うしかい座とスピカ

凛音@りんね

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ひまわり畑

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 エマはユーリとひまわり畑を訪れていた。

「まあ、綺麗」

 何千本というひまわりが咲き誇る様子に、エマは思わずため息をつく。
 
「ひまわりは北アメリカ原産の植物で、紀元前1500年頃からネイティブアメリカンによって栽培が始まったとされています」
「そんなに昔からあるのね」
「はい。その後、コロンブスがアメリカ大陸を発見した1500年代中頃にスペインの医師ニコラス・モナルデス氏がひまわりに興味を持ち、種をヨーロッパへ持ち帰りました。更にスペイン王立植物園に持ち込まれ、ひまわりの栽培がヨーロッパでもスタートしたのです。それがきっかけとなり徐々にスペインからフランス、イギリスへとひまわりが広まっていきました」
「ユーリったら本当に何でも知っていてすごいわ」
「いえ、わたしに備えられた機能のひとつに過ぎません」

 エマはユーリの手を取った。
 微かに温かい。

「ほら、行きましょう」

 二人はひまわり畑の畦道を歩き出す。
 目にも鮮やかな黄色の花弁と太陽に向かって咲く姿は、見ているだけで心が弾む。

「今では地球だけでなく、シリウスでも栽培されているのよね」
「ひまわりの種は栄養価が高く、絞って油を作ることもできるので大変重宝されています」

 エマは麦わら帽子越しに空を仰ぐ。
 どこまでも澄み渡る青空と白い雲。

「でも、地球の人々はもう食べないわ」
「現代ではより効率的に五大栄養素を摂取できる『レーション』が生産されています」

 遙か昔、人口増加による食糧不足のために様々なもの食していた人類。
 この問題を解決する代わりに、食材そのものを味わう楽しみを捨てたのだ。
 
「確かにの食材を口にするのってすごく贅沢なことよね」

 エマは林檎や卵を思い浮かべる。
 統治者であるワーグナー家の令嬢として生を受けたエマにとって、それらを食べる機会は圧倒的に多かった。

「チョコレートだって同じ。そうでしょう? ユーリ」
「はい。カカオベルトのデリケートな問題があるため、入手は大変困難です」

 にも関わらず、チョコレートを気軽に贈ってくれる父親。
 十三歳のエマにとって、それがどれだけ恵まれているか嫌というほど理解している。

「私、いつの日かシリウスへ行くわ」

 ユーリはすぐに返事をしない。
 前に話した時と同じ反応を示した。

「だから来年も一緒にひまわり畑を見に来ましょうね」
「はい、お嬢様」

 微笑をたたえるユーリの姿を、目に焼き付ける。
 これからもずっと、彼と過ごせることを願って。

「ねえ、ユーリ。ひまわりの花言葉は?」
「あなただけを見つめる、でございます」
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