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第一章
020:この日本の女性も三人寄れば姦しい
しおりを挟む【Side:男性護衛官の青山隊長】
「いやはや、驚いたな。流石というべきか、何と言うべきか………」
私はつい先程まで一緒にいた三井ハルカ君の事を思い出し、腕を組んでそのような言葉が口から出た。
ここで一旦言葉を切り、右手で前髪をかき上げる。
「昔、男がまだまだ多かった時代には、あれが普通だったのだろうか。どう思う、舟橋?」
「恐らくそうだったのではないかと思います。お金とか関係なしに女性へ優しく、気遣いもして、警戒心が一切ありませんでした。なんだか歴史家連中が語るような、昔の日本人男性像をリアルで見た気分です」
「私もそのように思った」
「Sランク男性というのは、あれが普通ではないのですか?」
「柴田、あれはSランクの中でも例外中の例外だと私は思うぞ。斯く言う私も、他のSランク男性を直接見た事もなければ話をした事もないのだが、上層部から回ってくる報告書なんかで大凡どんな人物等かは把握している。三井君は我々女性と“自然体”で接していたが、他はどちらかといえば“許容できる範囲が広い”というのが正確な所だろう」
「なるほど…………」
「基本的に男性護衛官は、下位ランクの男性を相手にするケースが多いからな、認識の齟齬がないよう三井君は例外中の例外、特殊な男性とでも思っておいた方が良い。他の上位ランクの男性とも同一視しない方が良いだろうな、痛い目に遭うやもしれん」
「そういえば、ネット上の書き込みで『上位ランクの男性は裁判沙汰になっても法を曲げる』という投稿を見たことがあるのですが、事実なんですか?」
「いや、上位ランクといっても其のような権力までは持っていない。実情は、女性の方が折れているというのが真相だ。まぁ、別視点から見たら、泣き寝入りしている様にしか見えないだろうがな」
「なるほど。日本人女性は男性に弱いですからね。それに下手に引っ張っても世論も許さないでしょうし、早々に矛を収めるしかないわけですか。それにしても、ハルカ君って見た目が凄く良いですよね。私、前回始めて彼にあった時、アイドルファンを止めてハルカ君推しになりましたよ。柴田さんは私の目の前で遣らかしましたけど………」
「むッ、まだネチネチというか。ちゃんと私は許して貰ったぞ」
「ハハハ、私も初めてあった時には顔には出さなかったが、内心酷く驚いたものだ。上位ランクの男性の中でも、彼はダントツに顔が良いからな」
我々は今、『男性護衛署』に帰還する為、クラウンに乗っている。
リムジンは元々政府からの借り物だった事もあり、返却は他の部下たちに任せ、我々だけ別行動をしていた。
そして、車内では私を含めた柴田、舟橋の3人だけの空間が作られ、職場と違って気軽に語り合っていた。
私は時より、この2人と仕事帰りに居酒屋に行く仲だ。
偶の休みには、BBQなんかもするな。夏には海に行き、冬にはスノボー。
職場では友人は出来ないというが、私は幸運に恵まれていた。
「もしや舟橋は、いつか男性と結婚したいと望んでいる口か?」
「そりゃ勿論ですよ! 女性なら、誰もが夢見るもんじゃないですか」
「フッ」
「あッ、柴田さん、今鼻で笑いましたね! それ凄く失礼ですよ。隊長、これってマリハラですよね!」
「馬鹿、運転中に後ろを見るな。前を見ろ!」
「グヌヌ………。柴田さん、後で覚えておいてくださいね。あなたが副隊長だろうが上司だろうが、私はヤラれたら殺る女ですよ!」
「まぁまぁ、2人とも落ち着け」
我々は三井君の護送任務完了次第、速やかに彼の家を立ち去った。
規則で『男性宅に長居してはならない』というものがあるからという理由もあるが、Sランク男性の彼と共にいると自分や他の者たちが『いつ暴走してしまうか、分からなかったから』というのが正直本音だった。
見目の良い彼の側にいると、いくら低ランク男性で慣れている我々でも性的興奮を覚えた。
そういえば、病院から受けた報告によれば、彼は容姿や人格だけでなく、スキル面でも素晴らしいそうだ。
男性は制度下においてランク分けされているが、Sランクといえど僅か13歳で大人の女性と同等、またはそれ以上の事が出来るとは……………。
確か、ランク分けの際に審査される項目は資格や能力までは含まれていなかったな。
彼は明らかにSランクオーバーではないだろうか。そんな完璧超人な男性がこの世に存在するのだろうか?
「さて、改めて聞くがどう思った?」
「どう、とは? いきなり何の話です」
私が声を低くして真面目にそう尋ねると、舟橋はそう返事をしてきた。柴田の方は首を傾げるだけだった。
説明不足だな。いきなり過ぎたか。
「以前に伝えた通り、病院からの報告では彼は容姿や性格だけでなく、多才らしい。そんな超人のような男性が本当に真面な性格をしていると思うか?」
「つまり隊長は、あの自然体も演技だったのではないか、そう思っているのですか?」
「別にそこまで疑っているわけじゃないが多才みたいだからな、あり得なくはないだろう。仕事上、今後も我々は三井君と関わる可能性があるんだ。彼が本当はどんな人物か知っておくに越した事はない筈だ」
「疑っていないなら別にどちらでも良いじゃないですか? 女性の話を協力的な姿勢で冷静に聞いてくれる人物には変わりないんですから」
「私には、彼の表情や振る舞いが嘘だとは思えませんでしたが」
「あれ、そういえば、隊長はそんな事を聞いて来ますが、リムジンの中では彼にちゃっかりとお菓子を『あ~ん』してましたよね。そんなことをした男性を多少なりとも疑うような発言をするなんて、女としてどうかと思います!」
「何ッ、現場で私たちが汗水垂らして苦労している時に、隊長はそのようことをしていたのですか!?」
「いや、待て待て。話がズレている。それと、別に本気で疑ってないし、柴田もそう睨むな。『あ~ん』は皆していたことで、接待みたいなもんだ。舟橋だってしていたぞ」
「そこで私を柴田さんに売り飛ばすなんて見損ないました! って何故、腕を掴むのですか!? 運転の邪魔です。離してください! ちょっと隊長のせいですよ。私を柴田さんから助けて下さいよー!」
運転席にいる舟橋が騒ぎ、柴田は腹を立てて舟橋の腕を握り、メンチを切っている。
まぁ、柴田は以前に色々と仕出かしたが、今回の任務では色々と苦労を掛けたからな。
それにあれから確りと反省して、多少は猪突猛進的暴走を控えるようになってきた。
現に今も静かな怒りで抑えているのが、その証拠だろう。
この後、ちゃんと労う必要がある。
「悪いが柴田、舟橋が事故ったら我々も徒ではすまない。今はその怒りを収めてくれ」
「隊長がそういうのであれば………」
あー、可愛いな。こういう所は本当に素直な奴だ。
柴田は上下関係に厳しく、上の人間の言葉は絶対であり、最大限応えようと努めてくれる。
一方で部下に対しては信頼を得ようと率先して苦労を背負おうとする。堅物で真面目な奴だ。
まぁ、だからこそ、その責任感の強さから柴田は副隊長として認められたんだがな。
「そんなスカした態度をしてますが、元を正せば隊長が…………!」
いやまぁ、そうかもしれないが、車内でそんなにキャーキャー喚くな。声が響いて非常に五月蠅い。
よく柴田が舟橋の事をネチネチとした面倒な戦友と語る時があるが、こいつに絡まれると本当に面倒くさいな。
「それ以上、耳元で騒ぐな!(拳骨)」
「痛ぁッ! 何で叩くんですか。隊長、柴田さんから暴力を振るわれましたー! 暴力ハラスメントですー!」
「おいおい、取りあえず2人とも落ち着け」
この後も何だかんだと賑やかな車内で、我々はホームの護衛署へと帰還した。
今日の夜は3人で中華料理屋に行く事になった。勿論、私の奢りでだ。
こいつらは遠慮なしにフードファイター並みに食べるからな………後でATMに行ってこよう。
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