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聖女

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私が聖女に任命されたのは10年前、7才の時です。
それまで家族からの愛をほとんど妹に奪われながらも何不自由ない侯爵令嬢ライフを過ごしていたある日。

「リュミエラ・セレナーデ、喜びなさい。君には人々を救う聖女となる資格がある。」

教会の使者を名乗る男がそんなことを告げました。
聖女。おとぎ話に登場するソレは癒やしの力で人々を救い、国に繁栄をもたらせる存在です。
けれど、実際は癒やしの魔法が使えれば誰でもいい。

癒やしの魔法。
傷を治す、病を治す、呪いを祓うといった高難易度の魔法を総称してそう呼びます。
膨大な魔力と人体や呪いに関する正しい知識を合わせ持った人でないと、この魔法は成功しません。

あら、あら。そう言えば真の聖女様は両方とも持っていらっしゃるのですかね?
私の知る妹ローデリカは魔力も乏しく、勉強から逃げてばっかりなお転婆娘でしたけど。

閑話休題それはともかく。私に聖女の力があると聞かされた両親は、たいそう喜んでいました。
そして、私の意志をきちんと確かめることすらせずに教会へ私を送り届けやがったのです。
そこからの日々はわりと苦痛でした。

「聖女たるもの、常に笑みを絶やしてはいけません」

「聖女たるもの、万人に平等でなければなりません」

「聖女たるもの、魔力は癒やしの魔法に使いなさい。待って!本当にやめて!教会壊れちゃう!」

それまでの自由な生活に比べると天と地の差です。
おかげ様で印象操作魔法なんてものを後々作り上げることになってしまいましたし。
便利ですけどね?変装せずとも周囲の印象をいじって私の正体を分からなくさせたりとか。
結果、私が立派に聖女を務めているという印象を教会の人たちは抱くようになり、『聖女たるもの』といった文句を言われることも激減しました。

でも、決定的に最悪なことが起きたのが10才の時。

「聖女リュミエラ様。貴方は我が国の第一王子アダム殿下の婚約者候補に選ばれました。」

第一王子アダム・スティヤート。
侯爵令嬢だった頃から、いい噂を聞きませんでした。
見た目は良いが、中身が酷い。
常に上から目線で、女性に対しては特に酷い。

これは今の私が保証します。マジです。
あの男の頭には女性を尊重する、なんて発想が微塵もありませんでした。
まあでも昔に比べたらマシなんですかね?
何せ真実の愛に目覚めたそうですし?

話を戻しまして、そんな男の婚約者候補になるなんて当時の私も全力で拒否しました。
当たり前ですよね。
でも、あっちが私に執心だったのです。

「来てやったぞ、聖女とやら。さすが教会のシンボルなだけあって、そこらの貴族令嬢共とは違うな。気に入った。度々来てやるから精々もてなせ。」

「おい、私が来てやったのだぞ。聖女の仕事などより私をもてなすことを優先しろ。」

「さすが聖女だな。甘やかされ育った貴族令嬢共と違ってわきまえている。それに、いい意味で地味だ。」

これが当時の王子です。
今も口調とか表面的な部分は直りましたけど、中身が全然変わっていないんですよね。
フレンダに同情するわ。


不自由を強制してくる教会。
女性を、私を見下してくる王子。
寛容な私にも我慢の限界があるんですよ。
というわけで作りました、魔法人形!

私の魔力で動き、簡単なことなら勝手にやってくれる優れもの!私が魔力を送り続ける限り、治癒の魔法も使えるから聖女の仕事は全部任せられました。
王子との会話も人形が見聞きしたものが伝わってきますし、私の声も送れるので問題なし!

面倒なことは人形に任せ、私は自由を得ました。
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