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第一章
016:柴田さんは頑張り屋さん
しおりを挟む【Side:男性護衛官の柴田】
「柴田副隊長、病院から此方に向かっていた連中より連絡がありました。今し方、裏の住民専用駐車場に到着したとの事です」
「了解した。報告感謝する」
仲間から報告を受けて、私は無線機を手にする。
今日は暑い日だな。この炎天下で外に出ていると、額から流れてくる汗が止まらない。
タワマンの施設内であればエアコンによって涼しいが、私は副隊長として此の現場を任されている以上、施設内で楽をするわけにもいかん。
なんせ現場では上の者こそが率先して苦労せねば、部下たちには示しがつかんからだ。
『総員に告げる、要人のSランク男性が駐車場に到着した。各員は所定の持場を着き、要人が決して不審人物と接触しないよう最大の警戒をされたし。繰り返す…………』
確かこの後の流れとしては、私が隊長たちを迎えに行き、進入経路の安全確認が済み次第、要人を護送するのだったな。
現場にいる私の方で全体を何度も確認して、一部を除き心配はないと判断しているが、絶対はない。進入経路の安全確認作業というのは多いに越した事はないのだ。
ちなみに、このような警護では抑止力として『見える』ものと、隠れて『見えない』ものが手配されている。
前者は護衛対象の周囲にいる目に見て分かる者等で、後者は一般人になりすまし、散らばって隠れ潜むように護衛する者等だ。
今回の任務でも、覆面男性護衛官が各地に配されている。
これでもし何か緊急のトラブルが発生したとしても、攻防両立し、速やかに要人の安全を守り抜く事が出来る。
仲間たちへの通達が終わった私は、左手の甲で汗を拭う。
水分補給するほど喉は渇いていないが、こう暑いと気が滅入ってくる。
周囲にいる仲間たちの顔を見渡せば疲れを見せている者もいたが、私は普段通りを装い指示を出した。
ここで活を入れてこそ、信を得ることが出来るのだ。
「これより私たちは駐車場へと向かう。皆の者、ついて来いッ!」
「「「「「了解ですッ!」」」」」
私を先頭に仲間たちをぞろぞろと引き連れ駐車場へと向かうと、その道中では多くの一般人とすれ違う。
これだけは、どうしても今回の任務においてネックだった。
このタワマンは低階層が洋服屋や雑貨屋、スーパー、飲食店、喫茶店などの商業エリアとなっている。それ故、必然的に多くの人が集まってしまう。
だからといって、その営業を一時的に制限するのは悪手だ。
このタワマンではSランク男性が住んでいるというのは周知の事実であり、下手な干渉は逆にSランク男性が外を出歩くという情報を公表することに繋がる。
もしそんな大事になれば、多くの人が押し寄せ、安全経路の確保が出来なくなるばかりか、進入さえ不可能になるだろう。
ちなみに、今の私たちが男護の制服ではなく、まるで刑事のようにスーツを着て活動しているのはそれも理由の1つだったりする。男護の制服は良くも悪くも目立つ。
今回、様々なカモフラージュを用意して、現時点で誰もSランク男性が外を彷徨いているとは予想だにしていない筈だ。
事前の計画通り、経路選択に間違いはない。後はハルカ君を護送する際、出来るだけ人通りが少ない状況であることを願うばかりだ。
そんな事を考えて歩いていると、私は目的の駐車場へと辿り着いた。
「お疲れ様です、柴田副隊長」
私がリムジンへと近付くと、顔見知りの仲間が声を掛けてきた。
「うむ、お疲れ様。青山隊長は車の中に?」
「そうです。只今お呼びします」
任務の大詰めは間近だな。今一度気合いを入れ直し、己が職務を全うしてみせよう。
前回の失態を挽回する為にも、今回は何が何でも任務を成功させねばならん。
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