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言葉が通じなければ獣と同じ

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この2日間、ネットやあの家に置かれた数々の本から多くの学びを得ました。
庶民が自主的に学習出来る環境がこれだけ整えられているなんて、日本は素晴らしいですわね。

ええ、私が今いる国は日本。
元いた世界に帰る手段も分からないのに、いつまでもこちらの世界と呼んでいられませんからね。

「…おい!聞いてんのか、クソ陰キャ!」

「無視してんじゃねえぞ!調子乗ってんのか!?」

うるさいですわね、キャンキャンと。

躾の出来ていない犬のように騒ぎ立てる彼女たちは、伊里奈さんの同級生です。
名前は…覚える気もありませんわ。

せっかく日本の学校に来られたのに。
伊里奈さんの教科書だけでは理解が不十分だったものを尋ねられる先生に会いに来たのであって、狂犬たちと戯れるために来たのでは無いのよ。


ことの発端は今朝の話。

「ももも申し訳ありません、イーリス様。どうか私の代わりに、学校へ行ってきてもらえませんか?」

早苗ママがお仕事で家を出たのを見送ると伊里奈さんがその様なことをお願いしてきました。

「あの、土日2日間を丸々寝ておいてまだ休む気かと訊かれると辛いんですけど…身体が、痛いんです…」

だらしないと叱られるとでも思っているのか、完全に最後の方は涙目になっています。
全く同じ顔なのに、どうしてここまで庇護欲を誘う顔ができるのかしら。

「ややや、やっぱり何でも…」

「良いですよ。早苗ママにも伊里奈さんが無理そうであれば助けてあげて欲しいと言われていますから。」

伊里奈さんがこんなにも弱っているのは私を召喚するのに無理をしてしまったから。
早苗ママも私も、彼女にこれ以上の無理はして欲しくないのです。

「あ、ありがとうございます!え、ええと…それで、注意することなんですけど…」


そうして伊里奈さんの制服や鞄などを借りて登校した私は、まず魔術を使って学校全体に私を伊里奈さんと認識するよう暗示を掛けました。
これは昨日、早苗ママに教わったものです。

そのまま靴箱に向かい、伊里奈さんの上履きを取るとそのままゴミ箱に向かいます。
そして中身を捨てました。

 ジャラジャラジャラ

確か、画鋲と言うのでしたか。
踏めばなかなか痛そうな針ですね。

その時近くからクスクスと笑い声が聞こえました。
周囲を見渡すと、私を嫌な目で見てくる人や見て見ぬふりをする人、そもそも興味を持たない人。

ああ、なるほど。これが『いじめ』ですか。

伊里奈さんから、今いじめの対象になっていることは聞いていましたし驚きはしません。
ただ無性に腹が立ちますね。

やがて教室に入り、HRが始まります。
副担任の先生である男性教師が諸連絡を伝え、最後に備品の画鋲が無くなったと告げました。

ああ、見られていますね。
教室の隅にいる5人組が私を見ています。
それから手を上げて、

「先生ー。私たち、星野さんが画鋲をゴミ箱に捨てるところ見ていました。彼女が犯人だと思いまーす。」

見たよね、見た見た!などと騒ぎ立て始めました。

へぇ、そう。そう来るのね?
これはお仕置きが必要かしら。
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