プレパレーション

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第65話

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 大通りまで下りると、母に電話をした。
 帰りたいから迎えに来てほしいと。

 母は父と一緒に迎えに来てくれ、そのまま家まで帰る事に。

 車内の空気は重く誰も口を開こうとしない。結局ほとんど会話もないまま家に着いた。

 忘れていたが私は冬馬さんの家に帰るんだった。一旦家で降りるとそのまま歩いて駅まで向い電車に乗り、冬馬さんの家に向かった。

 冬馬さんの家に着くと、パンパンになった足が怠い。

 ここ何日かでどのくらい歩いたのだろう。

 お腹の調子も良くないし、しばらくはゆっくり休もう。そう思い楽な格好に着替えた。

 しかし、柊生の事をいつまでも放っておけない。せっかく受かったバイトも行かないといけない。悲しむ時間なんて私にはないのだ。

 お母さんにもらった婚姻届をカバンから出す。

 これって死んだ後でも出せるのかな、そしたら私は未亡人?なんて不謹慎だが考えてしまった。

 この部屋も引き払うんだろうな。もう来れなくなる、そう思うと一層寂しく感じた。

 冬馬さんのお母さんは私がここにいる事を知らない。落ち着いたらちゃんと言わないとな。柊生にも一先ず連絡しておかないときっと心配してる。

 私は柊生に電話した。

 プルルルル‥‥。

「もしもし、ももちゃん?よかったぁ。ずっと連絡待ってたんだよ」

「ごめんね。少し落ち着いたから、ちゃんと説明するね。今どこ?」

「今はちょっと出掛けてるけど、すぐ帰れるよ」

「じゃあ公園でもいい?」

「いいけど、寒くない?」

「うん、外の方が話しやすいかなって思って」

「わかった、これから向かうよ」

「私も行くね」

 私は電話を切ると、暖かくしてアパートを出た。

 柊生と公園で待ち合わせをするのは久しぶりだ。

 私が公園に着くと、柊生はすでに来ていた。

「ももちゃん!」

 柊生はそう言って私に抱きついてきた。

「子供みたい」

「だって会いたかったから」

 そうだ、この子犬感が私は好きだったんだ。少し癒された気がした。

「とりあえず座ろうよ」

「うん、これ持ってきたから使って」

 柊生はわざわざブランケットを持って来ていた。

「ん?こんなの持ち歩いてたの?」

「一回家に取りに帰った」

「ありがとう」

 この優しさも今の私には沁みる。

「それでどうしたの?」

「うん‥‥冬馬さん‥‥店長が死んだの」

「えっ‥‥」

 柊生は目を見開いて驚いている。

「だからお葬式とかでバタバタしてたの」

「なんで」

「車に轢かれちゃったんだって」

「そんな‥‥ごめん俺、何も知らずにあんなこと言って」

 柊生はとても申し訳なさそうに下を向いている。

「仕方ないよ」

「でも‥‥大丈夫なの?」

「なにが?」

「落ち着いたとは言ってたけど、気持ちの整理とかさ‥‥」

「うん。気持ちの整理は出来ないよねやっぱり。正直今でも辛いよ」

「そうだよね。なんて声かけたらいいのか分からないけど、俺に出来ることならなんでもするからさ」

「ありがとう。私しばらくは冬馬さんの家で過ごそうと思ってる」

「うん、気が済むまでいたらいいと思うよ」

「だから連絡取れなくても心配しないでね」

「わかった」

「それだけ伝えたくて」

「でも会いたい時はすぐ言ってよ」

「もちろんだよ」

「風邪ひかないように暖かくして寝てよ」

「わかってるよ」

 柊生はあまり深く聞かないでくれた。
 
 私たちはそのまま公園で解散し、それぞれ家路に就いた。

 
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