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38.決起の宴
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領主ケルヴィム伯の計らいで、中央の広場にはまるで宴のようにたくさんの料理が用意されている。
牛をまるごと解体して、フローラを始め料理人や肉屋の店主、それに街の住民達が腕に縒りをかけて作ったという、様々なシチューが入った大鍋が、広場を囲むように置かれたテーブルに並んでいる。
広場の中央には煉瓦で組んだグリルが用意され、金網で分厚い肉が焼かれていた。
ギルバートは、広場に置かれた鍋の傍に居るフローラに駆け寄った。街中すっかり空腹を誘う芳醇な香りだらけで、腹の虫は騒ぎっぱなしだ。
「わたくしが作ったのは、牛骨と野菜で取ったスープに、小麦粉とバターを炒めたルゥでとろみをつけ、葡萄酒と完熟したトマトと合わせて、たっぷりのお肉と芋、野菜と共に煮込んだ定番のシチューですよ」
楽し気に料理のレシピを諳んじながら、フローラは頬を上気させて笑っている。
「約束でしたからね」
そう言って手渡されたシチューを、ギルバートは味わいつつもあっという間に平らげた。優しい味と共に、身体中が満たされて火照るような、そんな気分で顔を上げれば、ギルバートを見て幸せそうな顔をして笑むフローラが居る。
「あちらは肉屋の女将さんが作った、塩と香味野菜のさっぱりとしたテールスープ。その横にあるのは料理人さんが作った、辛みのあるベルペッパーの実と麦芽糖を使った甘辛いシチューです。どれもとても美味しいですよ」
それから上機嫌で弾むような声で解説するフローラの顔を、つい目で追ってしまう。
呆けていたら、後ろから傭兵の男に肩を組まれた。
「ギルバート、何ぼーっとしてんだ? 気を抜いてたら無くなっちまうぞ」
既に酒が入って居るのか、傭兵の男も上機嫌だ。すっかり仲良しである。
「こっちのは何だ?」
傍に来ていた私兵団員が別の鍋を指さして尋ねていた。彼も昼間に一緒に戦った仲だ。
「そちらは、すじ肉とすね肉を乳清で煮込んだシチューです! あの集落の村長さんから、自慢のレシピを教えていただいたのです」
「乳清……」
「そ、そうか、乳清か……」
ギルバートと、傭兵と私兵団員は顔を引き攣らせて一歩引いた。何せ昼間の戦闘が頭を過ぎるからだ。それでもフローラが作ったと言うので、ギルバートは恐る恐るひとくち口にしてみた。すっかり煮込まれているので、香りに抵抗は無い。
「……! 美味い……!」
「ほんとかよ……。……う、うめぇ……! なんだこりゃ、肉が口の中でとろける……!?」
「凄いな、美味さで上書きされて、昼間の悪夢のような記憶が消し飛んで行く……」
全員揃ってすっかり夢中になっていれば、それを見てフローラがまた楽しそうに笑っている。
──フローラさんの、この楽しそうな顔見るのが、幸せなんだよなぁ……。生きてて良かった……。
ギルバートはそんな事をぼんやりと考えながら見惚れていた。
広場の中央では、領主ケルヴィム伯が立ち上がり、葡萄酒の入った木杯を掲げていた。
「明日からは、準備で大忙しだ! 今日は好きなだけ食って英気を養っておくれ! 古き北部の民の力を見せつけてやろうじゃないか!」
そう言って声を張り上げるケルヴィム伯に、街の住民達が歓声で応えた。
昼間に不死魔獣に襲撃された悲壮感は、既に消えつつあった。
様々なシチューを盛った器を山ほど抱えて、ギルバートはフローラと共に、ライオネル達が座るテーブルに向かった。
そこでは西方大教会の司祭が、ドルフとバーバラを相手に酒を酌み交わしていた。
「いやぁ、今日は人生の晴れの日だ。何せ、伝説の鍛冶屋と魔法使いに、こうして巡り合えたんだから」
酒で上機嫌の司祭に、ドルフもバーバラもにやりと悪戯っぽい笑みを返している。
「そしてここに今、古き祝福と新しき祝福が揃っている。祝福は掛け合わさればより強くなる。祈りが寄り集まって生まれた力は、そうやって祈りによって増幅されていくんだ。この場に立ち会えるなんて……」
すっかり酔いが回っているのか、司祭は嬉しそうに涙ぐみながらそんな事を言っていた。
牛をまるごと解体して、フローラを始め料理人や肉屋の店主、それに街の住民達が腕に縒りをかけて作ったという、様々なシチューが入った大鍋が、広場を囲むように置かれたテーブルに並んでいる。
広場の中央には煉瓦で組んだグリルが用意され、金網で分厚い肉が焼かれていた。
ギルバートは、広場に置かれた鍋の傍に居るフローラに駆け寄った。街中すっかり空腹を誘う芳醇な香りだらけで、腹の虫は騒ぎっぱなしだ。
「わたくしが作ったのは、牛骨と野菜で取ったスープに、小麦粉とバターを炒めたルゥでとろみをつけ、葡萄酒と完熟したトマトと合わせて、たっぷりのお肉と芋、野菜と共に煮込んだ定番のシチューですよ」
楽し気に料理のレシピを諳んじながら、フローラは頬を上気させて笑っている。
「約束でしたからね」
そう言って手渡されたシチューを、ギルバートは味わいつつもあっという間に平らげた。優しい味と共に、身体中が満たされて火照るような、そんな気分で顔を上げれば、ギルバートを見て幸せそうな顔をして笑むフローラが居る。
「あちらは肉屋の女将さんが作った、塩と香味野菜のさっぱりとしたテールスープ。その横にあるのは料理人さんが作った、辛みのあるベルペッパーの実と麦芽糖を使った甘辛いシチューです。どれもとても美味しいですよ」
それから上機嫌で弾むような声で解説するフローラの顔を、つい目で追ってしまう。
呆けていたら、後ろから傭兵の男に肩を組まれた。
「ギルバート、何ぼーっとしてんだ? 気を抜いてたら無くなっちまうぞ」
既に酒が入って居るのか、傭兵の男も上機嫌だ。すっかり仲良しである。
「こっちのは何だ?」
傍に来ていた私兵団員が別の鍋を指さして尋ねていた。彼も昼間に一緒に戦った仲だ。
「そちらは、すじ肉とすね肉を乳清で煮込んだシチューです! あの集落の村長さんから、自慢のレシピを教えていただいたのです」
「乳清……」
「そ、そうか、乳清か……」
ギルバートと、傭兵と私兵団員は顔を引き攣らせて一歩引いた。何せ昼間の戦闘が頭を過ぎるからだ。それでもフローラが作ったと言うので、ギルバートは恐る恐るひとくち口にしてみた。すっかり煮込まれているので、香りに抵抗は無い。
「……! 美味い……!」
「ほんとかよ……。……う、うめぇ……! なんだこりゃ、肉が口の中でとろける……!?」
「凄いな、美味さで上書きされて、昼間の悪夢のような記憶が消し飛んで行く……」
全員揃ってすっかり夢中になっていれば、それを見てフローラがまた楽しそうに笑っている。
──フローラさんの、この楽しそうな顔見るのが、幸せなんだよなぁ……。生きてて良かった……。
ギルバートはそんな事をぼんやりと考えながら見惚れていた。
広場の中央では、領主ケルヴィム伯が立ち上がり、葡萄酒の入った木杯を掲げていた。
「明日からは、準備で大忙しだ! 今日は好きなだけ食って英気を養っておくれ! 古き北部の民の力を見せつけてやろうじゃないか!」
そう言って声を張り上げるケルヴィム伯に、街の住民達が歓声で応えた。
昼間に不死魔獣に襲撃された悲壮感は、既に消えつつあった。
様々なシチューを盛った器を山ほど抱えて、ギルバートはフローラと共に、ライオネル達が座るテーブルに向かった。
そこでは西方大教会の司祭が、ドルフとバーバラを相手に酒を酌み交わしていた。
「いやぁ、今日は人生の晴れの日だ。何せ、伝説の鍛冶屋と魔法使いに、こうして巡り合えたんだから」
酒で上機嫌の司祭に、ドルフもバーバラもにやりと悪戯っぽい笑みを返している。
「そしてここに今、古き祝福と新しき祝福が揃っている。祝福は掛け合わさればより強くなる。祈りが寄り集まって生まれた力は、そうやって祈りによって増幅されていくんだ。この場に立ち会えるなんて……」
すっかり酔いが回っているのか、司祭は嬉しそうに涙ぐみながらそんな事を言っていた。
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