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イーサン
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イーサンは倒壊した教会の十字架に座り、腰から下げている山羊の皮で出来た袋から人間の頭部を取り出した。
この袋には特別な魔力が込められていて、どんなものでも半永久的に鮮度の良い状態を保つことができる。
ただし入れられる数はそんなに多くない。
「この人間は少々太り過ぎだ」
独り言つと不機嫌そうに脳みそを食べ始めた。
と、二羽のワタリガラスが頭上を掠める。
「おや。誰かと思えば、かの神に仕えしフギンとムニンじゃないか。いや、かつては、かな。今は神と悪魔、どちらについているんだい?」
二羽はカァカァ、と囁いた。
「ふん、なるほど。先程の大地震はやつのせいだったのか」
大地が波打つように揺れ、人類が築き上げた文明という文明は跡形もなく崩れ去った。
天変地異を予見できる不死鳥は、悪に選ばれし乙女たちを抱いて空に逃げたことだろう。
「そうなると一刻も早く決着をつけなければならない」
イーサンが食べかけの頭部を地面に投げ捨てると、二羽は遠慮なく啄んだ。
眼窩からどろり、と目玉が引き摺り出される。
「さて、残りの天使を狩るとしようか」
燃える翼を広げると、イーサンは空高く舞い上がった。
どこまでも続く瓦礫の山と無数に横たわる首の無い死体が、この世界の終わりを告げているようだった。
だが全人類を抹殺しても、まだ新世界には程遠い。
イーサンを見出した陽彩という乙女……いや、女はイーサン自らが首を切り落とし、食った。
穢らわしい人間に拾われたのが運の尽きだ、と嘆いても仕方がない。
娶るなら一角獣や人魚でも構わない。
仲間の不死鳥が乙女との間に儲けた子どもを成長させて、無垢な魂のうちに愛でればいいだけのことだ。
悠久の時を生きる彼等にとって、人間の一生など取るに足らなかった。
中には人間に対して友好的な不死鳥もいたが、イーサンにとって人間はただの嗜好品に過ぎない。
――それでも、悪魔ほど無慈悲ではないだろう。
ニヤリと口角を上げると、母なる太陽に向かって上昇した。
みるみるうちに大気圏を抜け、宇宙空間へと辿り着く。
そこから見た地球は、どこまでも青く美しかった。
終末の日は近い。
この袋には特別な魔力が込められていて、どんなものでも半永久的に鮮度の良い状態を保つことができる。
ただし入れられる数はそんなに多くない。
「この人間は少々太り過ぎだ」
独り言つと不機嫌そうに脳みそを食べ始めた。
と、二羽のワタリガラスが頭上を掠める。
「おや。誰かと思えば、かの神に仕えしフギンとムニンじゃないか。いや、かつては、かな。今は神と悪魔、どちらについているんだい?」
二羽はカァカァ、と囁いた。
「ふん、なるほど。先程の大地震はやつのせいだったのか」
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「そうなると一刻も早く決着をつけなければならない」
イーサンが食べかけの頭部を地面に投げ捨てると、二羽は遠慮なく啄んだ。
眼窩からどろり、と目玉が引き摺り出される。
「さて、残りの天使を狩るとしようか」
燃える翼を広げると、イーサンは空高く舞い上がった。
どこまでも続く瓦礫の山と無数に横たわる首の無い死体が、この世界の終わりを告げているようだった。
だが全人類を抹殺しても、まだ新世界には程遠い。
イーサンを見出した陽彩という乙女……いや、女はイーサン自らが首を切り落とし、食った。
穢らわしい人間に拾われたのが運の尽きだ、と嘆いても仕方がない。
娶るなら一角獣や人魚でも構わない。
仲間の不死鳥が乙女との間に儲けた子どもを成長させて、無垢な魂のうちに愛でればいいだけのことだ。
悠久の時を生きる彼等にとって、人間の一生など取るに足らなかった。
中には人間に対して友好的な不死鳥もいたが、イーサンにとって人間はただの嗜好品に過ぎない。
――それでも、悪魔ほど無慈悲ではないだろう。
ニヤリと口角を上げると、母なる太陽に向かって上昇した。
みるみるうちに大気圏を抜け、宇宙空間へと辿り着く。
そこから見た地球は、どこまでも青く美しかった。
終末の日は近い。
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