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暴走
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執事を辞め、子爵家を継ぐ。
シズの放った言葉が私を凍り付かせます。
「それは本気?誰かに唆されたか脅迫されて、心にも無いことを言わされているわけではないの?」
「いいえ、間違いなく私が自分で選びました。」
私がせめてもの望みを託し問いかけた質問をあっさりと否定するシズの目は曇りなきものでした。
嘘を見破る魔法を使わずとも、彼が本当に自分の意思でその選択をしたのだと分かります。
私はついに立ち尽くしてしまいました。
ああ、何ということ。
私をじっと見つめるシズが。
勝ち誇った顔をするノーデン夫人が。
私を外へ連れて行こうと近づく者たちが。
全てが私の意識から消失します。
気が付けば、私はぐちゃぐちゃになった感情に任せて魔力を暴走させていました。
まだ私が幼く魔力も完全には開放できてなかった時点でも危険だった魔力の暴走は、今や災害レベル。
それは大広間ごとノーデン子爵家の屋敷を崩壊させるのに十分すぎる威力でした。
窓は吹き飛び、壁は音を立てて崩れ、人間はなす術も無く絶叫しながら崩壊に呑まれていきます。
私が次に意識を取り戻したのは、屋敷が崩れて出来た瓦礫の山の上でした。
ひとまず事態を理解して私は人を探します。
ある者は瓦礫の山に転がっていました。
ある者は瓦礫の下に埋もれていました。
またある者は屋敷が倒壊した衝撃で吹き飛ばされたのか、少し離れた場所で倒れ込んでいます。
それら全て、癒やしの魔法で治しました。
軽い傷で済んだ者もいれば、腕や足が折れたり瓦礫の破片が刺さっていた者もいましたが、もう大丈夫。
私はもうすぐやって来るであろう帝国軍に捕まる前に飛行魔法で自分の家まで飛びました。
そして玄関から最も近い部屋に入ると、着替えもせずベッドに入り眠る準備をしました。
もう今日は何も考えたくありません。
今日はもう疲れてしまいました。
その晩見た夢はいつかのシズとの思い出。
生まれた時から苦しめられてきた呪いから解放した私に当時のシズは分かりやすく好意的でした。
「聖女様、ボク聖女様のお役に立ちたいです!」
ああ、この頃は私のことをそう呼んでいたわね。
執事となってからはお嬢様呼びで、私がいくら言ってもリュミエラとは呼んでくれなかったわ。
「ボクはこのままだと両親の道具になってノーデン家を継ぐことになります。ですが、どうせ道具になるのなら両親より聖女様の道具の方が良いです!」
「ならば、まず自分を道具呼びするのを止めなさい。聞いていて気持ちの良いものじゃないわ。」
本当にこの頃のシズは酷かったわね。
私が現れるまでシズの周りに居たのは、勝手な同情や憐れみを押し付けてくる人や、呪いを持って生まれた彼に嫌悪を感じる人ばかりでした。
呪いは親のせいで、シズ自身は何も悪くないのに。
だから嫌悪を抱かず、一定以上の距離を保つ私と一緒に居る時間が落ち着けたみたいね。
「道具にするのはごめんだけれど、良かったらあなた私の専属執事にならない?」
きっとそんな提案をしたのは私もシズと過ごす時間が落ち着けると感じていたからでしょうね。
「執事?」
「そうよ。家を継ぎたくないとただ我が儘を言うより聖女の専属執事という、子爵家当主と張り合える程度のポジションになった方が良いわ。」
それに、と私は続けました。
「私の家に住み込みで働くなら、同じ家で共に暮らす家族みたいでちょっと違う関係になれるわ。」
シズにとって家族は自分を苦しめる存在。
そこを改善する良い策だと思って提案しました。
「家族みたいで、ちょっと違う…」
シズは少し悩みましたが、やがて覚悟を決めたようにハッキリと告げます。
「執事やらせていただきます!これからよろしくお願いしますね、聖女様。いえ、リュミエラお嬢様!」
ああ、もしかしてそういうことなのかしらね。
私が今の関係を越えようとしているのがシズにバレてしまって、それで逃げられたのかしら。
でも、初めて思ったのよ。
貴方とは家族になりたいって。
シズの放った言葉が私を凍り付かせます。
「それは本気?誰かに唆されたか脅迫されて、心にも無いことを言わされているわけではないの?」
「いいえ、間違いなく私が自分で選びました。」
私がせめてもの望みを託し問いかけた質問をあっさりと否定するシズの目は曇りなきものでした。
嘘を見破る魔法を使わずとも、彼が本当に自分の意思でその選択をしたのだと分かります。
私はついに立ち尽くしてしまいました。
ああ、何ということ。
私をじっと見つめるシズが。
勝ち誇った顔をするノーデン夫人が。
私を外へ連れて行こうと近づく者たちが。
全てが私の意識から消失します。
気が付けば、私はぐちゃぐちゃになった感情に任せて魔力を暴走させていました。
まだ私が幼く魔力も完全には開放できてなかった時点でも危険だった魔力の暴走は、今や災害レベル。
それは大広間ごとノーデン子爵家の屋敷を崩壊させるのに十分すぎる威力でした。
窓は吹き飛び、壁は音を立てて崩れ、人間はなす術も無く絶叫しながら崩壊に呑まれていきます。
私が次に意識を取り戻したのは、屋敷が崩れて出来た瓦礫の山の上でした。
ひとまず事態を理解して私は人を探します。
ある者は瓦礫の山に転がっていました。
ある者は瓦礫の下に埋もれていました。
またある者は屋敷が倒壊した衝撃で吹き飛ばされたのか、少し離れた場所で倒れ込んでいます。
それら全て、癒やしの魔法で治しました。
軽い傷で済んだ者もいれば、腕や足が折れたり瓦礫の破片が刺さっていた者もいましたが、もう大丈夫。
私はもうすぐやって来るであろう帝国軍に捕まる前に飛行魔法で自分の家まで飛びました。
そして玄関から最も近い部屋に入ると、着替えもせずベッドに入り眠る準備をしました。
もう今日は何も考えたくありません。
今日はもう疲れてしまいました。
その晩見た夢はいつかのシズとの思い出。
生まれた時から苦しめられてきた呪いから解放した私に当時のシズは分かりやすく好意的でした。
「聖女様、ボク聖女様のお役に立ちたいです!」
ああ、この頃は私のことをそう呼んでいたわね。
執事となってからはお嬢様呼びで、私がいくら言ってもリュミエラとは呼んでくれなかったわ。
「ボクはこのままだと両親の道具になってノーデン家を継ぐことになります。ですが、どうせ道具になるのなら両親より聖女様の道具の方が良いです!」
「ならば、まず自分を道具呼びするのを止めなさい。聞いていて気持ちの良いものじゃないわ。」
本当にこの頃のシズは酷かったわね。
私が現れるまでシズの周りに居たのは、勝手な同情や憐れみを押し付けてくる人や、呪いを持って生まれた彼に嫌悪を感じる人ばかりでした。
呪いは親のせいで、シズ自身は何も悪くないのに。
だから嫌悪を抱かず、一定以上の距離を保つ私と一緒に居る時間が落ち着けたみたいね。
「道具にするのはごめんだけれど、良かったらあなた私の専属執事にならない?」
きっとそんな提案をしたのは私もシズと過ごす時間が落ち着けると感じていたからでしょうね。
「執事?」
「そうよ。家を継ぎたくないとただ我が儘を言うより聖女の専属執事という、子爵家当主と張り合える程度のポジションになった方が良いわ。」
それに、と私は続けました。
「私の家に住み込みで働くなら、同じ家で共に暮らす家族みたいでちょっと違う関係になれるわ。」
シズにとって家族は自分を苦しめる存在。
そこを改善する良い策だと思って提案しました。
「家族みたいで、ちょっと違う…」
シズは少し悩みましたが、やがて覚悟を決めたようにハッキリと告げます。
「執事やらせていただきます!これからよろしくお願いしますね、聖女様。いえ、リュミエラお嬢様!」
ああ、もしかしてそういうことなのかしらね。
私が今の関係を越えようとしているのがシズにバレてしまって、それで逃げられたのかしら。
でも、初めて思ったのよ。
貴方とは家族になりたいって。
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