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第一章
004:転生した後の話
しおりを挟む【Side:主人公】
我が家の大切なリビングの扉が爆散しちゃった………。
流れ落ちそうな涙を必死に堪える。堪えて堪えて、堪えすぎて目がグニョグニョだ。
せめてもの抵抗としてボクはキーっと目力を強めて扉を壊してくれた人の顔を睨んだ。
一瞬『誰だ、この人?』と思ったけど、よく見ればボクはこの人を知っているのです。
「あれ、柴田さん?」
目から力が抜けてキョトンと首を傾げて相手の名前を呟く。
柴田さんは、前に隊長の『青山』さんと共に男性護衛官として家に挨拶に来た人だ。
茶色のショートヘアーで目がキリッとしていてツンとした雰囲気だけど、どちらかといえば可愛い系の容姿をしている女性なんだ。
「ハルカ君、男性護衛官の私たちが来たからには、もう大丈夫ですよッ!!」
何か、サッと移動して来て『抱擁』ではなく、ガシッと強く『ホールド』された。
身体能力が高すぎて、ボクの目にはとても見えない程の速さだった。
「こんなにも、小さな御姿になる程の事があったのですね。しかし、もう大丈夫ですッ!我々が来たからには貴方様の安全は保障いたします!」
余りに強く抱きしめられて目の焦点が合わなくなって来た。
上半身からバキバキと鳴ってはイケない音が鳴っている…………。
軟体動物じゃないからね。これ以上強く抱きしめられたら、背骨ガ折レソウダ。
「柴田さん、今すぐその腕を離してくださいッ!」
リビングの中に柴田さんの仲間だろう人が入って来た。そして、柴田さんにそう注意してくれた。神か。
『そうだよ。柴田さん、その腕を離して! 凄く苦しいんだ。息が出来ないだけじゃなくて、出ちゃいけない物まで出ちゃうから!』
具体的に言えば内臓だろうか。アニメのワンシーンの如く、殺人ホールドで『グチャー』って感じ。
ボクは心の中で『いいぞ、いいぞ、もっと言ってやって!』とお仲間の人にエールを送ると次の言葉に気が遠くなりそうになった。
「それは『セクハラ』ですよッ!」
とても話せる状態じゃないが、お仲間の言葉に『ムキー、そこじゃないよーッ!?』って叫びたくなった。
でも強ち間違っていないんだな、これが……。
だって此処、前世のボクが住んでいたような男女比1対1の地球とは似て非なる並行世界――所謂『パラレルワールド』だからね。
男が極端に少ない、あべこべな世界だ。
嘗ての世界では女性が性的被害を主張していたけど、この世界では男性が性的被害を主張するんだ。
大雑把に言えば、男性と女性の様々な価値観が逆転したような世界って感じ。
あれ、何だか身体震えて来た。意識が……飛ビ……ソウ。
「ハルカ君、大丈夫かッ!?おい、しっかりするんだ」
「柴田さん、ハルカ君が白目で震えて、泡を吹いてますよッ!?」
「一体、何があったんだッ!」
「柴田さんがセクハラをしたからですよ!!」
ボクは『あんたも違うからねッ!? 柴田さんの殺人ホールドのせいだよッ!!』と意識を失う前に言い返して遣りたかったけど、魚の様に口をパクパクさせるだけで限界だった。
せっかく命が助かったと思っていたのに、どうやらボクはここまでのようだ。
ボクは男の味方である筈の男性護衛官の人に意識を刈り取られるのだった。
◆◆◆◆◆
【Side:男性護衛官の柴田】
「あんたハルカ君をそんな状態にして、何て事をしてくれちゃったのですかァアーッ!?」
「いや、これは安心させようと………」
「逆効果ですよッ!?」
「そ、その悪いが舟橋、お前は救急車を呼んで来てくれ」
「ふん、了解ですッ!」
同期で同じ隊に所属する舟橋が私をジト目で見て来るが、既に起きてしまった事は仕方ないだろう。文句言いたげな表情であるが、お前はさっさと救急車を呼んで来い。これでも私は『副隊長』だぞ。
取りあえず、私はハルカ君をソファーの上へと運び、顔を横にして気道を塞がない様に寝かせる。これで大丈夫だろう。
今回私たち男性護衛官は三井ハルカ君のスマートウォッチから、健康異常を知らせる『男性緊急警報システム』――『Mアラート』を受信した為、こうして彼の家へと突入して来た。しかし、彼は床なんて場所に座り、何か恐ろしい事でもあったのか、顔色を悪くし涙目でこちらを見ていた。
だから、私が被害者の彼を安心させてあげようと優しく抱擁を試みた筈なのだが、彼は意識を失ってしまった。
まさか、この様な事になるとは思ってもみなかった。しかし、隊長の右腕として、皆を任された以上は私は冷静になって確りしなくてはならない。ここから何とか挽回できれば良いが。
背後から仲間たちがやって来た気配を感知する。振り返って現状報告をするように促した。
「男を付け狙う不逞な輩はいたか?」
「いませんでした!」
1人が前に出て答えてくれる。
「風呂場やトイレ、タンスの中、天井裏の隅々まで、全て確認したか?」
偶にいるのだ。此方の予想を超えたマサカという所に潜んでいる事が。
「問題ありませんでした!」
「そうか…………」
私たちが此処に来るまでの間に逃げられたのかもしれない。
もう少し早く来ていれば、徹底的に打ちのめして成敗してやったものを。
「皆に命ずる、警戒を厳となせ。不逞な輩は未だ何処かに潜んでいて、私たちが気を緩めるのを待っているかもしれない。各自、改めて各部屋へと赴き、人が潜める場所に漏れがないか徹底的に調べ尽くせ。そして、この家に救急隊の者達が来るまで、私たち以外決して鼠一匹入れる事は許さない。以上だ、行けッ!」
「「「「「了解ですッ!」」」」」
私が遣るべきことが終わり慈愛の精神でハルカ君の顔を見つめていると、舟橋が戻って来た。
「柴田さん、救急車を呼んで来ました。直ぐに来るそうです」
「直ぐに来て当然だ。寧ろ来なかったら、焼き討ちも辞さない」
「あなたは相変わらずなんて事を言うのですか!そもそも元を正せば柴田さんが…………」
お前は相変わらずネチネチと私を責めてくる。新人の頃から口煩い面倒な戦友だ。お前は私の母親か。これでもお前より先に出世したんだぞ。まぁ、今回は甘んじてお前の叱責を受けよう。
私は柴田沙紀、逃げも隠れもしない『鬼の柴田』だからな。
それにしても、『セクハラ』のつもりはなかったが、男がまさかこんなにも繊細で孅い存在だったとは。
最近では低ランク男性の増加が社会問題となり、一般的な男といえば傲慢にして横暴、暴力的で傍若無人な者が多いという印象であったが、Sランク男性程の極上の男になれば違うのだな。
私は今回のお蔭で、『女』は『男』を守ってやらなければならない存在なのだと改めて自覚する事が出来た。少なくとも、高ランク男性は私たち男性護衛官が命に代えてでも守らなければならない存在だろう。
なお、私たちはどうやらハルカ君の家の物を壊し過ぎたようだ。
後日、隊長から見せられた請求書の額に思わず目が飛び出るくらいに驚くこととなった。
流石はSランク男性だ、恐るべし…………。
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