上 下
10 / 14

龍の姫巫女と星座の占術 〜春雷演舞〜

しおりを挟む
 遙か昔、東の国に龍の末裔が住んでいた。

 彼らは宇宙と深く関わりを持ち、夜空に煌めく星座の位置や距離から占星術を行い、禍福かふくを見極めていたと言い伝えられている。

 また龍の姿になる事ができ、龍神が隠した財宝を守っていると噂されていた。

 豪族達はこぞって彼らに取り入ろうとするが、決して口を開かない。
 そこである一人の男を遣いとして、彼らの元へ向かわせた。

 
 ♢♢♢


「まさかこんな森が残っているとは……」
 
 男は巨木や苔むした岩肌を見て、ここが人ならざる者の住まう神聖な場所だと確信する。

「お前は誰?」

 木陰から一人の可憐な少女が姿を現した。
 仄暗い森の中で少女は淡い光を放ち、鮮やかな朱色の衣装を纏っている。

其方そなたが龍の姫巫女か?」
「ええ、わたしは麗春りしゅん。占星術が得意よ」

 優美に微笑む彼女はこちらの思惑などお見通しだとばかりに、くるりと踵を返す。

「悪い事は言わないから早くみやこに帰りなさい。ここはお前のような人間が訪れていい所じゃないの」
「私の名は雲雷うんらい。龍の末裔である其方に会いに来た」

 麗春は艶やかな黒髪を風に靡かせる。 
 ふわり、と花の良い香りが漂ってきた。

「会ってどうするつもり? まさか財宝の在処ありかを教えるとでも?」
「いや、私は其方を妃として迎えたいのだ」

 雲雷の真剣な面持ちに麗春は一瞬だけ目を丸くするが、ゆったりとした袖で口元を隠しながら笑う。

「わたしはこう見えてお前よりもずっと歳上。人間など瞬きをするに土へ還ってしまうわ」
「だが其方は美しい」

 生来、好奇心旺盛な麗春は気まぐれで雲雷の戯言に付き合うことにした。

「いいわ、お前には特別に見せてあげる」

 花吹雪が舞うと、麗春は白龍はくりゅうへと変身した。
 あまりの神々しさに雲雷は言葉を失う。

「ほら、早く背中に乗って」

 龍の姿の麗春が促す。
 雲雷は恐る恐る背中に跨った。
 
「しっかりツノに掴まっているのよ」

 麗春は勢いよく空へと飛翔する。
 目を開くと山々が連なり、青い海原がどこまでも広がっていた。

「わたしとお前は決して結ばれない運命さだめなの。いくら愛し合っていても」
「それでも私は――」

 次の瞬間、雲雷は森の中に佇んでいた。

「遊びはお終い。楽しかったわ、さよなら」
「麗春、また会いに来よう」

 雲雷は懐から香嚢こうのうを取り出し、麗春に渡した。
 受け取ると悪戯っぽく笑う。

「今度会った時はお前を食べてしまうかも」
「ああ、構わない」

 麗春は立ち去る雲雷の背中を一瞥すると、くらい森へと姿を消した。


 ♢♢♢


 その夜、麗春は占星術を行った。

「――ふふ」

 雲雷とは長い付き合いになりそうだと分かり、麗春はひとり微笑む。


 END

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...