雪山のもふもふ聖獣は木彫り少女と過ごしたい

凛音@りんね

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エレクとタフタ

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 ここはスノウ王国。 
 国土のほとんどが雪におおわれている。
 
 ある雪山で暮らす一匹の聖獣せいじゅうエレク。
 彼は狼のような姿に銀色の立派な毛並をしていた。

(今日も異常なし、と)

 雪山の平和を守るのは彼の大切な役目だ。
 何せ雪の神様に命じられたのだから。

(さて、帰るか。ん?)

 向こう側から泣き声がする。
 彼は黒い鼻で匂いをぎながら近づいた。

(チッ、人間か)

 そこにいたのは小さな少女。
 
「おい、人間」
「狼が喋った……!」
「違う、俺は聖獣だ。ったりしないから安心しろ」
「本当……?」

 少女は泣き止むと彼を興味深そうに見る。
 聖獣は滅多に人前へ姿を現さないのだ。
 
「なぜ雪山ここにいる?」
「うさぎを追いかけてたら迷子になっちゃったの」

 雪山に迷い込んだ人間は、彼が責任を持って送り届けなければならない。

「背中に乗れ、人間」
「タフタって名前があるもん!」
「……乗れ、タフタ」
「わぁ! ふわふわ! あなたの名前は?」
「……エレクだ」
「エレク! 素敵な名前!」
「……そりゃどうも」

 彼は走る速度を早めた。
 昔から人間の子どもは苦手なのだ。
 
(さっさと送って温泉に入ろう)

 鋭い嗅覚でタフタの家を探し出し、雪原せつげんを駆け抜ける。

「着いたぞ」
「ありがとう! ちょっと待ってて」
 
 タフタが家の中から持ってきたのは首飾り。
 
「パパが木彫り職人で私も作り方を教わっているの」
「……ありがとよ。もう迷子になるんじゃないぞ」
「うん、またね!」

 笑顔で手を振るタフタ。
 彼は雪山へと戻って行く。

(初めて人間に物を貰ったな)

 決して良い出来とは言えなかったが、彼の心は不思議とぽかぽかしていた。

 温泉に到着すると前足からゆっくり浸かる。 
 
「ふう、いい湯だ……」

 目を閉じて体の芯から温まる。
 もふもふな聖獣でも寒いものは寒いのだ。

(さて、今度こそ帰るか)
 
 彼は住処すみかである洞窟に着くと落ち葉にもれ、しんしんと降る雪を見つめていた。
 鼻先がみるので引っ込めようとした時。
 
 雪の結晶がピタリ。

 綺麗だと思った。
 タフタがくれた首飾りと同じ意匠デザイン
 雪国での生活は厳しいが、人間たちも自然を愛しているのだ。
 
 彼は微睡まどろみ、久しぶりに夢を見た。
 タフタと一緒に楽しく過ごす夢を。

 美味しい料理、ふかふかのベッド、蝋燭ろうそくの灯り。
 とても幸せで満たされていて、彼は眠りながら笑顔を浮かべた。





 それから5年後。
 
「久しぶり、エレク」
「タフタ? どうして雪山ここに……?」
「もちろんあなたと一緒に過ごすためよ」

 にっこり笑うタフタにつられ、彼は黄金きん色の目を細めた。
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