鬼閂薙はセーラー服陰陽師!

濁酒

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お嬢様陰陽師の式王子は強すぎる…

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 仏堂の中に主が入り、10分程が経っていた。富嶽ふがくは言われた通りに周囲を警戒し宙を泳ぎ回っていた。

“…っ!”

 富嶽は鮫特有の黒く澱んだ目を4から1号棟の屋上に向けた。4号棟の屋上には黒犬の群れが突如に現れ、その全てが仏堂を護っている富嶽に強い殺意が槍衾の如く突き刺してきた。
 富嶽は群れを視界に入れて歯軋りをし、威嚇をする。すると富嶽の周囲に幾つもの黒と深紫の様な色が入り混じったかの様な球体が形成された。
 幾つも幾つも…、それらは電気の様にエネルギーを迸らせる。そして黒犬の群れが濁流の如く、一斉に富嶽目掛けて跳び出した。
 途端、球体が収束してビームとなり黒犬の群れを撃ち抜いた。一撃が濁流に穴を空け続け様に二撃目三撃目四撃目と撃ち出された。濁流の群れは虫食いの葉となるが勢いはそのままに富嶽に取り付き何匹かが鮫肌に食いついた。
 富嶽の目が歪み不快を歯軋りで表す。ギリギリギリと歯軋りの音を強ませると身体を回転、富嶽を中心に竜巻が起こると張り付いた黒犬を弾き飛ばしながら群れへと突進、竜巻を纏い龍となり黒犬の群れを蹂躙し始めた。
 その光景を口をだらしなく半開きにして見上げる馬取…と警察捜索チームの面々。彼等の周りは薙の式神…赤、青、黄色の球…“三原色”が結界を張り護っていた。馬取は瘴気が覆う空で暴れ回る巨大鮫を見ながら呟いた。

「空の上で鮫映画の上映かよ…、てかサメ…か?」

 仏堂の中では巨大な魔犬の腐り落ちた腐肉から黒犬が湧き出て鬼閂かんぬき薙に襲いかかり、彼女は上段斬り、下段斬り、横一文字斬りと妖刀夜霧を振るっていた。首を飛ばし、頭をかち割り、胴を斬り別ける。
 なかなか牙の届かない相手に魔犬も焦れ、その腐った巨体で飛び跳ね、薙を踏みつけようとした。
 薙は直ぐ様身体を回転させて回避、受け身を取る。
 魔犬の頭の外皮がとろけ頭蓋が露わになりながらも敵意の眼光を光らせて咆哮。再び身体の腐肉から黒犬が顔を出し薙を襲う。
 薙は顔をしかめながらも一、二、三と斬り払い、魔犬の懐へと潜り込み腹部を深々と斬りつけた。

「グワフッ⁉」

 魔犬が鳴き腹部からやはり腐った臓腑が大量に溢れた。かと思えばビチャビチャと蠢き触手となって襲いかかって来た。

「ウエッ⁉」

 薙から変な悲鳴が出て足早に後退しながら迫り来る臓腑を結界でも張るかの様に振り回し斬り刻んだ。…だが捌き斬れない臓腑が薙を絡め取り両腕の自由を奪い次々と巻き付き夜霧の刀身が飛び出た状態で肉団子となる。
 魔犬はニタリと嘲笑わらって薙を見、巻き付いた臓腑が万力の様に彼女を絞め上げる。

「ぐううっ!」

 薙の身体が軋み、思わず悲鳴を洩らす。…と、刀身を突き出していた夜霧が“ガチガチガチ…っ!!”と音を立てて震え出して途端に巻き付いていた臓腑に瞬時に線が走り腐った血汁が噴き出しぶつ切りにされた。
 臓腑がバラバラボトボトと薙の足下に落ち、夜霧の柄を握り直して彼女は魔犬へと突進、二本の前足を斬り落とした。
 魔犬は薙の眼前に前のめりに倒れ込み、腐汁を撒き散らす。薙は魔犬を眼下に見下ろすと夜霧を逆手に握り返して頭蓋の露出した額を突き貫いた。

「オンカカカビサンマイエイソワカ、オンカカカビサンマイエイソワカ、オンカカカビサンマイエイソワカッ!!!」

 尊き御方よ、哀れなる魂を導き給え…。三度地蔵尊への祈りを捧げて薙は妖刀夜霧の力を解放する。
 妖刀夜霧は人を惑わし生き血を求める魔剣でもあり、悪しきものを浄化する力を有している聖剣でもある。前の持ち主の手から離れた後に薙と契約し、その力を振るっていた。謂わば富嶽と同じ“式王子”なのである。
 妖刀は彼女の剣となり彼女を守護する守り手として存在している。
 浄化の力が噴き出て魔犬の巨体を青白いドームとなって覆い尽くすと魔犬の腐りかけた身体が瘴気となって分解されていく。すると富嶽に蹂躙されて少なくなっていた黒犬達がドームに矛先を代えて集まり体当たりを始めた。
 その光景はドームを攻撃していると云うより…自ら火に入る虫の如くであり、体当たりした黒犬は浄化の力で瘴気の霧となり消滅していった。
 そして夜霧が発生させた青白い浄化のドームは魔犬のみならず空庭団地五棟から全棟、敷地全てを覆い殻が割れる様にして消滅した。
 暗く曇っていた空から朝日が差して青空が広がり、巨大な鮫である富嶽がゆるりと飛んで泳いで、微風が吹いて薙の長い黒髪と膝を隠すスカートの裾を揺らした。

「…思ったより早く片付いてしまいましたわ、このまま学校休もうかしら?」

 そう愚痴り五棟の屋上から下を覗くと馬取達警察の面々が此方に手を振っていた。それを見て薙は肩を落として溜め息を吐いた。

「馬取さん達への報告がありましたわ…。」

 薙は富嶽を呼んで左鰭に乗り、馬取達の場所へと降りて行った。
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