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小鳥の少女は愛する人の隣で歌いたい
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ある秋の朝のことです。小鳥族の少女リコは微笑みながら黄緑色の翼を羽ばたかせ、朝焼けに染まる大空を小鳥たちと一緒にどこまでも飛んでいきます。空気はひんやりとしていて、吐く息が白くなりました。
「みんな、おはよう。素敵な一日の始まりね」
リコは歌うことがとっても大好きです。ルルルルルルルル……と囀れば、小鳥たちが応えるように周りで歌い始めました。
見下ろす街並みはレンガ造りの家屋や教会が、山に沿って寄り添うように建てられています。家々の煙突からはもくもくと煙が上がっており、みんな朝ご飯の支度に大忙しのようです。
「おはよう、リコ!」
「おはよう、エルル」
同じ小鳥族の少女エルルが、元気いっぱいに挨拶しました。彼女は水色の翼を背中から生やしています。リコは長い髪を耳の位置でふたつに結っていますが、エルルは短く切り揃えていました。
小鳥族は翼の色と同じ髪色に黒目ですが、ときたま赤い瞳をした者もいます。彼らはアルビノと呼ばれ、白く清らかな翼を有しており、他の種族から天使のように美しいと言われていました。
「今日もニーアは一緒じゃないのね」
「ニーアったら本当、あまのじゃくなんだもの!」
エルルはぷうっと頬を膨らませました。三人は幼馴染で、エルルとニーアは家がお隣同士です。
ニーアというのは先ほどのアルビノの小鳥族で、小柄な男の子。性格は大変気まぐれで、どこでもすぐに眠ってしまいます。そんな彼ですが誰よりも歌声が大きくて、音楽の先生にいつも褒められています。
「そういえば今日、転校生がやって来るんだって!」
「あら、知らなかったわ」
「昨日、先生たちが話してるの、こっそり聞いちゃったんだ!」
「もう、エルルったら」
エルルはとにかく噂好きです。どんなに小さな噂話でも、彼女の耳に入らないことは決してありません。おかげでリコは、なんでも知ることができました。
「転校生なんて初めてね」
「しかも人族なんだって!」
この世界では獣人族にドワーフ族、エルルフ族、竜人族、そしてたくさんの人族がいます。リコたちの住む街クーペンに人族は居ません。
訪れるのは王都ミカルネから派遣される観察者ばかりで、リコたち獣人族や他の種族と二、三日ともに生活しながら暮らしぶりを観察しては、事細かに記録していました。
「また観察者の人かな?」
「ええ、きっとそうでしょうね」
リコたちが今まで出会った観察者は、おじさんかおじいちゃんばかりでした。家族で引っ越してくるのは前代未聞です。小さな街の小さな学校なので、クラスは一学年にひとつしかありません。
もし同い年なら、同じクラスになります。リコたちは今、十六歳。二人とも胸がドキドキワクワクして、楽しそうに歌い合いました。
♢♢♢
朝の飛行を終えると、リコたちは家へ戻ります。両親が朝ご飯の支度を途中までしてくれているのでリコが代わり、両親たちは仲良く翼を羽ばたかせて大空へと飛び立ちました。
小鳥族にとって朝起きて心ゆくまで飛ぶことは、とても大切な行いです。単に目覚めがスッキリするだけでなく大多数の小鳥族が日中、翼を使わずに過ごすため、思い切り動かしておくことで、ストレス緩和や運動不足解消につながるのです。
「ただいま、リコ」
「おかえりなさい、パパ、ママ」
囀るように会話をしながら、三人で素朴な食卓を囲みます。パンにスープにサラダ、デザートの木の実。小鳥族は草食です。他の獣人族は肉食だったり、雑食だったりします。それぞれの種族が互いを大切に思いやるからこそ、この街はみんなが平和に暮らせているのです。
リコは豊穣の女神デーメテールに感謝し、美味しそうに朝ご飯を食べました。
♢♢♢
「えー、今日は転校生を紹介する」
担任で数学の教師である熊人族のプーロ先生が、銀縁メガネを中指でクイッと直しながら言いました。リコとエルルは視線を合わせます。後ろの席に座るニーアは興味がなさそうに、ふわぁっと大きなあくびをしています。
「王都ミカルネから転校してきたライアン・テオリア君だ。ライアン君、中へ」
「はい」
扉を開けて入ってきたのは、まぎれもなく人族の少年でした。ですが背はスッと高く、光の束を集めたような金髪で、瞳は澄み渡った青空のような色をしていました。あまりの美しさに教室がしーんと静まり返りました。今にも眠りそうだったニーアでさえ、赤い目を丸くしています。
「初めまして。両親の仕事の都合で転校してきたライアン・テオリアです。よろしくお願いします」
完全に声変わりをしたであろう、落ち着いた低めの声。まだあどけなさが残るリコたちとは、まるで違う雰囲気をまとっています。先生だけがいつもの調子でした。きっとプーロ先生も最初に会った時、こんなにも美しい人族の少年がいるのだと、びっくりしたに違いありません。
「では席は――リコ・サニッシュ君の隣が空いているな」
昨日、席替えをしたばかりでリコは窓際の一番後ろの席になりました。ニーアは廊下側でエルルは真ん中の席でした。緊張など一切していない転校生――ライアンはリコの隣まで来ると、優しく微笑みました。
「よろしく、可憐な天使さん」
「え、えっと、私は天使じゃなくて小鳥族です……」
ライアンを間近で見ると瞳を縁取るまつ毛は長く、白い肌も陶器のように滑らかです。とても直視などできずにリコは黄緑色の翼をそわそわさせ、顔を真っ赤にしながら俯きました。
リコのことなどお構いなしに、ライアンは席につくと教科書とノートを広げます。一時限目はリコの苦手な数学の授業でした。プーロ先生が黒板にチョークで難しい数式を書きながら、丁寧な口調で解説します。
しかしリコはどぎまぎしたまま、授業がちっとも手につきませんでした。
♢♢♢
「ねえねえ、王都ってどんなところ?」
「王様が小さな男の子って本当?」
「ライアン君の誕生日は?」
「好きな食べ物は?」
休憩時間になると、好奇心旺盛な獣人族やドワーフ族、竜人族のみんながライアンに次々と質問します。エルルフ族の子たちだけは、ツンと澄ました顔をして、次の授業の予習をしたり本を読んでいました。彼らはプライドが高く、綺麗な容姿をしています。ですが本質的な性格はリコたちと変わらず、優しくて思いやりに溢れています。
「王都ミカルネはとても大きな街なんだ。色々な種族が住んでいて活気に溢れている。王城は街の中央にあって人族のアーロン王が治めているけれど、とても人情に厚い王様でみんなから慕われているよ」
ライアンが快活に話していると、チャイムが鳴りました。次の授業の準備をしなければなりません。リコたちは教室を出て、移動します。ライアンはクラスのみんなに案内され、三階にある音楽室へ向かいました。
「今日は豊穣の女神デーメテールに捧げる歌の練習をします」
もうすぐクーペンの街では、年に一度のお祭りがあります。豊穣の女神デーメテールに感謝して、クーペンの街の人々は朝まで歌い踊るのです。
「ライアン君、分からなければ見学していてくださいね」
「はい」
リコたちと同じ小鳥族のピーロ先生が、ライアンに楽譜を渡しました。楽譜の書き方、読み方はどの種族も共通です。ライアンはひと通り目を通すと、みんなに混ざって歌い出しました。
「まあ、とってもお上手ですね」
ピーロ先生がライアンを褒めるのを、ニーアが面白くなさそうに見ると白い翼を広げ、完璧な音程かつ大きな声で歌ってみせました。ライアンも聞き惚れるほどニーアの歌声は力強く、それでいて慈しみを感じさせる不思議な魅力がありました。
「ニーア君、あなたの歌声もすごく素敵ですよ」
「も? まあ、いいけど」
ニーアは歌っているときはあんなに楽しそうにしていたのに、歌い終わるといつもの無表情に戻り、ふわぁっと大きなあくびをしながら椅子に座ると、そのまま眠ってしまいました。けれど先生もリコたちも、彼の態度をまったく気にしていません。彼の人格を尊重しているのです。
ライアンは感銘を受けました。これが人族なら、おそらく先生に叱られるはずです。他の生徒もニーアのことをあまりよく思わなかったり、避けたりするかもしれません。これは観測者である両親に話さなければ。ライアンは強く思いました。帰宅後、夕食の席で両親に聞かせると、二人は嬉しそうに微笑みます。
「素敵なお友達ができて良かったわね、ライアン」
「派遣先の職場でもみんな互いを思いやっていたよ。この街に住む人々は本当に素晴らしいね」
「うん、父さん、母さん」
ライアンは自分が褒められたように嬉しくなり、心がぽかぽかしました。それは大好物のコンソメスープのせいだけではないと、彼にはよく分かっていました。
♢♢♢
次の日の放課後、リコは図書室で課題の参考にするための本を探していました。やっとのことで見つけましたが、あいにく一番上の棚に置いてありました。梯子は他の生徒が使っているのか、見当たりません。
試しに音を立てないようジャンプしてみますが、身長のあまり高くない彼女では全然、届かずに困り果てました。学園内では翼を使って飛ぶことは、危険なので禁止されています。もし校則を守らなければ一週間、プール掃除をさせられるのです。
「どうしよう、早く課題を終わらせなきゃいけないのに」
「この本かい?」
だしぬけに声をかけられ、リコは驚きました。振り返るとそこにはライアンが、優しく微笑みながら立っていました。
「あ、ありがとうございます」
「宝石の歴史辞典……リコは宝石が好きなのかい?」
「えっと、選択授業の課題で……」
「君の黒い瞳はオニキスのように美しいね」
聞いているこちらが恥ずかしくなるようなセリフを、ライアンはリコをまっすぐ見つめながらさらりと言いました。窓から差し込む西日で、彼の金色の髪の毛がキラキラと輝いています。
あなたの方こそとても美しいわ――そんなことなど言えるはずもなく、すっかり火照った顔を俯かせながらリコはライアンに軽く会釈すると、本を胸に抱きしめながら足早に立ち去りました。
♢♢♢
ライアンが転校してきて、三週間が経ちました。すっかりクラスのみんなと打ち解けたライアンは、楽しそうに学園生活を送っています。ニーアとはまだ簡単な挨拶しかしていませんが、彼なりにライアンのことを気にかけているのを感じられました。
「今日はお祭りの日です。みなさん、あまり羽目を外しすぎないように」
真面目な顔で告げるプーロ先生ですが、内心はいてもたってもいられない様子です。大人たちは樽いっぱいのビールに、各々の大好物をめいっぱい飲み食いします。いつもは寡黙なエルルフ族もこの日だけはみんなと楽しそうに過ごし、豊穣の女神デーメテールに心から感謝をします。
「リコ、祭りの案内をしてくれないかい?」
「えっ? わ、私でよければ……」
リコはまだライアンの眉目秀麗な容姿にたじたじでした。古くより十六歳から十八歳の未成年は、男女二人で参加するしきたりがあります。エルルは今年もニーアと行くつもりでした。他のみんなも、祭りに行く相手を探しては誘っていました。
「ねえ、リコ! ニーアったら祭りに行かないって言うの!」
「だって面倒くさいじゃん」
「年に一度しかないのよ! 女神デーメテールに感謝だってしなくちゃだし!」
「そんなの毎日ご飯を食べるときにしてるし別にいいよ」
まだ男女で行かなくてもよかった昨年も、二人は同じやり取りをしていました。この後、ニーアは急に気が変わってエルルと一緒に祭りへ行くのです。みんなは成り行きを知っていたので、二人の様子を微笑ましく見守っているだけでした。ライアンはまたしても感銘を受け、リコに話しかけます。
「君たちは本当に優しい心を持っているのだね」
「……? そう、ですか?」
他者を思いやることが当たり前のコミュニティで暮らしてきたリコは、首を傾げます。人族は違うのでしょうか。ライアンに訊ねようとしましたが、恥ずかしいのでやめました。
「それじゃ、また後で。君の家まで迎えに行くよ」
「あっ、うちは木の上にあるから、広場の噴水の前で待ち合わせしませんか?」
「ああ、分かった。それと僕たちは同級生なのだから敬語じゃなくてもいいのだよ」
「あっ! はい!」
リコの返答に、ライアンは空色の瞳を細めたのでした。
♢♢♢
日が暮れる頃になると、いつもは閑散とする街中が賑やかになり始めます。広場には色々な屋台が立ち並び、あちこちからいい匂いが漂ってきます。豊穣の女神デーメテールに感謝するため、人々は陽気に歌い踊りました。
「待たせてすまない、リコ」
「ううん、私もさっき来たところだから」
こんなに大勢の人でいっぱいだと知らなかったライアンは、少し遅れて噴水の前までやって来ました。初めて見る彼の私服姿に、リコはドキドキしてしまいました。
「クーペンにこんなにたくさんの人々がいるなんて驚いたよ」
「普段、ドワーフ族は鉱山で宝石を探していたり竜人族は配達の仕事をしているから」
「なるほど。それぞれの長所を活かして働いているのだね」
「うん。私たち小鳥族は歌うのが得意だから、コンサートを開いたり歌の先生をしている人が多いの」
「リコの両親もかい?」
「うん、パパもママも歌手。クーペンだけじゃなくて他の街にもコンサートに行ってるの」
人混みの中で、二人は歩きながら話します。ですがはぐれてしまいそうになるので、ライアンはリコの手を握りしめました。
「っ!!」
「せっかくだし何か食べよう。リコは何がいい?」
「わ、私はアーモンドとくるみのクレープがいい……かな」
「それじゃ、僕も同じものにしよう」
小鳥族は草食のため、肉を食べません。しかし人族は雑食のため何でも食べると聞いています。ライアンも学園では好き嫌いなく、学食や持参した弁当を美味しそうに食べていました。
「アーモンドとくるみのクレープを二つください」
「あいよ!」
屋台の猫族のお姉さんが、威勢よく返事をします。鉄板に手際よく生地を流し、長い木のヘラでくるん。細長いフォークのようなもので焼き上がった生地を持ち上げると、その上にトッピングをしていきます。たっぷりの生クリーム、一口大に砕いたアーモンドとくるみを添えれば、あっという間に出来上がりです。
「はい、お待ち!」
「ありがとうございます」
ライアンが二人分の代金を支払い、猫耳をぴこぴこさせるお姉さんからクレープを両手に受け取りました。
「えっと、私の分――」
「案内してもらうのだから気にしないでおくれ」
「う、うん……」
「どこかで座って食べよう」
二人は人混みを抜け、路地裏に入ると置いてあった木箱に腰かけました。あまりお行儀がよくありませんが、今夜だけは女神デーメテールに免じて見逃してもらえます。
「いただきます」
「いただきます……」
パクリと一口食べました。ローストされたアーモンドとくるみは香ばしく、溢れんばかりの生クリームは甘くとろけるようで、二人は幸せな気持ちになりました。
「初めて食べたけど美味しいね」
「うん、ここのクレープ、子どもの頃から大好きなの」
「リコは木の実が好物なんだろう?」
「なんで知ってるの? あ……」
リコはライアンが、王都から派遣された観察者の息子であることを思い出しました。ライアンにとって自分が特別な存在であるのだと感じたのが恥ずかしくなり、俯きます。
「リコ?」
「ううん、なんでもないの」
そう答え、リコはパクリとまた一口食べます。でも先ほどよりも幸せではありません。胸が苦しく、切ない気持ちが込み上げてきました。
「みんなにはまだ話してなかったけど来週、他の街へ引っ越すことになったんだ」
「え?」
「クーペンの街の様子をアーロン王に報告したら、周辺の街も同じなのか早く知りたいとおっしゃられてね。短い間だったけど仲良くしてくれて本当にありがとう」
「……」
リコはますます切なく、悲しい気持ちになりました。食べかけのクレープを見つめていると、視界が揺らぎました。ライアンに気づかれないよう、そっと目元をぬぐいます。
「現在、この世界の大多数を人族が治めている。人族は交友的だが同時に好戦的でもある。対する君たち獣人族やドワーフ族――いわゆる亜人は、常に他者を思いやり、自ら所属するコミュニティを何よりも大切にしているね。僕たち人族に足りないものを持っていると、アーロン王も他の観察者たちも強く心を打たれたのだよ」
「そんなこと……」
自分たちのことを手放しに褒められても、リコはちっとも嬉しくありません。それよりもライアンがいなくなってしまう事実を、受け止めきれないでいました。手に持っていたクレープから、ポタリと生クリームが垂れます。
「リコ、指にクリームが」
「あっ」
急いでカバンからハンカチを取り出そうとすると、ライアンが優しく舌で舐め取ってくれました。
「リコ、僕は君のことが一目会った時から好きだ」
「っ!!」
突然の告白に、リコは息を止めました。胸が破裂しそうなくらいに早く鼓動しているのを、両方の鼓膜で感じました。
「だから大人になったらまた会いに来るよ」
「そっ、その、ライアンも観察者になるの……?」
「まだ分からない。あちこち飛び回るよりも、こうしてひとつの街で暮らすのに憧れているんだ」
リコは切ない気持ちよりも甘酸っぱい気持ちが湧いてきて、心の中でシャボン玉のように弾けました。
「あっ、あの! わ、私もライアンのことが……す、好き……」
黄緑色の翼を震わせ、耳の先まで真っ赤になりながら、リコは勇気を振り絞って告白の返事をしました。今、言っておかなければ絶対に後悔すると強く感じたのです。
「リコ……」
「きゃっ!」
ライアンにぎゅっと抱きしめられ、リコは小さな悲鳴を上げました。
「必ず会いに来ると約束するよ」
「うん、待ってる……ううん、私から会いに行く」
「どう言うことだい?」
「私、大きくなったら歌手になりたいの。だからもしライアンが観察者になっても、ずっと一緒にいられるから……」
「リコ……」
「ライアン……」
どちらからともなく、二人の唇が重なり合いました。初めてのキスは甘く、幸福な気持ちで満たされていました。不意にドーン! と大きな音が鳴り、二人は抱き合ったまま夜空を見上げます。
「あっ、花火……」
「とても綺麗だね」
花火は絶え間なく打ち上げられました。おなじみのものからパンの形をしたもの、星の形をしたもの、ハートの形をしたもの。様々な花火が秋の夜空を彩ります。
リコは楽しくなってきて、笑顔で歌い出しました。音楽の授業で習った曲でした。ライアンもリコに合わせて一緒に歌います。最後にひときわ大きな花火が夜空に上がった時、二人はもう一度互いを確かめ合うように、そっとキスをしました。
♢♢♢
「それじゃ、またね」
「うん、リコもみんなも元気で」
週末の午前中、クラスのみんなや町の人々に見送られ、テオリア一家はクーペンの街を去って行きました。
「ねえ、リコ。ライアンとはどうなったの?」
「えっ? な、なんの話?」
「とぼけても無駄よ! あなたたち二人がお祭りで仲良さそうに歩いてたのを私、聞いたんだから!」
「そっ、そう言うエルルこそニーアとはどうなったの?」
「わ、私のことは関係ないでしょ!」
エルルは水色の翼をパタパタさせます。どうやら彼女も意中の相手と結ばれたようです。二人のそばに生えている樫の木の枝に留まりながら、ニーアはふわぁっと大きなあくびと伸びをして、気持ちよさそうに目を閉じて眠りました。
クーペンの街は今日も平和です。
END
「みんな、おはよう。素敵な一日の始まりね」
リコは歌うことがとっても大好きです。ルルルルルルルル……と囀れば、小鳥たちが応えるように周りで歌い始めました。
見下ろす街並みはレンガ造りの家屋や教会が、山に沿って寄り添うように建てられています。家々の煙突からはもくもくと煙が上がっており、みんな朝ご飯の支度に大忙しのようです。
「おはよう、リコ!」
「おはよう、エルル」
同じ小鳥族の少女エルルが、元気いっぱいに挨拶しました。彼女は水色の翼を背中から生やしています。リコは長い髪を耳の位置でふたつに結っていますが、エルルは短く切り揃えていました。
小鳥族は翼の色と同じ髪色に黒目ですが、ときたま赤い瞳をした者もいます。彼らはアルビノと呼ばれ、白く清らかな翼を有しており、他の種族から天使のように美しいと言われていました。
「今日もニーアは一緒じゃないのね」
「ニーアったら本当、あまのじゃくなんだもの!」
エルルはぷうっと頬を膨らませました。三人は幼馴染で、エルルとニーアは家がお隣同士です。
ニーアというのは先ほどのアルビノの小鳥族で、小柄な男の子。性格は大変気まぐれで、どこでもすぐに眠ってしまいます。そんな彼ですが誰よりも歌声が大きくて、音楽の先生にいつも褒められています。
「そういえば今日、転校生がやって来るんだって!」
「あら、知らなかったわ」
「昨日、先生たちが話してるの、こっそり聞いちゃったんだ!」
「もう、エルルったら」
エルルはとにかく噂好きです。どんなに小さな噂話でも、彼女の耳に入らないことは決してありません。おかげでリコは、なんでも知ることができました。
「転校生なんて初めてね」
「しかも人族なんだって!」
この世界では獣人族にドワーフ族、エルルフ族、竜人族、そしてたくさんの人族がいます。リコたちの住む街クーペンに人族は居ません。
訪れるのは王都ミカルネから派遣される観察者ばかりで、リコたち獣人族や他の種族と二、三日ともに生活しながら暮らしぶりを観察しては、事細かに記録していました。
「また観察者の人かな?」
「ええ、きっとそうでしょうね」
リコたちが今まで出会った観察者は、おじさんかおじいちゃんばかりでした。家族で引っ越してくるのは前代未聞です。小さな街の小さな学校なので、クラスは一学年にひとつしかありません。
もし同い年なら、同じクラスになります。リコたちは今、十六歳。二人とも胸がドキドキワクワクして、楽しそうに歌い合いました。
♢♢♢
朝の飛行を終えると、リコたちは家へ戻ります。両親が朝ご飯の支度を途中までしてくれているのでリコが代わり、両親たちは仲良く翼を羽ばたかせて大空へと飛び立ちました。
小鳥族にとって朝起きて心ゆくまで飛ぶことは、とても大切な行いです。単に目覚めがスッキリするだけでなく大多数の小鳥族が日中、翼を使わずに過ごすため、思い切り動かしておくことで、ストレス緩和や運動不足解消につながるのです。
「ただいま、リコ」
「おかえりなさい、パパ、ママ」
囀るように会話をしながら、三人で素朴な食卓を囲みます。パンにスープにサラダ、デザートの木の実。小鳥族は草食です。他の獣人族は肉食だったり、雑食だったりします。それぞれの種族が互いを大切に思いやるからこそ、この街はみんなが平和に暮らせているのです。
リコは豊穣の女神デーメテールに感謝し、美味しそうに朝ご飯を食べました。
♢♢♢
「えー、今日は転校生を紹介する」
担任で数学の教師である熊人族のプーロ先生が、銀縁メガネを中指でクイッと直しながら言いました。リコとエルルは視線を合わせます。後ろの席に座るニーアは興味がなさそうに、ふわぁっと大きなあくびをしています。
「王都ミカルネから転校してきたライアン・テオリア君だ。ライアン君、中へ」
「はい」
扉を開けて入ってきたのは、まぎれもなく人族の少年でした。ですが背はスッと高く、光の束を集めたような金髪で、瞳は澄み渡った青空のような色をしていました。あまりの美しさに教室がしーんと静まり返りました。今にも眠りそうだったニーアでさえ、赤い目を丸くしています。
「初めまして。両親の仕事の都合で転校してきたライアン・テオリアです。よろしくお願いします」
完全に声変わりをしたであろう、落ち着いた低めの声。まだあどけなさが残るリコたちとは、まるで違う雰囲気をまとっています。先生だけがいつもの調子でした。きっとプーロ先生も最初に会った時、こんなにも美しい人族の少年がいるのだと、びっくりしたに違いありません。
「では席は――リコ・サニッシュ君の隣が空いているな」
昨日、席替えをしたばかりでリコは窓際の一番後ろの席になりました。ニーアは廊下側でエルルは真ん中の席でした。緊張など一切していない転校生――ライアンはリコの隣まで来ると、優しく微笑みました。
「よろしく、可憐な天使さん」
「え、えっと、私は天使じゃなくて小鳥族です……」
ライアンを間近で見ると瞳を縁取るまつ毛は長く、白い肌も陶器のように滑らかです。とても直視などできずにリコは黄緑色の翼をそわそわさせ、顔を真っ赤にしながら俯きました。
リコのことなどお構いなしに、ライアンは席につくと教科書とノートを広げます。一時限目はリコの苦手な数学の授業でした。プーロ先生が黒板にチョークで難しい数式を書きながら、丁寧な口調で解説します。
しかしリコはどぎまぎしたまま、授業がちっとも手につきませんでした。
♢♢♢
「ねえねえ、王都ってどんなところ?」
「王様が小さな男の子って本当?」
「ライアン君の誕生日は?」
「好きな食べ物は?」
休憩時間になると、好奇心旺盛な獣人族やドワーフ族、竜人族のみんながライアンに次々と質問します。エルルフ族の子たちだけは、ツンと澄ました顔をして、次の授業の予習をしたり本を読んでいました。彼らはプライドが高く、綺麗な容姿をしています。ですが本質的な性格はリコたちと変わらず、優しくて思いやりに溢れています。
「王都ミカルネはとても大きな街なんだ。色々な種族が住んでいて活気に溢れている。王城は街の中央にあって人族のアーロン王が治めているけれど、とても人情に厚い王様でみんなから慕われているよ」
ライアンが快活に話していると、チャイムが鳴りました。次の授業の準備をしなければなりません。リコたちは教室を出て、移動します。ライアンはクラスのみんなに案内され、三階にある音楽室へ向かいました。
「今日は豊穣の女神デーメテールに捧げる歌の練習をします」
もうすぐクーペンの街では、年に一度のお祭りがあります。豊穣の女神デーメテールに感謝して、クーペンの街の人々は朝まで歌い踊るのです。
「ライアン君、分からなければ見学していてくださいね」
「はい」
リコたちと同じ小鳥族のピーロ先生が、ライアンに楽譜を渡しました。楽譜の書き方、読み方はどの種族も共通です。ライアンはひと通り目を通すと、みんなに混ざって歌い出しました。
「まあ、とってもお上手ですね」
ピーロ先生がライアンを褒めるのを、ニーアが面白くなさそうに見ると白い翼を広げ、完璧な音程かつ大きな声で歌ってみせました。ライアンも聞き惚れるほどニーアの歌声は力強く、それでいて慈しみを感じさせる不思議な魅力がありました。
「ニーア君、あなたの歌声もすごく素敵ですよ」
「も? まあ、いいけど」
ニーアは歌っているときはあんなに楽しそうにしていたのに、歌い終わるといつもの無表情に戻り、ふわぁっと大きなあくびをしながら椅子に座ると、そのまま眠ってしまいました。けれど先生もリコたちも、彼の態度をまったく気にしていません。彼の人格を尊重しているのです。
ライアンは感銘を受けました。これが人族なら、おそらく先生に叱られるはずです。他の生徒もニーアのことをあまりよく思わなかったり、避けたりするかもしれません。これは観測者である両親に話さなければ。ライアンは強く思いました。帰宅後、夕食の席で両親に聞かせると、二人は嬉しそうに微笑みます。
「素敵なお友達ができて良かったわね、ライアン」
「派遣先の職場でもみんな互いを思いやっていたよ。この街に住む人々は本当に素晴らしいね」
「うん、父さん、母さん」
ライアンは自分が褒められたように嬉しくなり、心がぽかぽかしました。それは大好物のコンソメスープのせいだけではないと、彼にはよく分かっていました。
♢♢♢
次の日の放課後、リコは図書室で課題の参考にするための本を探していました。やっとのことで見つけましたが、あいにく一番上の棚に置いてありました。梯子は他の生徒が使っているのか、見当たりません。
試しに音を立てないようジャンプしてみますが、身長のあまり高くない彼女では全然、届かずに困り果てました。学園内では翼を使って飛ぶことは、危険なので禁止されています。もし校則を守らなければ一週間、プール掃除をさせられるのです。
「どうしよう、早く課題を終わらせなきゃいけないのに」
「この本かい?」
だしぬけに声をかけられ、リコは驚きました。振り返るとそこにはライアンが、優しく微笑みながら立っていました。
「あ、ありがとうございます」
「宝石の歴史辞典……リコは宝石が好きなのかい?」
「えっと、選択授業の課題で……」
「君の黒い瞳はオニキスのように美しいね」
聞いているこちらが恥ずかしくなるようなセリフを、ライアンはリコをまっすぐ見つめながらさらりと言いました。窓から差し込む西日で、彼の金色の髪の毛がキラキラと輝いています。
あなたの方こそとても美しいわ――そんなことなど言えるはずもなく、すっかり火照った顔を俯かせながらリコはライアンに軽く会釈すると、本を胸に抱きしめながら足早に立ち去りました。
♢♢♢
ライアンが転校してきて、三週間が経ちました。すっかりクラスのみんなと打ち解けたライアンは、楽しそうに学園生活を送っています。ニーアとはまだ簡単な挨拶しかしていませんが、彼なりにライアンのことを気にかけているのを感じられました。
「今日はお祭りの日です。みなさん、あまり羽目を外しすぎないように」
真面目な顔で告げるプーロ先生ですが、内心はいてもたってもいられない様子です。大人たちは樽いっぱいのビールに、各々の大好物をめいっぱい飲み食いします。いつもは寡黙なエルルフ族もこの日だけはみんなと楽しそうに過ごし、豊穣の女神デーメテールに心から感謝をします。
「リコ、祭りの案内をしてくれないかい?」
「えっ? わ、私でよければ……」
リコはまだライアンの眉目秀麗な容姿にたじたじでした。古くより十六歳から十八歳の未成年は、男女二人で参加するしきたりがあります。エルルは今年もニーアと行くつもりでした。他のみんなも、祭りに行く相手を探しては誘っていました。
「ねえ、リコ! ニーアったら祭りに行かないって言うの!」
「だって面倒くさいじゃん」
「年に一度しかないのよ! 女神デーメテールに感謝だってしなくちゃだし!」
「そんなの毎日ご飯を食べるときにしてるし別にいいよ」
まだ男女で行かなくてもよかった昨年も、二人は同じやり取りをしていました。この後、ニーアは急に気が変わってエルルと一緒に祭りへ行くのです。みんなは成り行きを知っていたので、二人の様子を微笑ましく見守っているだけでした。ライアンはまたしても感銘を受け、リコに話しかけます。
「君たちは本当に優しい心を持っているのだね」
「……? そう、ですか?」
他者を思いやることが当たり前のコミュニティで暮らしてきたリコは、首を傾げます。人族は違うのでしょうか。ライアンに訊ねようとしましたが、恥ずかしいのでやめました。
「それじゃ、また後で。君の家まで迎えに行くよ」
「あっ、うちは木の上にあるから、広場の噴水の前で待ち合わせしませんか?」
「ああ、分かった。それと僕たちは同級生なのだから敬語じゃなくてもいいのだよ」
「あっ! はい!」
リコの返答に、ライアンは空色の瞳を細めたのでした。
♢♢♢
日が暮れる頃になると、いつもは閑散とする街中が賑やかになり始めます。広場には色々な屋台が立ち並び、あちこちからいい匂いが漂ってきます。豊穣の女神デーメテールに感謝するため、人々は陽気に歌い踊りました。
「待たせてすまない、リコ」
「ううん、私もさっき来たところだから」
こんなに大勢の人でいっぱいだと知らなかったライアンは、少し遅れて噴水の前までやって来ました。初めて見る彼の私服姿に、リコはドキドキしてしまいました。
「クーペンにこんなにたくさんの人々がいるなんて驚いたよ」
「普段、ドワーフ族は鉱山で宝石を探していたり竜人族は配達の仕事をしているから」
「なるほど。それぞれの長所を活かして働いているのだね」
「うん。私たち小鳥族は歌うのが得意だから、コンサートを開いたり歌の先生をしている人が多いの」
「リコの両親もかい?」
「うん、パパもママも歌手。クーペンだけじゃなくて他の街にもコンサートに行ってるの」
人混みの中で、二人は歩きながら話します。ですがはぐれてしまいそうになるので、ライアンはリコの手を握りしめました。
「っ!!」
「せっかくだし何か食べよう。リコは何がいい?」
「わ、私はアーモンドとくるみのクレープがいい……かな」
「それじゃ、僕も同じものにしよう」
小鳥族は草食のため、肉を食べません。しかし人族は雑食のため何でも食べると聞いています。ライアンも学園では好き嫌いなく、学食や持参した弁当を美味しそうに食べていました。
「アーモンドとくるみのクレープを二つください」
「あいよ!」
屋台の猫族のお姉さんが、威勢よく返事をします。鉄板に手際よく生地を流し、長い木のヘラでくるん。細長いフォークのようなもので焼き上がった生地を持ち上げると、その上にトッピングをしていきます。たっぷりの生クリーム、一口大に砕いたアーモンドとくるみを添えれば、あっという間に出来上がりです。
「はい、お待ち!」
「ありがとうございます」
ライアンが二人分の代金を支払い、猫耳をぴこぴこさせるお姉さんからクレープを両手に受け取りました。
「えっと、私の分――」
「案内してもらうのだから気にしないでおくれ」
「う、うん……」
「どこかで座って食べよう」
二人は人混みを抜け、路地裏に入ると置いてあった木箱に腰かけました。あまりお行儀がよくありませんが、今夜だけは女神デーメテールに免じて見逃してもらえます。
「いただきます」
「いただきます……」
パクリと一口食べました。ローストされたアーモンドとくるみは香ばしく、溢れんばかりの生クリームは甘くとろけるようで、二人は幸せな気持ちになりました。
「初めて食べたけど美味しいね」
「うん、ここのクレープ、子どもの頃から大好きなの」
「リコは木の実が好物なんだろう?」
「なんで知ってるの? あ……」
リコはライアンが、王都から派遣された観察者の息子であることを思い出しました。ライアンにとって自分が特別な存在であるのだと感じたのが恥ずかしくなり、俯きます。
「リコ?」
「ううん、なんでもないの」
そう答え、リコはパクリとまた一口食べます。でも先ほどよりも幸せではありません。胸が苦しく、切ない気持ちが込み上げてきました。
「みんなにはまだ話してなかったけど来週、他の街へ引っ越すことになったんだ」
「え?」
「クーペンの街の様子をアーロン王に報告したら、周辺の街も同じなのか早く知りたいとおっしゃられてね。短い間だったけど仲良くしてくれて本当にありがとう」
「……」
リコはますます切なく、悲しい気持ちになりました。食べかけのクレープを見つめていると、視界が揺らぎました。ライアンに気づかれないよう、そっと目元をぬぐいます。
「現在、この世界の大多数を人族が治めている。人族は交友的だが同時に好戦的でもある。対する君たち獣人族やドワーフ族――いわゆる亜人は、常に他者を思いやり、自ら所属するコミュニティを何よりも大切にしているね。僕たち人族に足りないものを持っていると、アーロン王も他の観察者たちも強く心を打たれたのだよ」
「そんなこと……」
自分たちのことを手放しに褒められても、リコはちっとも嬉しくありません。それよりもライアンがいなくなってしまう事実を、受け止めきれないでいました。手に持っていたクレープから、ポタリと生クリームが垂れます。
「リコ、指にクリームが」
「あっ」
急いでカバンからハンカチを取り出そうとすると、ライアンが優しく舌で舐め取ってくれました。
「リコ、僕は君のことが一目会った時から好きだ」
「っ!!」
突然の告白に、リコは息を止めました。胸が破裂しそうなくらいに早く鼓動しているのを、両方の鼓膜で感じました。
「だから大人になったらまた会いに来るよ」
「そっ、その、ライアンも観察者になるの……?」
「まだ分からない。あちこち飛び回るよりも、こうしてひとつの街で暮らすのに憧れているんだ」
リコは切ない気持ちよりも甘酸っぱい気持ちが湧いてきて、心の中でシャボン玉のように弾けました。
「あっ、あの! わ、私もライアンのことが……す、好き……」
黄緑色の翼を震わせ、耳の先まで真っ赤になりながら、リコは勇気を振り絞って告白の返事をしました。今、言っておかなければ絶対に後悔すると強く感じたのです。
「リコ……」
「きゃっ!」
ライアンにぎゅっと抱きしめられ、リコは小さな悲鳴を上げました。
「必ず会いに来ると約束するよ」
「うん、待ってる……ううん、私から会いに行く」
「どう言うことだい?」
「私、大きくなったら歌手になりたいの。だからもしライアンが観察者になっても、ずっと一緒にいられるから……」
「リコ……」
「ライアン……」
どちらからともなく、二人の唇が重なり合いました。初めてのキスは甘く、幸福な気持ちで満たされていました。不意にドーン! と大きな音が鳴り、二人は抱き合ったまま夜空を見上げます。
「あっ、花火……」
「とても綺麗だね」
花火は絶え間なく打ち上げられました。おなじみのものからパンの形をしたもの、星の形をしたもの、ハートの形をしたもの。様々な花火が秋の夜空を彩ります。
リコは楽しくなってきて、笑顔で歌い出しました。音楽の授業で習った曲でした。ライアンもリコに合わせて一緒に歌います。最後にひときわ大きな花火が夜空に上がった時、二人はもう一度互いを確かめ合うように、そっとキスをしました。
♢♢♢
「それじゃ、またね」
「うん、リコもみんなも元気で」
週末の午前中、クラスのみんなや町の人々に見送られ、テオリア一家はクーペンの街を去って行きました。
「ねえ、リコ。ライアンとはどうなったの?」
「えっ? な、なんの話?」
「とぼけても無駄よ! あなたたち二人がお祭りで仲良さそうに歩いてたのを私、聞いたんだから!」
「そっ、そう言うエルルこそニーアとはどうなったの?」
「わ、私のことは関係ないでしょ!」
エルルは水色の翼をパタパタさせます。どうやら彼女も意中の相手と結ばれたようです。二人のそばに生えている樫の木の枝に留まりながら、ニーアはふわぁっと大きなあくびと伸びをして、気持ちよさそうに目を閉じて眠りました。
クーペンの街は今日も平和です。
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