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第一章

003:転生した時の話

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【Side:主人公】


「もぐもぐもぐ、もぐもぐ…………(ゴックン)」


「うん、やっぱりこの大福は美味しいな。飽きることなく次々食べられる。さっきは気付かなかったけど、素材の甘さまで加味して甘過ぎない様に配慮されているんだね。この絶妙な甘さ調整のお蔭で幾つでも食べられそうだ。届けられて判定するお菓子は甘過ぎる物が多いから、こういう気遣いは本当に有り難い」


気付けば皿の上に山盛りにあった10個の大福は、残り1個しか置かれていなかった。



「もう、この1個だけかぁ…………(ショボーン)。でもポテチもそうだけど、真に美味しい物は最後の1個が極上の味なんだよね」


僕は味わうように最後の大福にパクリと食らいついた。


自然と笑顔になる。ニュースに出ている藤原さんを見つつこれ程に美味しい物を食べられるなんて、ボクはなんて贅沢なオヤツタイムをしているのだろう。


幸福感が天を貫かんばかりにうなぎ登り、鯉のぼりだよ。

このニュース番組が終わったら勉強しよう。将来は絶対に藤原さんと同じテレビ局に就職したいからね。男性であっても、テレビ局や公務員は高い学力や学歴がないと就職が難しいらしいんだ。

今は中学1年生だけど、2年と数ヶ月たった頃にはもう高校生になる。1年生の間に中学校3年間の勉強を終わらせて受験対策しておけば、志望校である『男子校』――『聖花園せいかえん高校』にだって余裕もって合格出来る筈だ。





「もぐもぐもぐ、もぐも『グフ゛ゥウ゛』…………ッ!?」


ボクが考え事しながら大福を食べていると喉に大福が詰まり、思わずむせせてしまった。

大福のような物を食べるなら飲み物もちゃんと準備しておけば良かったな。



『の、喉に大福が詰まって………あれ、息がッ、出来ないッ!?』


このまま吐き出せたら良いのだが、胸を叩いても大福は喉に引っかかったままで出てこない。

ボクは慌てて冷蔵庫のある場所へと走った。

冷蔵庫の中から、速やかに飲み物――2ℓペットボトルのを掴み取る。



「グゥヴェ゛ッ!!」


大福の表面を纏っている粉末が喉や鼻腔、肺を刺激して変な感じに咳が出た。

呼吸が出来ない苦しさから、顔に熱が帯びるのが分かる。

バニック状態で手が震えるけどボクはその震えを我慢してキャップをひねる。


酸欠で頭がボーっとして来た……この飲み物をコップに分ける時間なんて無い。

『ガブ飲み』なんて男としてはしたないって思うけど、流石に命には代えられない。



僕は覚悟を決めて口の中にペットボトルの口先を入れた。

すると…………



「グフゥゥーーーーッ!」



――口の中でコーラが発泡はっぽうして、噴き出してしまった。

なけなしの空気が肺から出てしまった………。


何をやっているんだろうボク。ココアパウダーと炭酸飲料が混ざると、こうなるなんて常識じゃないか。




『もう駄目だ。身体に力が入らない。動けないよ』



ボクは冷蔵庫の前で倒れてしまった。

ボクの側では一緒に床に倒れてしまったペットボトルから『トク、トク、トク………』と音を出してコーラが零れていくのが見える。



視界が白く霞んで来た。



『グッ、うッ、うぅ、グッ………!?』



胸が痛苦しい。咳き込みたいのにもう空気が無い。

胸辺りの筋肉が痙攣しているのかビクンビクン震えて負荷を掛けてくる。

そんなに胸を圧迫されても、もうどうにもならない。只々、痛くて苦しいだけだった。


無意識に胸を抑えて姿勢を丸めてしまう。

酸欠のせいか酷く頭が痛む。



『ウゥゥ、……グゥウッ………』



もう死ぬ寸前だからかな。ボクには不思議なものが見えてきた。



『ングウゥゥ………ウゥゥ………ウゥゥ』


『何ダロウ………何か見エル。何コレ?』



三途の川だろうか。天国だろうか。

知らない景色や情報がドンドンと頭の中に浮かび上がって来る。



『コノ景色は何だろう?………東京?山手線、電車通勤?………沢山の人たち』


『コレハ天国の景色ダナ。沢山ノ男性ガ見エル♪』


『ブラック企業………社畜サラリーマン………エリート戦死?』



そして、意識が飛びそうになった寸前でボクは思い出したんだ。



『働イテ、働イテ、働イテ………仕事のし過ギで倒レテ………死ん、じゃった』


『ソウダ………そうだよ。これは―――――』













『―――これは“私”だッ!?』


ボクは目をパチリと見開いた。幽鬼の如くスッと立ち上がり、足が動く。

このリビングの部屋の隅に設置してあった掃除機の前に立ち、鬼のような表情で掃除機を乱暴に掴み取る。



そして、ボクはノズルを外して『パイプ』に食らい付いたんだ。

もうペットボトルに口を付けてしまったし、掃除機のパイプに口を付けた所でもう気にしない。衛生的にどうのこうの知った事じゃない!

指で掃除機の電源をポチっと点ける。



「ン゛ゥゥウウウ゛゛ーーーーーーーーーーッ!!」



掃除機の強烈な吸引が始まって、くぐもった重低音が部屋に鳴り響く。それはまるでボクの声にならない唸り声のようなものだった。

ハッキリ言えるのは、ボクの顔が凄い事になっているって事だけだ。

決してSランク男性がして良い所業じゃない。でも生きる為には時に羞恥心を捨てる必要があるんだ!


吸引力が強くて、何とも言えない痛みがボクを襲って来ると、いきなり『スポンッ!!』と何かが取れて掃除機に吸い込まれて行った。


ボクは吸引力が弱くなった瞬間を見逃さず、口に咥えていたパイプを離して深呼吸した。



「すぅううーーーーハァ~~~~~」


「すぅーーーーハァ~~~~~」


「すぅううーーーーハァ~~~~~」



こうしてボクは漸く呼吸できるようになった。身体から力が抜けて尻餅をつく。

助かった現状に安堵して、涙が湧いてきた。視界がボヤケる。


嘗ての自分に感謝だ。いや本当にジリ貧だった。

”前世”の知識、『民間療法』のお蔭で助かる事が出来たのだ。

それと前世の上司の”アリガタ~イお言葉”のお蔭もアルカモシレナイ………。



『お前たち、人間は簡単には死なん。寧ろ死ぬと思った瞬間からが本当のスタートラインだ。だから、安心して働き続けろ。死ぬ気で働けー!』


『ほらそこ、手が止まっているぞッ!徹夜3日目なんて大したことないだろうッ!?シャキッと気合いを入れろッ!!』


『ふん、最近の若い者は、根性が足らんッ!常識も無い。マナーも無い。遣る気も無くて、責任感も無い。無い無いくしで働くという事がどいうことか分かっとらんッ!!。私が若い頃はお前等なんかと違って…………(ネチネチ、角さんシカジカ)』



クソ上司を思い出して、脱力した状態でも無意識に拳を握って歯を食い縛ってしまう。

今回はある意味マジで助かりました。前世で鍛えられた根性(笑)のお蔭でボクは再度立ち上がれました。

でも前世の私は、マジで死んでしまいましたよ。あのオッサンめ、地獄に落ちろッ!

愚痴の1つ言った所で罰は当たらないよね。




兎にも角にも、ボクはこうして直近の危機を脱する事が出来た。


何だか『今世のボク』と『前世の私』で記憶の整理が出来ていないのか頭は酔ったようにフワフワした感覚を覚えるけど、少し横になってみるとヌクヌクした感じになってきた。



言うなれば少年から一皮も二皮も向けて、超進化している状態だろうか。(勘違いです)

新たな自分になって来たような気がする。(2頭身モードの始まりです)

28歳と12歳の記憶が混ざったんだから。そりゃ、凄い大人にもなるよね。(黙秘)





どれくらい経ったか分からないけど、ボクは床の上で中年オヤジのように寝転がって天井を見つめていると、廊下から騒がしい音や複数の足音が聞こえて来た。



『あれ、誰だろう。ボク、家の鍵を閉め忘れていたかなぁ………?』



ボクは上体を起こして身構え、部屋のドアを見つめる。

そして、ドアが開かれたと思ったとき、ドア自体が…………








―――――『爆散』した。








比喩ではなく、現実で……。余りの状況にボクは目が点になった。

いきなり『ドゴーーン゛ッ!!』と勢いよく扉が吹き飛んだと思ったら空中で原形を無くして消滅したんだ。(黙祷)



「ハルカ君、大丈夫かーーッ!?」


扉を壊してくれた人がボクを心配して大声を張り上げた。

助けに来てくれたのは嬉しいけど、もう少し声のトーンを落として欲しい。

それと、もう大丈夫。トラブルは自分で解決したよ。



それよりも、これどうするの………?


リンビングの扉、亡くなったじゃん………(ショボーン)。


ボクは再び目が潤むのだった。





◆◆◆◆◆





【Side:????】



遡る事、15分前

ハルカの住んでいるタワーマンション1階での事……



「おい、そこのスタッフゥーーーッ!」


豪華で広い空間のエントランスで大きな叫び声が反響した。

出入り口の方からは、ぞろぞろと20人もの女性集団があまりにも必死な形相で全力で駆け込んでくる。

しかも彼女らはそれぞれ警棒と透明防護シェードを持ち、防弾チョッキ装備していた。

周りにいた一般人たちは声のした方をみてギョッとした表情をし、まるでモーゼの行進の如く道を開ける。




「は、はいーッ!?ほ、本日は、如何なひゃい、ママしたでしょうかーーッ!!」



彼女たちに押しかけられ、あっという間に囲まれたフロントの女性スタッフは、恐怖から声が上擦うわずながらも職務を遂行しようとした。(天晴れである)

流石に一般人に対して、戦士に恐れおののくなという方が無理であろう。



「急ぎだッ、最上階のスペアキーを出せッ!」


集団の先頭に立っている短髪の女性が怒鳴る様に声を張り上げた。



「さ、最上階と申されますと、とある高貴な御方のご住居ですので、大変申し訳ございま――」

「黙れッ!」


フロントの女性スタッフは言葉を遮られ、容赦なく一喝された。

その言葉は非常に高圧的で、女性スタッフは恐ろしさの余り「ヒィイーー!」と声を上げて後退る。


短髪の女性は苛立ちを募らせ、彼女へ迫ろうとした時、この物々しい集団の後方から隊長らしき装いの女性が出て来た。

その女性は長い黒髪を後ろで束ね、凛とした姿勢で綺麗な容姿をしていた。

彼女が目で仲間に下がれと合図を送り、女性スタッフへ声を掛けた。



「部下が失礼した。我々は見ての通り『男性護衛官』の者である。速やかに此方の指示に従い、最上階のスペアキーを出してくれ」


吐き出された声は落ち着いたものであったが、彼女の纏う雰囲気や言葉にはどこか冷たい圧力があった。



「し、しかし、た――」

「まだ分からんかッ!?しかしも案山子もあるか!時間が惜しい。お前が言うその高貴な御方の命が掛かっておるのだぞッ。速やかに出す物を出せッ!」



先程の短髪の女性が再び噛みつき、大きな声がエントランスに響き渡る。



「そ、そんな。でも。先ず上に。私には…………」

「お嬢さん、責任は此方で取る。一刻を争うのだ。頼むよ」

「そ、その――」

「頼む」


隊長のような女性はこれ以上の問答は容赦しないと言わんばかりの目力で女性スタッフの言葉を封じ一言呟いた。



「…………はぃ、わかりました」


フロントの女性は後ろ髪を引かれつつ、男性護衛官の隊長らしき女性にそそくさと鍵を渡した。

スペアキーを得た女性集団は速やかに最上階を目指す。



改めて、この武装した女性集団は『男性護衛官』である。男をあらゆる危機から守る為に設けられた特殊な公安組織だ。

今回、彼女等はハルカが身に着けているスマートウォッチから発信された特殊な電波を受信し、こうして此のタワーマンションに訪れていた。しかし、現場がどうなっているか分からない。調べている時間など無い。火災やテロなどによってエレベーターが途中で止まる可能性もある。


今回のケースでは、現場において火災報知器が反応していない事からエレベーターを使っても問題ないように見受けられるが、不測の事態もあり得る。


そもそも彼等の救助に関する規則ではエレベーターの使用は一切禁じられていた。

ゆえに、彼女等は階段を使い、全速力で最上階へと駆け上がって行く。

しかし、流石に日々鍛えている男性護衛官と言えど、標高約200mにも達する超高層マンション――所謂タワマンの最上階を階段で向かうというのは辛いものがあった。



「はぁ、はぁ、はぁ、隊長ォーーッ!」

「はぁ、はぁ、どうした……?」

「エレベーターを使いませんかッ!」

「はぁ、はぁ……悪いが規則で禁じられている」

「でも今回は急ぎですッ!途中からでも、エレベーターで向かった方が、早いのでは無いでしょうかーッ!?」



タワマンは高級な住まいとして一般に知られているが、その実、エレベーターはボタンを押しても到着するのが遅いという問題がある。



「舟橋、いつエレベーターが来てくれるのか分からんのだぞ」

「今回は早急な現地への到着が肝要です!最上階まで駆け上がるなんて時間が掛かり過ぎますッ!」

「しかし、規則で禁止されているからな……」

「このままでは、目的を達する前に我々が倒れてしまいますッ!」

「規則ではタワマンなんて考慮されていないからな……」



共に駆け上がる部下たちは、どこか縋る様に隊長と同僚の遣り取りを見ていた。


隊長と呼ばれているのは、先程フロントにて女性スタッフと遣り取りしていた長い黒髪の女性である。

男性護衛官の隊長は当然様々な権限を持っているが、同時に多大な責任や義務も背負っている。

彼女たちは本来、組織に所属している以上、規則を守らなければならない立場にある。少なくとも、上司である隊長は常に規則を遵守する姿勢を部下に見せ続けなければならない。

そこで彼女は部下にこう発破をかける事にした。



「舟橋、『我々の足』と『エレベーター』……どちらが早いと思う?」

「それは…………」


舟橋という女性は息を荒げながらも、ゴクリと唾飲み、額からは一滴の汗が垂れ落ちた。

こうして会話している時でも彼女たちは足を止めず階段を上り続ける。



「我々の足だ。……そうだろう?」

「…………………」

「これまで、我々の過酷な鍛錬はなんの為に行ってきたんだ?こういう時の為だろう。鍛錬は嘘をつかないッ!筋肉は最強の相棒だッ!」

「…………………」

「我々なら、エレベーターなんかに負けず、光の速さで最上階へ行ける筈だッ!違うかッ!?」

「私が間違っておりましたッ、その通りでありますッ!!」

「はぁ、はぁ、……柴田ーッ!」

「はい、隊長ォオオッ!!」

「お前は私の右腕だッ!みなを託す。この鍵を持って一番槍を努めろッ!」

「了解ですッ!」

「私の屍を越えて、先に行けーーーッ!」

「「「「「隊長ォォオオーーーッ!!」」」」」



こんなドラマが有ったとか無かったとか。


柴田と呼ばれる女性は先程フロントで高圧的に大声を出していた人だ。

彼女は先頭を走りだし、まるで大きな生き物のように仲間たちと孤軍奮闘する。19人の男性護衛官たちは餓えた猛獣となり光となり最上階へと向かった。


実の所、男性護衛官は職務の関係上実力主義であるが、何故か脳筋が多い組織なのだ。ちょっと発破をかけてやれば、ヤル気を滾らせ、身体能力がブーストされる。

隊長からすれば、彼女たちを手の平でコロコロ転がして、その気にさせるなどお手の物であった。



ちなみに、隊長の方は日頃の事務職が祟って体力が落ちており、自分だけちゃっかりとエレベーターを使って皆より遅れてハルカの家に到着する。やはりエレベーターに乗るのは時間が掛かった。

そもそも、この集団の中で一番エレベーターを使いたいと思っていたのは『隊長』本人だった。しかし、上の人間が部下に規則を破る姿を見せる訳にはいかない。また、部下と共に規則を破る訳にもいかない。

ゆえに、先に行かせたのだ。最上階より1つ下の階まで行ければ、後は楽なものである。どうせバレないさ。


ただ、隊長は1つ大きなミスをおかしてしまった。脳筋な彼女等の手綱を離し、柴田に仕事を任せてしまった結果、彼女を筆頭に数々の蛮行が現場で行われる。後に隊長は上から叱責を受け始末書を書くことになるのだが、この時の彼女はそんなことになるなど想像すらしていないのだった。








みなの者、突入するぞーーーッ!」

「「「「「おうッ!!」」」」」」

「かかれーッ!かかれーッ!かかれェーーッ!」


あれから、あっという間にハルカの家の前まで到着した脳筋武装集団は、速やかにハルカの家の鍵を開錠した。

そして、柴田はまるで何処ぞの戦国武将のように警棒を振り上げて檄を飛ばす。

開けられた玄関扉からは、雪崩れ込む様に続々と脳筋武装集団が侵入していく。

強引な形で制圧された家の中は、様々な私物が木っ端微塵に破壊し尽くされたのだった。




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