音楽無双――おかしな世界に転生したボクはSランク

結木 夏音

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第一章

002:転生する直前の話

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【Side:主人公】


とある平日の昼下がり、自宅のリビングにて


今、ボク――『三井みつい はるか』の目の前には凄く美味しそうな大福が置いてある。


この大福は江戸時代から続く名店中の名店、某老舗の最新作『ジャンボ苺ココア大福』だ。中には大きな苺が入っていて、餡はホワイトチョコを使ったものが入ってる。

大福と一緒に箱の中に入っていた――大福を輪切りにした――写真を見ただけでも、涎が溢れてくる。


ボクにはあと1時間もオヤツタイムを我慢するなんて出来なかった。悪い子だけど前倒ししてオヤツタイムをする事にしたんだ。


お皿に乗せた大福は写真の物より一層神々しくて美味しそうに見える。(涎ジュルジュル)

ボクは口の周りをゴシゴシ拭い、ソファーに座って、尋常に大福に向き合った。



「いただきますッ!」


男子たるもの女子の様な粗雑で下品な性格は許されない。ボクはしっかりと手を合わせて食事を始めるんだ。

そして、右手で大福を手に取り、パクリと食らいついた。



「もぐもぐもぐ、もぐもぐもぐ………♪」



『美味しい』――素直にそう思った。


商品説明にも書いてあったけど、大福生地きじの水分量はかなりシビアにこだわっているのがよく分かる。


具に関しては、入っていた大きな苺が甘さ控えめで酸味が強かった。ココアの風味は確りと感じるけど苦味が強い感じがする。でも、ホワイトチョコの強い甘みや風味が良いバランスを取ってくれている。


手に付くが少々気になるけど、味や食感は満点だ。



「うん、これは美味しい大福だな。ちゃんと評価して、コメントを書いてあげないとね」



女性が作ったとは思えないようなお菓子への熱意や繊細なこだわりを感じた。


Sランク男性のボクくらいになると、『男』とか『女』とか、そんな性別なんて関係なく実力主義で平等にジャッジする。



空いている左手でスマホをポチポチっと操作して文字を打ち込む。

コメントに書いた文字数は721文字。この位で良いだろう。


総合評価は『星4.3』にして、完了っと。



ボクは基本的に星無しから星4までしか付けないのだけれど、今回の大福はそれだけ美味しかった。

残りの星0.7の分は更なる工夫に対する期待なんだけど、この大福を作った女性職人さんにそれが伝わっていると良いなと思う。



さて、今日しなきゃならないは終わったし、後はテレビを見てゆっくりと過ごそう。





◆◆◆◆◆





『昨日未明、女が男性宅へ不法侵入を図り、現行犯逮捕されました。幸い直接的な男性宅への侵入は未遂に終わりました。警視庁によりますと、ムラムラする日々に我慢ができなくなり、性的欲求を解消する目的で男性宅への侵入を実行してしまったとのことです。また、容疑者本人は取調べの際、“1ヶ月前から計画していた。失敗して捕まったが、後悔はない”などとも供述しており、容疑を認めています。警視庁は今後、男性宅への不法侵入以外で、他に余罪がないかを調べていくとのことです。続いてです…………』



テレビを点けたら、ニュース番組が流れていた。

ボクはパクパクと大福を食べながら男性アナウンサー『藤原ふじわら 優斗ゆうと』さんが話している内容を聞き、逮捕された女性の所業にヤレヤレと呆れていた。



『男性を盗撮した写真や動画が、悪質にもネットで取引きされていました。中には男子児童のポルノまで含まれており、○○県警は通販サイトの事業所および運営者の自宅などへ家宅捜査を踏み切りました…………』


『通勤時の朝に、歩いていた男性を背後から抱き着いたとして、自称会社員の女、29歳が強制わいせつの疑いで逮捕されました…………』


『女が男性の下着を盗もうとして、男性宅のベランダに侵入…………』




思わず「はぁ~」というため息が漏れた。



「女という生き物は、どうしてこんなにも性的欲求をコントロールできないんだろう」


ボクは大福を食べる手を止めて独り言を呟いた。

日本人女性の男性への性犯罪率は先進国の中で『随一』っていうのは知っている。でも流石にこう連続で報道が続けば、ボクの様な差別意識のない人間でも気分が悪くなる。


今食べている大福のように、素晴らしい女性職人さんが日本には存在する一方で、どうしてこんなにも性犯罪者が誕生するんだろうか。


幾ら男性人口が非常に少ない日本だとしても、国民はみんな義務教育を受けているんだから、獣的な思考ではなく、理性的な思考で性的欲求くらいはコントロールするべきだよね。



「それにしても、今日の藤原さんもカッコイイなぁ~」


このニュース番組に出ている藤原優斗さんはボクの憧れで、初恋の人だ。

こんな大人な男性にボクもいつかなりたい。


藤原さんの事は5年前から変わらず凄く大好きだ。HPに掲載されている経歴や趣味、誕生日などは確りと丸暗記している。市販されているブロマイドやポスター、小物系含めて全種類をコンプして金庫の中に大切に保管してある。

将来はボクもテレビ局で働きたいって思ってる。側で藤原さんの活躍を見ていたいんだ。

藤原さんは他の男性たちや女性たちにも人気で、結婚したい男性ランキングは毎年1位。僕なんかじゃ到底相手にされないだろうけど、一緒に仕事して側にいられるだけでそれだけで良いんだぁ。




『続いてです。厚生労働省のホームページで掲載された公式発表によりますと、日本の前年度における出生女男比は54:1だったとの事です。詳しくは女子が151万人、男子はなんと2.78万人も生まれておりました。男子は前々年度に比べ、その出生児数は0.01万人も増加しておりました。日本国民の皆様、盛大なる拍手をッ!』


ボクは藤原さんに言われるがまま大福を片手に『パチパチパチ……』と手を叩いて拍手した。

この結果は本当に凄い。なんせ久しぶりの増加傾向だよ。快挙だよ。

日本は全体でみれば少子高齢化社会ではないけど、男だけで見れば似た様な感じで年々減少傾向にあったんだ。


流石にいきなり女男比が1対1になることは難しいと思うけど、もっと男が増えないと色々な社会問題が今後浮上するからね。この報道はとても目出度いものなんだ。




『続いてです。国会では野党を中心にして男性に一夫多妻制度の婚姻義務を課すよう主張が強まっています。それに対し、男性人権保護団体と一部の男性等が “その主張は妥当性に欠ける。男性の人権を無視した違憲だ” と抗議声明を本日発表しました。近々、国会の前ではデモ活動が行われるとの事です。国会議事堂周辺は大変危険な状況となることが想定されます。善良なる日本国民の皆様におかれましては、男性に会いたいが為に国会議事堂へ近付くことがないよう注意して下さい………』


こうしてキリッと話す藤原さんの表情も最高なんだよね。

以前に雑誌では『モデルや俳優、アイドルより格好良過ぎる男』として取り上げられていた事すらあった。

仕事できる系の男性って少ないんだけど、藤原さんは見た目だけじゃなく中身も完璧。

ボクも大人になったら藤原さんみたいにバリバリ働きたいなぁ。





ちなみに、ボクは未だ13歳の中学生だけど、一応これでも働いているんだよ。さっきしていたお菓子判定が今のボクのお仕事なんだ。


女性は男であるボクの評価・感想を見て商品を沢山買ってくれるらしくて、ボクは所謂お菓子の営業?広報?みたいなことをしているんだよ。


日本で男性生活支援制度を利用する為には条件があって、ボクはSランク認定を受けた男だからこうして労働の義務が多少なりとも付いて回るんだ。



日本ではもう当たり前な話だけど、男性生活支援制度は12歳からランク分けされることが決まっていて、高い順から『S、A、B、C、D、E、F、G』があり、審査項目は『容姿・知能・精神・言動・行動・運動・健康状態・女性への差別意識』で判断される。


ランク分けされた男性にはそれぞれに見合った社会保障が受けられて、Sランクのボクの場合は相応に最高の待遇が受けられるんだ。


実はこのタワーマンション、その最上階の我が家もSランク男性として認定されたから賃貸料金が無料ただなんだ。そのお蔭でこうして独り暮らしをさせてもらえてるんだよ。



この家以外にもボクは様々な待遇を受けているんだけど、目に見て分かりやすい物と言えば、やっぱり高額な男性生活支援金かなぁ。

年間で1億円も貰っているんだぁ。


だから、こうして何かしらの労働をするのは仕方ない事なんだ。というより、寧ろ当然だよね。ギブアンドテイク、Win‐Winな関係って大切だもんね。例えばボクがこのタワーマンションで住まわせて貰えたのだって、周辺の不動産に影響を与えて、地域活性化にも繋がって、経済をグルグル良い方向に回す重要な役目を担っているからだよね。

ボクはちゃんと勉強しているから、そういう事も知っているんだよ。

ちなみにボクのようなSランク男性は同世代に3人しかいないんだぁ。凄いでしょ。


そういえば最近、低ランク男性の増加が社会問題となっているんだ。男性ランクは図にするとピラミッド型なんだけど、EランクからGランクの男性が膨張する形を描いて、何やら女性差別をする人が多くなって来たらしいんだよ。


ボクたち男の生活は、多くの女性たちの働きのお蔭で成り立っているのに彼等は一体何を考えて差別なんてしているんだろう。ボクがまだまだ子どもだから、よく分からないだけなのかな………。






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