
魔法では魔力は回復しないし、魔力を回復させるアイテムは高価過ぎて手が出せない。
時間が一番有効なのだが、姿を見せないと不審に思われるだろう。
表面上は何でもない風を装う積もりだが、見抜かれるだろうか?
部屋の中は魔力を誤魔化す結界がまだ有効だが、部屋から出たら効力を失う。
突っ込まれたらどう返そうかな?と思案しつつ、部屋を出て食堂に向かう。
食堂では、シャルダンが執事と話し込んでいる姿が見られた。
「おはようございます。」
声を掛けるとシャルダンの視線がこちらに向く。
「おはよう、ソウタ。随分と疲れている様だが、もしかして眠れなかったのかな?」
探られているように感じられるのは、自意識過剰なのかそれとも別の理由があるのかイマイチ読みきれない。
「そうなんです。馴れない豪華な部屋で緊張してしまったみたいで・・・。」
話を合わせて殊勝な顔で誤魔化す。
示された席に座り、並べられた朝食に口をつける。
すぐさまエネルギーに変換していくけれど、砂上に水を注ぐ様なもので全く満たされない。
こんなに効率が悪かっただろうか?
取り敢えず魔法附与の目的も果たしたし、師事してもらう事も上手く断らなくてはならないのだが、どう話を持っていくべきか悩ましい。
相変わらず細かい問題が山積だけれども、上手く解決していかなければいけない。
この世界に来てから本当に苦労続きなので、安らぎが欲しいなぁと、思わず現実逃避したくなる。
「気負わせてしまったのかな?不都合があれば遠慮無く言ってくれれば君に合わせるよ?」
警戒心を抱かせない優しげな声でシャルダンが様子を伺ってくる。
そんな甘い言葉に後ろ髪を引かれるような錯覚を覚えるのは、消耗していて気持ちが少し後ろ向きな為だ。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。それよりも・・・少しお話しをさせていただきたいのですが、この後お時間よろしいですか?」
俺の現実逃避と、この世界の命運は比べる迄もない。
深刻な俺の表情に何か思うところが有ったのか、シャルダンの視線が鋭くなる。
「わかった。君のために時間を取ろう。」
「ありがとうございます。」
シャルダンが食事を終えたタイミングを見計らい、俺も食べ終える。
「私の書斎に来たまえ。」
「はい。」
席を立つシャルダンの後に続いて食堂を出る。
廊下を歩きながら、御互いに何も話さない。
沈黙は若輩者の俺に取ってはプレッシャーになる。
そんな胸中とは裏腹に、シャルダンの書斎のドアに辿り着く。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
促されるままに部屋に入り、シャルダンに続いて革張りのソファーに腰掛ける。
対面に座ったシャルダンに視線を合わせると、意を決して 前置きはせずに話す。
「師事して頂けるという折角のご厚意のお話でしたが、申し訳ありませんが辞退させて下さい。」
深々と頭を下げた俺に、シャルダンの不服そうな声が掛けられる。
「何故だね?君に不利益な事は全く無い筈だよ?理由を聞かせてくれないかね?」
「今の俺の急ぐべき優先順位の上位が魔法附与では無いだけです。いずれはと考えては居ますが、今では無いのです。」
強目の口調ではっきりと言い切ると、シャルダンの様子を伺う。
シャルダンは俺の顔をじっと見詰めた後、深く息を吐く。
「決意は固いようだね・・・。」
「すみません。」
申し訳なさそうな俺に、シャルダンは苦笑する。
「残念だが、仕方がない。」
シャルダンは懐から紋章の入ったメダルを取り出す。
「これは、私の所に所属する魔法使いである印だ。魔法協会のある所なら便宜を図ってもらえるだろう。紛失して悪用されると困るので、肌身離さず持っていて欲しい。君の優先するべき事を終えたら、再び訪ねて来たまえ。その時に改めて師事してあげよう。私の所在は、魔法協会で此を見せて尋ねれば知ることが出来る。待っているよ、ソウタ。」
あっさりと引き下がってくれたわけでは無いようだが、ここで受け取らないのは不味そうなので、丁重に受け取る事にする。
「ありがとうございます。出会ったばかりの礼儀作法も成ってない未熟者の俺の為に、そこまでして頂いて大変恐縮です。」
メダルを受け取るとシャルダンが笑顔を向ける。
俺はペコリと頭を下げて、ふとシャルダンの書斎机が気になって一瞬視線を向けた。
「気になるかね?」
シャルダンがニヤリと笑みを浮かべる。
立ち上がり、書斎机の側に移動して書斎机の上に置かれた木箱を開けて、羊皮紙を恭しく取り出す。
「今朝届いたばかりの貴重な物だ。調査中の古代遺跡の壁に描かれていた模様を描き写した物で、何故か厳かな気持ちになる・・・不思議な模様だ。特別に見せてあげよう。」
シャルダンに取っては暗に、自分の所に居れば優遇されるという餌を示しただけであったが、ソウタに取っては結果が異なった。
広げられた羊皮紙には初めて見る筈の模様・・・しかし、ソウタは自分の魂が模様と共振していくのを確かに感じた。
『 神に関わる魔方陣だ!』直感的にそう思った途端に、ソウタの魂が魔方陣に引きよせられる。
ソウタが手を伸ばし触れた瞬間、凄まじい光の渦に室内が呑み込まれる。
「!?」
光が収まると、シャルダンの書斎からソウタの姿が消え去っていた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる