音楽無双――おかしな世界に転生したボクはSランク

結木 夏音

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第一章

019:閑話

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【Side:主人公】


これはボクが退院する前日深夜の話。

ボクはこの時、今世で初めてと言える程に深く悩んでいた。



「これからボクは、どうしたら良いんだろ………」


漏れる言葉は、今後の進路のこと。

ベッドの上で枕を抱きしめ、時より寝返りを打っては熟考した。

これまでの病院で受けた数々の検査結果はお蔭様で問題なく、三宮先生からは『健康です』とお墨付きを貰った。

家の修繕はもう終わっており、ボクは家に帰って再び独り暮らしに戻る。



「本当にどうしよう………」


顔を枕に埋めてギュッと目を瞑る。

以前の自分は勉強を頑張って、いずれはテレビ局に就職したいと考えていた。でもその将来のビジョンは今や既に消滅した。主に黒歴史のせいで。もうテレビ局にすら近寄れない精神状態だ。



『これまで通り、ボクはお菓子判定のような口コミをするだけで良いのだろうか?』

『それとも、他の男たちと同じく男性生活支援金を貰って“無職”になる?』

『でも今回入院生活の中で思ったけど、適度な労働は心の潤いの為に必要ではないだろうか………』



改めて思うけど、将来設計って難しいね。考えがまとまらないや。

こういう時は先ず自分の身辺や直近の問題から整理してみた方が良いのかな。


例えば勉学の成績を落とせばSランクから降格されて、数年内に今のタワマンを住めなくなってしまう。

せっかくの独り暮らしを捨てるなんて勿体無い気がするし、男性生活支援金が減額されるのは嫌だから勉強は継続していく必要があるよね。


中学校はもともと通信制だから通う必要がないけれど、高校からは社会勉強の一環として何処かの学校に行かなければならない。

進学を希望していた『聖花園せいかえん高校』は………『絶対』に止めておこう。

高校の名前からして曰く付きだ。校章はバイオハザードマークだろうか。

男子校で聖なる花園はなぞのとは此れ如何に………。((((;0ω0)))!?

危険な香りがプンプンする………。きっとボクは入学初日で自主退学する事だろう。 



でもね、通学制の男女共学に行けば、プライドが無駄に高く積み重なった真面まともな男子たちからはビッチ扱いされて、滅茶苦茶嫌われることになる………。

男女共学の高校はどこも入学お祝い金とか、1年毎に感謝金をくれたりするんだ。

でも男子は国から少なくない男性生活支援金が支払われているから、一般的にお金に困っていない。

だから、男女共学に入学するような男子はお金の為に動く軟派な屑だと勝手にレッテルを張られるんだよね。



『あれ、でも別に問題なくないかな………?』


ふと思ったのだけれど、別に日本中の男子に総スカンをらったとしてもボクはどうでも良いと開き直れるよ。ノーダメージだ。

寧ろ、この日本の男子自体に会いたいとすら今のボクは思っていない。下手すると恋愛対象としてロックオンされることになるんだよ。それは怖すぎる。


男子の青春は前世も今世も『高校』から始まるんだ………!

男の先輩に手を繋がれた日には、ブヒる。

ラブレター貰ったら、焼却炉。

告白されたら、サブイボで失神。



そもそも実は男子校の偏差値って最低36から高くても56程度。男女共学の方が入学が難しいんだよね。スマホでサッと調べれば、前世と同じく高い所は偏差値70を超える。


まぁ、男子校はないとして、男女共学の高校でどこ行くかは後で決めようかな。

幸いまだまだ時間はあるからね。それに前世の知識のお蔭で例え今受験したとしても、現段階でそれなりに成績が取れる自信がボクにはある。


という事は、これからの中学生生活自体も暇になるのか………。

ボクはこれから何をして過ごせば良いんだろう………。





◆◆◆◆◆





ボクは気持ちを一新する思いでスマホを取り出し、Toutubeで音楽を鳴らすことにした。

最近、何かと使用するようになった我がスマホ様。

リディアの授業のこともあって毎日ちゃんと充電するようになった。



「女性の曲も良いんだけど、男性の曲も聞きたいなぁ~」


音楽を聞いていて思うのは、前世のような『本物』の男性曲への渇望。


この世界『ならでは』の寂し過ぎる現実というべきか、素晴らしい名曲というのは『女性』のものばかり。


男性曲はあるにはあるけれど、そもそもアーティストをしている男性自体が世界レベルで非常に少ない。それ故にToutubeにアップされている男性曲も少ないわけだ。

しかも、日本人男性の動画なんて国の厳しい違法アップロードの取り締まりによって殆ど検索に引っかからない。


まぁ、その日本人男性の曲を聞く価値があるのかはボクには分からないけどね。今日の夕方に見ていた『エンジェル・セブン』を見れば、大体どんなレベルでどんな曲調が主流かは察するに余りある状況だ…………。



そもそもこの日本ではモデルや俳優、アイドルの方がチヤホヤされて簡単に儲かるから、男性のアーティストや作詞・作曲家は存在しない。



前世のToutubeで見聞きした楽曲の数々を脳裏に浮かべれば、本当に凄かったなとみとそう思った。

誰でもどこでも邦楽・洋楽に拘らず、素晴らしい『本物』の音楽に触れることが出来た。



「無いならいっその事、ボクが……………」


歌っても良いだろうか、と愚かにもそう思ってしまった。

ボクだって、勿論分かっている。ボク如きが心からリスペクトする有名アーティスト様方を真似ることなんて出来ないって。そんな事は百も承知だった。


でもこの世界ではボクだけが前世の『名曲』を知っていて、今でもボクはちゃんと思い出せるんだ。



『ボクの脳内メモリーは、この“偉大なる宝物”をいつまで保存していられるのだろう…………』

『墓場まで持っていくなんて、許されるのだろうか…………』

『このまま死ぬまで永遠に忘れることがないなんて、あり得ないよね…………』



別にそのままパクるわけじゃない。この世界に合わせてアレンジを加え、歌詞を修正していくんだ。

自分が前世で作ったオリジナル曲もこの世界で投稿してみたら、どんな反応を得られるのだろうか。



前世ではサラリーマンと兼業で音楽関係でToutuberをやっていた。飽くまで趣味としてではあったけど、音楽関係の知識や技術はある。中々更新できなかったけど、今世では本腰でやってみたらどうだろうか。


一応、オリジナル曲にはバズッた曲もあった。

でも其れはどれもこれも…………『依頼して』歌って頂いたものばかりだった。歌い手の方々には確りと心から『ありがとう御座いました』と感謝を伝えたけれど、心の奥深くでは苦しかった。

自分で作った曲を、自分は上手く歌えなかったから…………。


前世のボクは歌に関して致命的な欠陥があって、どん底レベルで才能が無かった。


業務処理能力を上げて、仕事帰りになんとか通う事が出来たボイトレ教室…………先生からは『歌に才能は関係ないよ。楽しく歌うことが大切です』なんて言われたけれど、どう取り繕っても先天的才能による良し悪しは存在した。



そういえば、前世で好きだった有名シンガーはライブ中にこう言っていたっけ…………



「誰もやったことが無いをやらなくっちゃ。出来できっこないをやってみせなきゃ…………」


「周りが誰一人応援してくれなくとも、オレだけは応援している…………」


「この世界の未来をオレたちで照らしてやろうぜ…………」


「皆一人一人が可能性の塊だって、オレは信じている…………」


「オレたちなら出来るって、そう信じている…………」



『本物』のアーティストという偉人たちが語る言葉には『力』があった。

彼等・彼女等はそれを本気で考え、本気でそうなんだと、ライブ会場にいたボクたちを魅してくれた。

そして、歌では多くの人々の心に入って来て、刺激して、揺さぶって、言葉では到底表現しきれない程のエネルギーを与えてくれた。



『今世のボクには出来るのだろうか。あったら良いな、“――――”が…………』



時刻はもう遅く、布団を被ぶって横になる。

ボクは今後のことを考えつつ、気付けば意識を失うように眠りに就いたのだった。




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