元救国騎士はクソオヤジになり怠惰に暮らしたい!!

濁酒

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子爵ゴルヴェール家の日常…1

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 スヴィールス砦、ヴェルトール王国の門とも言える城塞。二十年前、この砦は陥落寸前まで追い詰められた。近くの川から水を砦を囲んだ広い堀に引いた難攻不落のスヴィールス砦は当時騎士兵士合わせて三千人近くいたが殆どが敗走した者達で別砦、城塞都市は皆陥落…占領され、スヴィールスが文字通り最後の砦であった。
 砦の出入口は城門の吊り橋のみで其処には敵の軍隊一万が砦を包囲、時間を掛ければ水堀も攻略出来る状況であった。…だが堀には油を浮かばせて火が放たれる。砦の上からは弓兵、魔導兵がおり登ろうとする敵を攻撃、時間がかかり過ぎていた。
 そして吊り橋には二人の騎士と一人の魔導士がおり、侵入しようとする敵兵は剣で真っ二つに斬り捨てられ、槍で頭、心の臓を一撃で貫かれ、魔法による火炎で黒焦げにされた。
 吊り橋と云う狭い戦場で敵の大軍はたった三人の守護者によって侵攻を阻まれていた。
 城門を護る剣と槍の騎士が激しく咆哮し、吊り橋を覆う敵兵群に突っ込み次々敵兵をなぎ倒して行く。洩らした兵は一人残らずたった一人の魔導士が雷鎚を頭上に落とした。狭い吊り橋で一万近くの軍隊はたった三人の騎士魔導士に圧えられ、中には逃げ出す敵兵も出て来ていた。
 剣の騎士の名はアーカス・ログレス。今では貴族階級伯爵家を名乗り、ヴェルトール王国騎士団の頂点…総団長の地位を得ている。
 幾多の魔法を操る魔導士はマガーナ・ヴィータス。王立魔導兵団軍団長の地位にいた女性だが現在は王立魔導学院の校長を務めている。
 そして敵軍に鬨の声を上げて突進、敵を薙ぎ払うのは背はあまり高くなく、短髪黒髪強面の無双槍…若き日のマタザ・ゴルヴェール。現在ヴェルトール第四騎士団の団長…禿げ上がったオヤジ子爵である。





 ツンッ…、と頬を何かで突かれた感触マタザを目覚めさせた。眠気眼で右へ頭を回すとそこに彼の頬を指で突ついた全裸の女性…フランソワ・ゴルヴェールが微笑んでいた。

「おはようございます、マタザ様。昨日は素敵な夜でしたわ。」

 夫婦久し振りの営みに頬を染めて寝たままのマタザに擦り寄り抱きつく。

「昔の夢を見たよ…、儂等・・が生き抜いた“スヴィールスの戦い”の夢じゃ。」

 天井を仰いたまま呟いたマタザにフランソワは彼に抱擁して胸板に頬擦りしながら囁く様に答えた。。

「“救国騎士”…と云う十字架を背負ったあの戦いですね。」

 救国騎士とは二十年前の周辺諸国における世界大戦でヴェルトール王国の最後の砦…スヴィールス砦にて城門の吊り橋での攻防を守り切り、敵を防ぎ切った三人の英雄に国王が贈った国家名誉称号である。
 この戦いはフランソワにも忘れられない戦いで彼女がマタザの妻として支える覚悟を決めさせた戦でもあった。

「救国騎士か…。称号を得たところで何が変わるまでもなく…、単に戦に駆り出される率が高くなっただけじゃし十字架に例えるのもありよな…。
ほんっとうに儂はお前や屋敷の者達とのんびり辺境で暮らしたいんだがな~。」

 すると朝の抱擁に満足したかの様にフランソワはマタザから離れダブルベッドから下りるとあまり無い胸にスレンダーなラインをした身体にインナードレスを着込む。17歳の少女と言っても彼女を知らない人間は信じ込むであろう。コンコンッ…と寝室のドアがノックされる音が聞こえた。

「は~い、起きてるわ。入って。」

 フランソワが返事を返し、ノックした人物を招き入れた。

「失礼致します。…って、ふわっ⁉」

 入室して悲鳴を上げたセミロングのメイド…メリィはドアからの灯りで現れた未だベッドに寝そべり頭の後ろで腕組みタオルケットで下半身のみ隠し、尖った八の字の口髭を摘んでは伸ばすマタザの姿に顔を赤らめ即座に背中を向ける。

「ももも、申し訳ございません!いいい今部屋を出ます!!」
「いいわ、メリィ。カーテン開けて?」
「は…、はい…。」

 メリィはベッドのマタザに視線を向けない様に下を向いてそそくさと窓へ行きカーテンを開ける。マタザはベッドから下りてインナーガウンを雑に着、メリィに声をかけた。

「おはようメリィ、毎度フランソワが迷惑かける。」
「おはようございます、御館様。私は全然構いませんので…。」

 どうやらフランソワは度々起きて直ぐにメイドを入室させてはマタザの半ヌードで彼女達が驚く様を見て喜んでいる様だ。

「ウフフフ。おはよう、メリィ。
どうです?このまま旦那様と関係をもってしまって良いですよ。私が許します!」

 ニコニコしながらとんでもない事を口にする妻にマタザは口をへの字にして「馬鹿ゆーでないわ。」…と諌めるとフランソワは二人に屈託ない笑顔で笑いかけた。

「マタザ…さま、がよろしいのでしたら…また日を改めて…。」

 モジモジし始めるメリィにマタザはハゲ頭から冷や汗を滲ませる。

「メリィ、毎度ながらもっと自分を大事にせえ。」

 何が良いか分からないがゴルヴェール子爵家メイド長の位置に立つメリィは現在…27歳、既に婚期を逃してしまった平民の娘ではあるが七年前にマタザに家族の危機を助けて貰ってからはずっとマタザを想い続けていた。フランソワもそれを知ってか度々彼女を妾…2号さんにと自分の夫に勧めているのだ。
 しかしマタザとしては妻は一人と決めているのでメリィには悪いが彼女の想いには応えることはしなかった。
 マタザは着替えをメリィに手伝わせ、フランソワがマタザの落武者ヘアを3本の三つ編みに束ねた。フランソワとメリィが笑顔で頷き合い、声を揃える。

『カワイイィ!×2。』
「勘弁してくれ…。」

 マタザはトホホ…と下を向いて嘆いた。
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