音楽無双――おかしな世界に転生したボクはＳランク

第二章

030：海外の反応（２）

【Side：とある外国人女性Ｂ】


AM９時頃、職場でデスクワークをしているとスマホに着信が入った。


「こんな時間から誰だろう？」


スマホを確認してみると、学生時代の旧友からだった。

メールを確認すると、何やらToutubeのURLが張られており、『今世紀最大の発見』という大層な言葉が書かれていた。


「今回は随分と大げさねぇ………」


現在、私は会社員として勤め、旧友はフリーランスで働いている。

私に比べて自由な時間が多い彼女は、度々こうして自分の好きな物を布教してくる。

どうせ今回もまた男性アイドルのライブ映像や、食レポでもしている動画なんかが送られてきたのだろう。

正直、恋愛や結婚願望のない私には興味がない事だったりする。

いくら我が国が諸外国に比べて男性が多いと言っても、７割の女性は余るのよ。

それなら男を追いかけるより、ビジネスを頑張った方が現実的で、建設的だと私は思うのよね。



そもそも、1人が寂しいなら家族や親戚、友人などを大切にすれば良いだけじゃない。

子どもが欲しいなら精子バンクを頼れば良い。

子育てと仕事を両立できる環境は十分整っているでしょ。

なら、男性を求める必要なんてあるのかしら？

別に男を冷遇すれば良いなんて一切思ってはいないけど、女性として本当の幸せを掴み取りたいなら、男性との良縁なんて早々に切り捨てるべきだわ。


そんな事を思っていると、何やら周囲にいる仕事仲間からヒソヒソと興味を惹かれる話が聞こえて来た。



「ねぇ、あなた知ってる？　今朝方の事なんだけど、Toutubeに男性の動画が投稿されたのよ」

「勿論、それくらい知ってるわよ。ＴоＥトゥーイ？とかいう男性アーティストが歌ってるやつでしょ？」

「そうそう、それよ。朝早くから世界中のインフルエンサーたちがＳＮＳで拡散してる影響もあってか、今凄い勢いで視聴回数が伸びているのよ。ほら、スマホで見てみたら、どの曲も既に４億回を超えているわ」

「本当だ、もうそんなに増えてたんだ！？　これってサーバーの方は大丈夫なの？」

「さっき、ニュース番組で『日や時間をズラして見て下さい』って注意喚起していたわ」

「なんか凄い事になっているのね。でも、この動画なら納得だわ。このまま今日中に10億回とかいきそうよね」

「私もそう思っているわ。てか、100億回を超えても私は驚かないわ」


なんだろう、職場で凄い話を聞いてしまった気がする。

もしかして、この旧友から送られて来たメールのURLって件くだんの動画だったりして…………いやいや、まさかね。

でも、男性のものだろうし、………あり得そうね。


ま、まぁ、さっきは男性には興味がないような事を思っていたけど、このURLを開いてみましょう！

これはキャリアウーマンとして必要な情報収集よね。

時代に取り残されるようなキャリアウーマンは失格だわ。

出来る女は、常にアンテナを張って流行には必ず乗るものよ。

それが『出来る女』の条件、キャリアウーマンっていう生き物よ。

そして、メールのURLから飛んでみて私は驚愕した。



「マジカ………。投稿されて約２時間、視聴回数が４億回」


10曲の全てが『超』人気動画なのね…………。

クソ、今回は明らかに出遅れた気がする。

２時間なんて些細なもの、誤差と思う人がいるだろうけど、キャリアウーマンにとっての１分１秒は掛け替えのない大切なものなのよ。

はぁ、朝からなんだか負けたような気分だわ。

もう少し早くにメールが欲しかったと思うけど、きっと彼女の事だから１時間くらいは集中して動画を見ていたのでしょうね。


それにしても、このチャンネルネーム『ＴоＥ』って一体何者？

男性曲で、今回みたいにインフルエンサーが介入したからと言っても、ここまで急に上がるなんて普通はありえないでしょ。

コメントを見てみれば、相当数の書き込みがなされている。



「取りあえず、聞いてみましょう」


多少の警戒心を抱きつつワイヤレスイヤホンを耳に着ける。

そして、再生マークをタップしてみると、私の耳には今まで聞いたことのない素晴らしいメロディが流れて来た。

歌声は勿論、男性のものだ。

私はこれまでに旧友から勧められ、幾つもの男性アイドルの曲を聞いたことがあるけど、それ等の曲とは明らかにレベルが違う。

思わず仕事中である事を忘れ、私は動画の歌詞を凝視する。



「どういうことよ、コレ…………ッ！！」


驚きのあまり叫ばなかった自分を褒めてあげたい。

一体なんなのよ、コレは！

滅茶苦茶、…………良いじゃない。



「大好き…………」


無意識に何かおかしな事を呟いてしまった。

あれ、私は今なんて言ったかしら？

まさかね………いやいや、あり得ないわ。

私が男性を好きなる事なんて絶対にあり得ないことよ。

寧ろ、あってはならないことだわ！

私の完璧な人生設計が狂うじゃない。飽くまで『この曲』が、大好きなの。



「ＴоＥ様ラブ…………」


あ～、なんてことかしら………。自分の口が勝手に動いてしまった。


はぁ、……もう無理ね。

これは誤魔化せない。流石に抗えないわよ。

この歌声を耳にして男を意識するなという方が到底無理な話。


それにＴоＥは最高のアーティストだわ。

この曲を聞いていると、途轍もないエネルギーが身の内へと注がれている気がするの。

ハッキリ言って感動したわ。あなたの曲は素晴らしい。

キャリアウーマンは現実主義で嘘を吐かないわ。

音楽を聞いて、こんなにも『涙』が止まらないなんて初めての経験よ。



『ありがとう』


何故かそんな思いが心から漏れた。

何に対しての感謝か自分自身も良く分からない。

正直、このまま音楽鑑賞だけをしていたい。

しかし、そうも言っていられないわね………。



「私もＳＮＳで発信しなきゃッ！」


私だって曲がりなりにもフォロワー数が１万越えのインフルエンサーなんだから。

これは正義の執行よ。仕事なんて、今日はもうどうでもいいわ！

この世には、仕事より優先しなければならないジャスティスがあるのよ！





◆◆◆◆◆





【Side：？？？？】


野外のハンモックの上で、横になってスマホゲームをしていた、とある外国人女性の話。


「おや？　Ms.GREENが何か投稿したみたいだね。通知設定しておくと、こういう時に直ぐに気付けるから便利だよなぁ」


内容を確認してみると……


「このURLは、……Toutube？　あ～なるほど、男性曲の動画かぁ。見た方が良いって言っても、私はそっち側にあんまり興味がないんだよな～。Ms.GREENも同じだったと思うけど、変わったのかい？　まぁ、少しだけ見てみるか」


ＴｏＥとかいう素人の男性曲を聞いてみると……


「ウぉぉおおおお゛ーーーッ！！」


涙を流して彼女は雄たけびを上げた。



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電車で通勤中のとある外国人女性の話。


『ん？　スマホに連絡が入ったみたいね。電車内ではマナーモードが常識よね。振動するだけだからちょっと気付き辛いけど、さてさて一体誰からの連絡が入ったのかしら？　まぁ、Ms.GREENじゃない、おはよう。今日はどんなコスメを紹介してくれるのかな』


内容を確認してみると……


『え？　今日はToutubeに投稿されている男性曲？　はぁ、残念だわ。別にそんな情報を発信して欲しくて貴方のフォロワ－になったわけではないのよ………。まぁ、今は時間があるし、取りあえずイヤホンで聞いてみようかしら』


有名アイドルでもない男性曲を聞いてみると……


「何よこれぇぇえええ゛ーーーッ！！」


電車内にも拘らず、彼女は泣き叫んだ。



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深夜から働き続けている、とある外国人女性の話。


「ふぁ～～、眠いなぁ。………ん？　この着信の相手は誰かなぁ～ってMs.GREENからか」


内容を確認してみると……


「ふむふむ、この男性曲の動画を見ろってことね。今店内は暇だし、見てみようかな。男性曲なら、良い目覚ましになりそうだもんね」


ＴｏＥとかいう今人気急上昇中の男性曲を聞いてみると……


「目が覚めたぁああああ゛ーーー！！」


まだまだ働けると言わんばかりに目をギラつかせて拳を握り、彼女は大声を上げた。

その目からは大量の涙が流れ出ていた。



◆◆◆◆◆





ＴｏＥ様の曲を聞いた多くの視聴者は、誰も彼もが皆一様に『涙』を流していた。

しかし、それは決して暗い感情からではない、………嬉し涙だった。

この日、ＴｏＥ様が投稿した動画視聴回数は100億を超えた。

Toutube界に突如現れた彼は、今後も数々の名曲を世に発信し、様々な伝説を築いていく。

10年後、この世界では初の『国際音楽の日』が誕生する。

偶然か必然か、………『国際音楽の日』はＴｏＥ様が初めて動画投稿をした日と重なっているのだった。