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お嬢様陰陽師の実力や如何に…
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空庭団地は1棟五階二十世帯、全五棟の市営団地である。十年前に老朽化により解体が決定し、住民達も既に立退きしていた。
しかしその後にいつの間にか成神の会を上げるカルト集団…男女凡そ50人が団地北東端の第五棟を不当に占拠、生活を始めてしまう。
行政…警察から退去勧告を受けても無視し続け、数ヶ月による違法占拠で機動隊もが動き数週間もの睨み合いとなったがそれ以上の事は何も起きなかった。…だが事態は一夜で収束する。
男女50人いた成神の会がたった一夜で退去…全員居なくなってしまったのである。
状況はとても異様で、生活感をそのままにして全員一人も残らずに消えてしまったのである。しかし警察は特に問題視せず、この案件は事件とも事故とも報告されずに只…機動隊の警告に応じ、一斉退去した事となった。
鬼閂薙は空庭団地最北東に位置する第五棟の屋上に降り立った。富嶽の背より上から見た時に五棟屋上の三分の一を仏堂の様な建物が占めているのを確認した。
(明らかにこの団地より新しい建物、彼処に行方不明者がいるのだろうけど…多分、もう…。)
薙は眉を潜め、仏堂前に向き合う。ミギテニ握る妖刀夜霧が仏堂より漏れる瘴気に反応してカタカタと震え、後ろに控える宙に浮く巨大鮫…富嶽は薙を守ろうと前に出る。
「どーどー、大丈夫よ、富嶽。仏堂開けますから周囲に見張っていて。」
富嶽の横腹をポンポンと叩いて落ち着かせ、仏堂の上り口を昇り…堂の戸を開けて中へと進入する。
奥には本来であるなら本尊となる仏像が安置されるのだが、その場所には床に無造作に打ち捨てられた幾人もの人間の骨があり、上座に4~5mはありそうな大きな肉塊が昆虫の卵巣の様に壁に貼り付き、その下には数多くの犬の様な頭蓋骨が積み上げられていた。
臭気と瘴気を放ち、ヌラヌラした外皮を脈立たせ…ブシュッ…と噴き出た腐汁が外皮を突き破り垂れる。
「…受肉していますわね、“成神の会”とはよく言いましたわ。」
この国では妖魔もまた神となる。多くの犬神を祀り、融合させたのであろうか。この肉塊は卵巣と云うよりも子宮と云うべきなのだろう。
他の黒犬…犬神達が子宮の守りながらも心霊スポットとの噂で寄ってきた人間を養分…餌として捕獲していたのだと薙は推測した。
薙は抜き身の夜霧を中段に構えて眼前の肉塊を剣先の向こうに置く。
刀を構えるその姿はサラリとした流れる様な黒髪に切れ長の目、凛々しい表情と靭やかなプロポーションが着こなすセーラー服、膝下までのスカートから覗く細くもがっしりと地を掴む足が魅せる佇まいは名高い剣客小町を連想させる。
そんな彼女は鬼閂流陰陽道門派の陰陽師にして鬼閂家御令嬢の肩書を持っているのである。
薙は意識を妖刀に集中、己が霊力を流して夜霧と一体となる。夜霧に自分の霊力が行き渡るのを感じ取ると中段から右へと腰を回しまた刀身を背に置き地面と水平にして構えた。
「妖魔霊断、横一文字薙斬り!!」
一息に身体の反応を一つにして妖刀夜霧を横薙ぎに振るう。距離はかなり離れているが霊力の刃が横薙ぎに伸び眼の前の肉塊が真横に一気に裂け、ドバッと腐汁が溢れた。薙の足元まで広がり届く。
技名に関してはオリジナルで…、自身の名、薙…薙ぐと入れる事で中段による薙ぎ斬りの霊的威力を倍増させた…。所謂呪による強化技である。
しかし薙は汚れるのを気に止めずに腐汁を踏みつけ、本尊を見る。斬り裂かれた肉塊からは腐汁を伴い巨大な体毛がなく腐った皮膚を露わにした巨犬が床に転がり落ちた。
「“ちっ、腐ってやがる。早すぎたんだ!”…とでも言われそうな姿ですわね。
実際、外へ出すには早過ぎたのでしょうから。」
薙の言う通り、肉塊より出て来た巨犬はその形成し切れず、腐った身体を起こして目玉のない目で薙を睨めつける。此方を威嚇し、牙を剥き出しにして口から腐臭に塗れた瘴気を吐き出した。
「多くの犬神を融合させ、多くの命を吸ったであろう呪いの妖獣…。
我が妖刀夜霧がその邪悪と無念を祓いましょう。
我が名は鬼閂薙、呪われし東京を破滅に導く魔女なり!」
この地は東京ではないし、彼女は破滅に導く魔女でもない。この台詞は薙がハマっているライトノベル『陰陽都市東京』の敵キャラ…鬼道憲子の決め台詞である。
この台詞を口にする薙はかなり気持ちが昂っている。今目の前に…自分に敵意を剥き出しにする身体を腐らせた大きな獣は人の術により創造された魔獣なのだろう。薙は魔獣に嫌悪を刃に乗せ、二度構えた。
しかしその後にいつの間にか成神の会を上げるカルト集団…男女凡そ50人が団地北東端の第五棟を不当に占拠、生活を始めてしまう。
行政…警察から退去勧告を受けても無視し続け、数ヶ月による違法占拠で機動隊もが動き数週間もの睨み合いとなったがそれ以上の事は何も起きなかった。…だが事態は一夜で収束する。
男女50人いた成神の会がたった一夜で退去…全員居なくなってしまったのである。
状況はとても異様で、生活感をそのままにして全員一人も残らずに消えてしまったのである。しかし警察は特に問題視せず、この案件は事件とも事故とも報告されずに只…機動隊の警告に応じ、一斉退去した事となった。
鬼閂薙は空庭団地最北東に位置する第五棟の屋上に降り立った。富嶽の背より上から見た時に五棟屋上の三分の一を仏堂の様な建物が占めているのを確認した。
(明らかにこの団地より新しい建物、彼処に行方不明者がいるのだろうけど…多分、もう…。)
薙は眉を潜め、仏堂前に向き合う。ミギテニ握る妖刀夜霧が仏堂より漏れる瘴気に反応してカタカタと震え、後ろに控える宙に浮く巨大鮫…富嶽は薙を守ろうと前に出る。
「どーどー、大丈夫よ、富嶽。仏堂開けますから周囲に見張っていて。」
富嶽の横腹をポンポンと叩いて落ち着かせ、仏堂の上り口を昇り…堂の戸を開けて中へと進入する。
奥には本来であるなら本尊となる仏像が安置されるのだが、その場所には床に無造作に打ち捨てられた幾人もの人間の骨があり、上座に4~5mはありそうな大きな肉塊が昆虫の卵巣の様に壁に貼り付き、その下には数多くの犬の様な頭蓋骨が積み上げられていた。
臭気と瘴気を放ち、ヌラヌラした外皮を脈立たせ…ブシュッ…と噴き出た腐汁が外皮を突き破り垂れる。
「…受肉していますわね、“成神の会”とはよく言いましたわ。」
この国では妖魔もまた神となる。多くの犬神を祀り、融合させたのであろうか。この肉塊は卵巣と云うよりも子宮と云うべきなのだろう。
他の黒犬…犬神達が子宮の守りながらも心霊スポットとの噂で寄ってきた人間を養分…餌として捕獲していたのだと薙は推測した。
薙は抜き身の夜霧を中段に構えて眼前の肉塊を剣先の向こうに置く。
刀を構えるその姿はサラリとした流れる様な黒髪に切れ長の目、凛々しい表情と靭やかなプロポーションが着こなすセーラー服、膝下までのスカートから覗く細くもがっしりと地を掴む足が魅せる佇まいは名高い剣客小町を連想させる。
そんな彼女は鬼閂流陰陽道門派の陰陽師にして鬼閂家御令嬢の肩書を持っているのである。
薙は意識を妖刀に集中、己が霊力を流して夜霧と一体となる。夜霧に自分の霊力が行き渡るのを感じ取ると中段から右へと腰を回しまた刀身を背に置き地面と水平にして構えた。
「妖魔霊断、横一文字薙斬り!!」
一息に身体の反応を一つにして妖刀夜霧を横薙ぎに振るう。距離はかなり離れているが霊力の刃が横薙ぎに伸び眼の前の肉塊が真横に一気に裂け、ドバッと腐汁が溢れた。薙の足元まで広がり届く。
技名に関してはオリジナルで…、自身の名、薙…薙ぐと入れる事で中段による薙ぎ斬りの霊的威力を倍増させた…。所謂呪による強化技である。
しかし薙は汚れるのを気に止めずに腐汁を踏みつけ、本尊を見る。斬り裂かれた肉塊からは腐汁を伴い巨大な体毛がなく腐った皮膚を露わにした巨犬が床に転がり落ちた。
「“ちっ、腐ってやがる。早すぎたんだ!”…とでも言われそうな姿ですわね。
実際、外へ出すには早過ぎたのでしょうから。」
薙の言う通り、肉塊より出て来た巨犬はその形成し切れず、腐った身体を起こして目玉のない目で薙を睨めつける。此方を威嚇し、牙を剥き出しにして口から腐臭に塗れた瘴気を吐き出した。
「多くの犬神を融合させ、多くの命を吸ったであろう呪いの妖獣…。
我が妖刀夜霧がその邪悪と無念を祓いましょう。
我が名は鬼閂薙、呪われし東京を破滅に導く魔女なり!」
この地は東京ではないし、彼女は破滅に導く魔女でもない。この台詞は薙がハマっているライトノベル『陰陽都市東京』の敵キャラ…鬼道憲子の決め台詞である。
この台詞を口にする薙はかなり気持ちが昂っている。今目の前に…自分に敵意を剥き出しにする身体を腐らせた大きな獣は人の術により創造された魔獣なのだろう。薙は魔獣に嫌悪を刃に乗せ、二度構えた。
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